第47話『降って湧いた情報』


 ――アレイス王国。城下の宿。


「もう俺たちはこの国から出ていくべきなんじゃないか?」


 王様達が多忙そうだったので、邪魔しては悪いと思って(※ここ重要)一時撤退した俺達『黒十字の使徒』メンバー+チェシャ。

 現在、俺たちはアレイス城の城下町にある宿屋にて今後の方針について話し合っていた。


「もうこの国にダンジョンは多分数えるくらいしかないだろうし、別の国に行ってもいいと思うんだ。それに、ほら、なんていうか俺達……この国ではほんのちょっぴりやり過ぎちゃってるみたいだし?」


「ほんのちょっぴり……ですか?」


 ジト目のセンカから軽く睨まれる。

 うん、ごめん。ほんのちょっぴりどころかかなり迷惑をかけてるっぽいね。王様には心の中で謝っておこう。ごめんなさい。


「別の国……ねぇ。いいんじゃないかしら? 確か人間の国であるアレイス王国の他に……亜人種の国と魔人種の国があるんだったかしら?」


 ルゼルスが会話を軌道修正してくれたので、それに乗っかる。


「ああ。亜人種の国の名は『スプリングレギオン』。魔人種の国の名は……不明って言われてるな。国の名が分からなくなるくらい国交が途絶えてるって訳だ」


「ふぅん。それで? どちらに行くの?」

「このアレイス王国から別の国に行くなら亜人の国の方が楽だな。ただ、魔人の国にも直接行けるっちゃ行ける。まぁ、その場合は誰も帰ってきたことがないらしい険しい山々を越えなきゃならないみたいだけど……」


 楽な方を選ぶのならば亜人国だ。

 だが、俺はどっちかと言うと魔人国の方に行きたいと思っている。センカも半分魔人種の血が混じっているし、どちらかというと魔人国の方に興味があるだろう。



「となると魔人国――」


 そう俺が行く先を告げようとする直前――


「ラース。私は亜人国に行くべきだと思う。そこにはラースの望む情報があるかもしれない」


 基本的に会話に参加することがなかったチェシャが亜人国行きを提案する。


 だが……俺の望む情報だって?


 俺は特に何も言わず、視線で続きを言うようにとチェシャを促す。


「このアレイス王国から別の国に行くのなら亜人国『スプリングレギオン』に行く方がいい。魔人国に行くには前人未到の『ダインスクレイブ山脈』を越えなければならない。あなたたちならば越えられるかもしれないけど、危険は避けるべき」


 チェシャは「そして――」と続け――


「亜人国『スプリングレギオン』の王である竜人王『スズキ・ケンイチ』はラースが欲している『主人公召喚』技能について何か知っている可能性がある。それに、魔人国に行くにしても亜人国を横断した方が危険は少ない。だから私は亜人国行きを推奨する」


 新情報をいくつもぶちまけてきた。

 それに対し俺は「待て待て待て待て」と全力で待ったをかける。


「え? なに? 亜人国の王の名前が……えと……鈴木すずきっていう名前で? そいつは『主人公召喚』技能について何か知っている可能性があって? 魔人国って亜人国を横断する形でもいけるの?」


「肯定」


 こくりと、常識であると言わんばかりに頷くチェシャ。

 だが、こっちからしたらそんなの初情報すぎる。いきなり降ってわいた情報に驚くしかない。


「ラース、スズキって……」


 ルゼルスが俺と同じように亜人国の王『スズキ』の名前に反応する。

 俺の記憶をルゼルスは継承してるからな。同じように引っかかったんだろう。


「ああ、分かってる。まず間違いなく異世界人……それも俺と同じ日本人だな。俺と同じように前世の記憶を取り戻した奴かもしれない。名前に関しては後で改名したって可能性もあるな。もしくはそのまま存在ごと異世界から召喚されたか……とにかく異世界絡みなのはほぼ間違いないだろ。たまたま『スズキ・ケンイチ』なんて名前がこの世界にぽんと現れるとは到底思えない」


「そうよね」


 ルゼルスと意見が合致する。

 なるほど。そいつが俺と同じ異世界人なら確かに『主人公召喚』技能について何か知っている可能性があるだろう。


「ラース様、もしかして亜人国の王様とお知り合いか何かなんですか?」


 ルゼルスと二人で話している中、会話についていけていないセンカが疑問をぶつけてくる。

 センカには俺が違う世界の――日本人であった頃の記憶を一部受け継いでいる事は既に伝えている。

 だが、鈴木という名前が日本のよくある名前ナンバー2にランクインしている名前だなんて話はしたことがないから会話に付いていけていないんだろう。



 俺はその辺りの事をセンカに軽く説明する。

 そうして改めてチェシャの方に向き直った。


「なるほどな。確かにそれなら亜人国の方に向かうべきだろう」


「ん」


「だが……一つだけに落ちないことがある。チェシャ・カッツェ。一つだけ質問してもいいか?」


「了承。な――」



 俺はチェシャが何かを言い終えるよりも先に、その喉元に腰にあった剣の切っ先を突き付けていた。


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