第42話『アホ貴族は破滅への道を爆走する-4』


 ――アホ貴族(キルゲン・アークライト)視点


「(下らん)」


 私は決闘が始まるまでの間、響く審判の戯言ざれごとを聞かされて不快になっていた。

 いや、それだけではない。先日の勇者の小僧の態度。王の態度。何より目の前に居るたかが宗教団体が自分を舐め腐っているように見えるのがとにかく気に入らない。


 思えば、父や母も私にそんな視線を度々向けていたように思う。

 既に私の武は父をも超えている。それに関しては父自身も認めるところだ。

 だが、それでも父は私を後継者として不足だと言う。頑なに『もっと周りを見て考えろ』というだけだ。

 なんだそれは。周りをいくら見渡そうが誰もが自分よりも劣る凡愚ではないか。





 圧倒的なまでの武を持つ勇者は愚かで、私が知略をもって戦えば勝てる程度の凡愚。

 多少知恵を持つ貴族もいるが、それも私の智謀には敵わず、保有している武力も私に劣る程度の凡愚。


 凡愚――凡愚――凡愚――総じて凡愚だ。


 まぁ、そうは言っても私は勇者や他の貴族に対し、それなりに敬意を払っているつもりだ。仮に正面から相対した場合、警戒が必要な相手だと認めてはいるからな。


 だが……目の前に居る『黒十字の使徒』とやら。こいつらに対して私は一切の敬意を払わないし、脅威とは微塵も感じていない。


 当然だろう? この手の宗教団体というのは自らの行いを誇張するものと相場が決まっている。

 流れてきた噂によると、この『黒十字の使徒』とやらは様々な村に突如として現れ、たまたま襲ってきた魔物から住民を守り、神の御使いとして崇められているらしい。


 つまり――田舎にある村をいくつか救った程度でいい気になっているという訳だ。


 そんな者達が自分より優れている? そんな事、信じられるわけがない。それに相手はたったの四人。対するこちらは五百だ。

 戦場での数の優位と言うのは必ず存在する。


 そのうえ、こちらの部隊に属する多くが冒険者の基準でいう所のB級なのだ。この世界にA級の実力の者が数人しか居ない事を考えると、最強の部隊と言って過言ではない。


 ゆえに――この私に負ける要素などない。



『それでは参ります――開始!!』



 そうして――勝敗の分かりきった決闘が開始される。



「ゆくぞ! いつも通り、私の指示に従え。勝利は我が手にあり!!」


 ――おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ


 幾多の戦いを共にしてきた部下の頼もしき雄たけび。

 私はそれに応えんがため、指示を飛ばしていく。


「第二隊は右側面に展開。第三隊は左から回れ。第一隊はこのまま私と共に突撃。他の隊は遊撃だ。副将の指示に従い展開を――」


 そこまで指示を飛ばした時だった――



「通常召喚。対象は――クルベック・ザ・グロステリア」



 黒十字の使徒の内の一人がこちらにも響く声で召喚魔法を使う。

 あやつ――召喚士か。

 だとすれば笑わせてくれる。召喚士は外れ枠で、大したことがない存在だ。


 やはり、私の敵ではないな。


 そうして――黒十字の使徒の前に一人の人間が現れる。

 面妖な衣服に身を包む黒髪の青年。

 特に武器を持っているわけでもなし――大したことのなさそうな存在だ。


 とはいえ、本当に普通の青年というわけではないだろう。そもそも、人間を丸々一人召喚できる召喚士なぞ聞いたことがない。


 そう言えば、勇者殿は黒十字の使徒をかなり警戒していた。召喚されたこの男も、もしかしたら只者ではないのかもしれん。用心しておくに越したことはないだろう。


「総員警戒」



 無闇に突っ込むような愚は犯さず、まずは様子を見る。

 そうして様子を窺っていると、青年は懐から見慣れぬ道具を取り出した。

 そして――青年はその道具を天に掲げ叫んだ。


「起動せよ――アルヴェル!!」


 青年が叫ぶと同時に、青年が先ほど取り出した道具が変形していく。

 元々は手のひらに乗る程度だったソレは少年自身をも取り込み、巨大な何かへと変形していく。


 そして――


「なん……だ……これは?」


 そうして現れたのは――通常の人間よりも数十倍も巨大な……鋼鉄の巨人だった――


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