第51話『新たな技能』
王様に亜人の国に行くと告げてから、俺たちは宿屋に戻って明日に向けての準備を進めていた。
移動は基本的にルゼルスと俺の魔術を用いる予定だ。
荷物に関しては殆どセンカが影に収納してくれる予定。それでかなり重量を減らすことが出来るしな。
そして現在、その荷物運び担当のセンカは旅の間に必要になるであろう食料の買い出しに行っている。
センカは自身の影に物をいくらでも収納できるのでうってつけの買い物係だ。
本人も希望していたという事もあって十分な金銭を持たせて送り出している。付き添いでルゼルスも同行しているので万が一の事があっても問題ないだろう。
「だから準備と言ってもセンカとルゼルス待ちなだけなんだが……あ、そうだ。なぁチェシャ。お前、亜人国について何か知ってるか? それについてはまだ聞いてなかったからな」
準備と言うなら、事前に行く先の国の情報を仕入れることも準備だろう。
俺はこの中で唯一亜人国『スプリングレギオン』についての情報を持っていそうなチェシャに尋ねてみる。
「肯定。亜人国についての情報は記憶している。もっとも、周知されている事柄以上のものはない。亜人国『スプリングレギオン』とアレイス国は友好関係を結んでいるから大抵の事は調べれば分かる」
ああ、そうか。魔人国とは友好関係を結べていないからその内情は全くと言っていいほど分からないが、亜人国とは友好関係を結んでいるからある程度の情報は調べれば出てくるのか。
しかし、わざわざ調べるのも面倒だ。亜人国についてはチェシャが色々と知っているみたいだしこの機会に教えてもらうとしよう。
「そうか。それじゃあお前の知っている事だけでもいいから教えてくれないか?」
そう頼んでみた。当然、チェシャは快く引き受けてくれると思ったのだが――
「了承。だけど、その前に渡しておきたいものがある」
そう言ってチェシャは亜人国に関する説明を後に回す。
まぁ、そういうのはセンカやルゼルスが戻ってきた後にやるべき事か。
しかし――
「渡しておきたい物?」
チェシャが……俺に? 一体なんだろう?
俺が内心ドキドキワクワクしていると、チェシャはそれを手に取った。
それは球状の物体だった。
全体的に白く、しかしところどころに赤い線のようなものが走っている。
また、一部分は黒で塗りつぶされている。そんな物体。
そう――それは人間の眼球にとてもよく似た……というか、そうとしか思えないものだった。
俺の胸の内にあったドキドキワクワクがどこかに消え去り、恐怖すら感じる中……チェシャは何でもないことのように驚きの一言を言い放つ。
「食べて」
「嫌だよ!!!」
誰が好き好んで眼球にしか見えないそれを食うんだよ!?
俺が全力でそう拒否する中、当のチェシャは首をかしげる。なぜ俺が否定しているのか分からない様子だ。
俺はそんな彼女にこの悍ましい物を食うメリットがどこにあるのかと問いただす。
「そもそも、これ食ったらどうなるって言うんだよ? なんか新しい力にでも目覚めるのか? それなら食ってやってもいいが――」
「肯定。これは鑑定技能を持っていた者の眼球。鑑定の技能はその者の瞳に宿る。つまり、これを体内に取り入れれば鑑定の技能が手に入る」
そして見事……カウンターを喰らってしまった。
背中から冷や汗がぶわっと出てくる。
そう……かぁ。これを喰ったら鑑定の技能……手に入っちゃうかぁ。
いや、しかしそんな話は聞いたことがない。その点だけを頼りにして俺は反抗を試みた。
「いや、だけどそんな話は聞いたことがないぞ? 証拠はあるのか証拠は? あぁん?」
もはや昭和のヤンキーの如くけんか腰になる俺。まぁ無理もないだろうさ。だってあんなグロいの食いたくないもん。
そんな俺に臆することなく、チェシャは変わらず機械的に答える。
「既に実験結果はいくつも出ている。副作用は今まで確認されていない。必要ならばその詳細も渡せるけど必要? ただ、実験の指導者と被検体に関しては黙秘する。極秘の案件」
俺の抵抗に対し、完全に逃げ道を断ってくるチェシャ。
これは……もう食うしかないのでは?
しかし、いや、でも……なぁ?
だけど、でも鑑定技能か……。センカの影使いのように面白い技能持ちを見つけられるチャンスも増えるし、相手の力が分かっていればうまく立ち回れるだろうし手に入れておきたい技能だし……。
「ぐぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬ」
食いたくない。でも鑑定技能は欲しいという欲望と忌避感の戦いが俺の中で勃発する。
そうして迷った末に残ったのは――
「ええい! 食えばいいんだろ食えばぁ!!」
「あ――」
鑑定技能が欲しいという気持ちが勝った俺はチェシャから半ば奪い取るようにしてその眼球を手の内に収め、そのまま思いっきり飲み込む。
そのまま流し込みたかったが、ある程度は潰しておかないと大きさ的に呑み込めないので嫌々でも
果たしてそのお味は――
「ぶぐぉぉ(まっずっ!?)」
果てしないほどに不味かった。
そりゃそうだ、食用じゃないもの。人間の口に合うように作られた食材と比べて劇的に不味いのは当たり前だ。
「み、みず……」
俺はさ迷うようにして水を求める。
「はい、ラー君♪」
そんな俺の欲する水をルールルが手渡してきてくれたので、俺はそれを受け取って一気に飲み干す。
「ぷはぁっ! っしゃあ! 食ったぞ。食ってやったぞぉぉ!!」
偉業を為したかのように叫ぶ俺。(実際はゲテモノを食しただけである)
そんな俺を見てチェシャは一言。
「驚愕。粉末状に加工して飲むのが一般的。吐き出さずによく飲めた。重ねて驚愕」
「じゃあ粉末状にしてから渡せやぁ!!!」
もう荒ぶりまくってる俺。なんか無駄に疲れる……。
「あははははははははははは! さすがラー君です。見ていてルールルはとても面白かったですよ?」
「こっちはぜんっぜん面白くないけどな!!」
本当に余興を見ているかのように外野で楽しそうに笑ってこちらを見ているルールル。
だが、ゲテモノを喰わされたこっちからしたらたまったものじゃない。
「ルゥ、それは残念です。それで……どうですか?」
ルールルが笑みを絶やさないまま、俺に尋ねてきた。
「どうって……ああ、そうか」
チェシャのいう事が正しければ、あのゲテモノを喰ったことで俺には鑑定の技能が追加されたはず。
「ステータスオープン」
そうして今の俺のステータスが現れる。
★ ★ ★
ラース 16歳 男 レベル:99(MAX)
種族:人間種
HP:4353/4353
MP:251676/上限なし
筋力:1671
耐性:1197
敏捷:1318
魔力:11077
魔耐:12204
技能:ラスボス召喚・MP上限撤廃・MP自然回復不可・MP吸収・魔術EX・炎属性適性・魔力操作・
★ ★ ★
「おお、本当に追加されてる」
俺はその鑑定技能を使用するためルールルやチェシャのステータスを鑑定技能で閲覧しようとする。
しかし、ただ見るだけではダメなようだ。
確か鑑定持ちの人は――こうやっていたか。
「鑑定――ステータス閲覧」
そう呟くと、視界に入れていたルールルとチェシャのステータスが目の前に表示された。
内容は以前と変わらずだ。
「よし、これで出来る事の幅が増えたな」
ぐっと拳を握りしめて新たな力を得たことを喜ぶ。
そんな俺に、チェシャの忠告が飛ぶ。
「鑑定技能は便利。しかし、過信は危険。鑑定を誤魔化す技能もこの世界には存在する。そこに映し出された情報が絶対的に正しいわけではない」
なるほど。
ようは鑑定で得られた情報は参考程度に見るのが適切って事か。
まぁ、それでも便利な技能である事は間違いないだろう。重宝しよう。
こうして俺、ラースは鑑定技能を手に入れた!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます