第46話『暇だから―ー』
アホ貴族との決闘の後、俺たちは暇だった。
ダンジョンを潰しに行きたいのだが、そのダンジョンがどこか分からないのだ。
今までは王様からの指令に従って様々なダンジョンを潰しに行っていたのだが、その指令が最近は来ない。
仕方なしに、俺たちはギルドから適当な依頼を受けて、地上を
途中――チェシャも合流して魔物を刈っていたのだが、さすがは王の隠密さん。地上の魔物相手ならば余裕で対処していた。
そうして……半年が経過。
その間も、俺たちはギルドの依頼を受けたり、時には『黒十字の使徒』として教義に違反した者がいないか探索したりもしていた。
教義に違反して魔人種を売買している組織を見つける事もあり、その場合はこれを生かさず生かさず殺さずの精神で天罰を下し、町などでさらし者にしたりもした。
しかし、それでもやはり暇だ。
半年もの時間が経過しているというのに王からの指令は一向に来ないのだから。そろそろダンジョンを潰してMPをガッツリ稼ぎたいというのにだ。
まぁ、新たなラスボスを永続召喚するMPは貯まっているんだけどな。
単純に安心安全に召喚できるラスボスが今のところ思い当たらない為、とりあえず溜めっぱなしにしている感じだ。
一応、王の隠密であるチェシャに直接確認しに行ってもらったが、今は任せられる依頼はないとの事だ。ダンジョンが見つからないのだと言う。
ついでに『王様はもう少し大人しくしてくれと懇願していた』とチェシャが言っていたが、これについてはよく分からなかった。最近の俺たちは大したことはしていないはずだ。まぁこれまで通り大人しくしていれば問題ないだろう。
ダンジョンの発見は困難だと以前、王から聞いているが、それでも半年も時間が空いたことは今までなかった。
そこで俺は思った。
「(もしや……あの王様、地上の魔物が少なくなったことでダンジョン探す必要が薄くなったとさぼっているのでは?)」と。
それを確認するため、俺たちは王様の城へと乗り込んだ。もちろんアポなしでだ。
★ ★ ★
――アレイス王国。王の間。
「たのもう!!」
「たのもー」
『黒十字の使徒』用の仮面を付けた俺とルールルが先頭に立ち、王様が居る部屋に繋がる扉を開けた。
城に出向いたのは『黒十字の使徒』メンバー+チェシャの合計五人だ。
チェシャだけは黒十字の使徒として活動していないし、いざという時の繋ぎに使えるので仮面を付けさせず素顔を晒してもらっている。
さて、アポも取らず、堂々と城の正門から乗り込んで王の間に通じる扉をあけ放った俺達だが、そんな無礼極まりない事をしているというのに周囲の兵士達はこちらの邪魔をしてくる様子はなかった。
「くすくすくす。ラースもずいぶん男前になったものね」
「はい! 怖い者知らずで我が道を行くラース様も素敵です」
そうして俺達『黒十字の使徒』は王様の所まで出向いた訳だが――
「おいボールド! いい加減この貴族の首を切らぬか? 陳情ばかりで対応が面倒だぞ」
「ダメに決まってるでしょう! このクラリス公は大きな発言権を持っている貴族ですよ!? それに、陳情の内容はどれも正当なものばかり。これを理由に裁いてはただの暴君ですよ」
「ぬぅ……」
「そもそも、王が黒十字の使徒に好き勝手やらせるからこのような事になるんですよ! この前もあいつら勝手に犯罪組織を壊滅させてましたよ!?」
「良い事ではないか!! ああ、実によい事ではないか! 何が悪い!?」
「悪いとは言いませんけどあいつらやりすぎなんですよ! 組織のメンバー全員を町でさらし者にしたりねぇ! しかも、それだけじゃありません。組織のメンバーだった者は何があったのかと詳細を聞くだけで顔を青ざめさせて失禁し、果てには気絶する始末と言うではありませんか。黒十字の使徒の名前を出しただけで床に頭をこすりつけていたと報告が上がっていますよ。一体何をされたのやら……」
「加減を知らぬ奴らだからなぁ……」
「だからと言ってここまで好き勝手されてはたまりません! ほら、これ!! これはその犯罪者をさらし者にされてた町からの苦情ですよ! 町の住人やそれを管理している貴族からのものです!!」
「分かっておるわ! ならお主があやつらに面と向かって『もう少し大人しくしろ』と言えばよいだろうが。骨は拾ってやるから安心しろ」
「それは私に死ねと言ってるんですか!? そうなんですよねぇ!?」
「心配するな。奴らはこちらが理不尽な扱いをしない限り手は上げてこない。実際、奴らは定めた教義に違反した者にしか裁きを下していないだろう?」
「まぁ……確かに……。分かりました。では次にあの黒十字の使徒に会う時があればこちらの要望を伝える事にします」
「うむ、頼んだ。……あやつらがそれに耳を傾けるとは微塵も思えんがな……」
「王!!」
「ええいうるさい! どうしようもないであろうが! うだうだ言っている暇があれば貴様もこの書類の山を消化せい!!」
「「ぬおおおおおおおおお」」
――なんか王とそのお付きの人達が必死過ぎる形相で山のような書類と戦っていた。
思いっきり扉を開けたのだが、誰もこちらに気付いていない。
「「「………………………………」」」
黒十字の使徒(+チェシャ)たる俺たちは仮面越しにお互いを見て、うなずき合う。
そして……入ってきた時とは正反対にそーっと王の居る部屋に通じる扉を閉じた。
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