第44話『一歩』
そうしてアホ貴族との茶番を終えた俺達『黒十字の使徒』。
静かにアホ貴族の遺体は運び出され、観客たちも幾人か席を立っている。
しかし――この場は使えるな。
「ルゼルス。俺の声を会場中に響くようにできるか?」
「もちろん出来るけれど……何をするつもり?」
ルゼルスの問いに俺は満面の笑みを浮かべ、こう答えた。
「決まってる――宣戦布告ってやつをかますんだよ。既に教会は滅んだ。だけど、それでも差別意識ってやつはそう簡単にはなくならない。それに、ダンジョンに関しても色々と気がかりな点があるしな」
「というと?」
「今回、貴族の間でダンジョンについての情報が出回ってしまっただろ? 王様はダンジョン立ち入り禁止令を出すだろうが、あのアホ貴族みたいに先走る貴族は絶対に出てくるはずだ。それは人類的にあまりよろしくないだろ? 別に正義の味方を気取るわけじゃないが、そんな先走ったアホのせいで関係ない人たちにまで被害がいくのは……な」
「そうね。私も人類を抹殺しようとした魔女だから強くは言えないけれど、それでもあんな馬鹿達の為に善良な市民が血を流すことになるのは腹立たしいわね」
「だろ? それに、貴族に情報が出回ったってなると市民にもいつかダンジョンの情報が流れるだろう。そうなると欲に満ちたやつらがダンジョン攻略に乗り出してしまう。そうなったら人類側の被害は大きくなる一方だ」
そこまで言って、俺はルゼルスやセンカ、そしてルールルの方を見る。
「だから……そういう面倒な奴らに対し、この場で大々的に喧嘩を売りたいと俺は思ってる。ここで力を示した俺達『黒十字の使徒』が抑止力として楔を打つんだ。魔人に対しての差別を止めない者には天罰を。王の定める禁止区域に侵入せし者にも天罰を……ってな感じでな。強大な力を持つ俺達を相手にしたくない奴はそれで大人しくなるはずだ。もちろん、多くの相手を敵に回してしまうって危険もあるが……どうかな?」
これは俺の一存では決められない。
これは簡単に言ってしまえば、多くの人間に対して脅迫行為を行うという事。
一歩やり方を間違えれば、今まで積んできた『黒十字の使徒』としての名声が地に落ちる。
渡らなくてもいい危険な橋を、俺は渡ろうと持ち掛けているのだ。
三人のうち、誰か一人でも嫌だと言えば俺はこの提案を取り下げるつもりだ。
そんな俺の勝手な提案に対する三人の答えは――
「ルールルはラー君に従いますよ~。全てはあるがまま。なるようになります。この世はそういう風に出来てるんです♪」
「センカはいつだってラース様に付いていくだけです。無茶な事や、馬鹿なことをしそうな時は止めます。でも、ラース様が考えて、それでもやろうって思ったことならセンカは止めません。だって、そんなラース様のおかげでセンカは今こうして幸せに生きていけてるんですから」
二人は俺に従うと俺の提案を快諾してくれた。
残るは……ルゼルスだ。
「くすくすくすくすくすくすくすくすくす」
ルゼルスはただ、笑っている。
「ルゼルス?」
訝しんだ俺は彼女の名を呼び、次の瞬間――彼女に抱きしめられていた。
「んんん!?」
「「あっ!!」」
驚愕の声を上げる俺とセンカ達。
その声が届いているのかいないのか、ルゼルスは熱に浮かされたかのように言葉を紡ぐ。
「いい、いいわ、すっごくいいわ、ラース。そうよ。私たちは正義の味方なんかじゃない。ただ、やりたいようにやるだけ。誰かを救うのも、馬鹿を裁くのも、全ては私たち次第。そうやってこの世界をかき回してかき回してかき回して――」
「――私たちの望む、争いのない理想郷を築き上げましょう――」
仮面越しに、ルゼルスは俺の顔をまっすぐ見て理想を語る。
それは、果たすことのできなかった彼女の悲願。
それをこの世界で果たそうと――そう言うのか。
面白い。
「いいな――それ。せっかくラスボスと一緒に何かを成そうとするんならそれくらいの目標は欲しいよな」
「ええ、ええ、その通りよ。私たちは勇者じゃない。ラスボスなのよ。望む物はその力で無理やり手に入れる。奇跡も希望も要らない。ただあるものだけを使って、望みを叶える。それこそが私たちのあるべき姿よ」
「そうだな。勇者は奇跡を起こすが、ラスボスはその圧倒的な力でもって望みを為す。根性論なんかに頼らず、思考を巡らせて望みを叶える。今からやることはその一端に過ぎない。そう言う事だよな?」
俺の問いかけに対し「くすくす」と笑みを見せるルゼルス。どうやら俺の出した答えはお気に召したようだ。
さて……そうと決まればやるか。
「やるぞ、ルゼルス、センカ、ルールル。まずは人類に対し宣戦布告だ。ここからこの世界を俺たち好みの物に変えてやろう!!」
「ええ!」
「はい!」
「ルゥ♪」
そうして『黒十字の使徒』たる俺たちは世界をかき回すための第一歩を踏み出した――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます