第41話『アホ貴族は破滅への道を爆走する-3』
――アレイス王国。巨大円形闘技場
闘技場には、貴族を始めとした大勢の観客が居た。
と言っても、この決闘の意味を理解しているのは貴族とその関係者のみだろう。他はただのお祭り感覚で来た奴らだ。
そうしてその闘技場の中心にはアホ貴族こと……あれ? あの貴族の名前なんだっけ? まぁいいや。とにかくそのアホ貴族が闘技場の中心に居た。
「ようやく来たか。遅かったではないか、エセ宗教団体。てっきり怖くて逃げだしたのかと思ったぞ?」
なぜか既に勝った気でいるアホ貴族。その自信がどこから出てきているのか本気で聞いてみたい。ある意味、哀れを通り越して感心するレベルだ。
それに対し、俺達『黒十字の使徒』側はというと――
「………………………………」
無言。
黒十字の使徒は神の御使いであり、基本的に謎の存在でなければならない。
まぁそんな存在がなんでこんな目立つ決闘なんか受けてるんだという話でもあるのだが……とにかく、黒十字の使徒の基本イメージは『謎の神秘』なのだ。
だからそのイメージが崩れるような発言はしない。ここにいる面子、俺も含めて喋ったら神秘的な雰囲気が消え去りそうだしね。
「――ふん。臆して声も出ぬか。まぁ無理もあるまい。今からここで行われるのは決闘ではない。ただの虐殺だ。見よ……これが私が率いる一軍だ!!」
そうしてアホ貴族が自身の後ろに控えていた一軍を指し示した。
そこには、剣を構えた美麗な騎士たちが並んでいた。
総勢約五百。こちらが四人なのに対し、あちらはその百倍以上の数だ。
「彼らは最低でもC級の魔物を屠れるほどの猛者だ。中にはこの私のようにB級の魔物を相手できるほどの者も居る。さぁ、どうする? 負けを認めるならば今の内だが?」
な……んだと!?
貴族様のその発言に驚きを隠せない俺。
俺が驚いたことが伝わったのか、アホ貴族がさらに調子に乗って煽ってくる。
「くくく。驚くのも無理はあるまい。なにせ私も、そして彼らも冒険者の基準で言えばほぼB級。世界に数人しか居ないと言われているA級の一つ手前の猛者揃いなのだ。どうだ? ほいほいと決闘を受けてしまった自分の愚かさが少しは理解できたか? 今ならば土下座くらいで許して――」
その後も、色々とこちらを煽るアホ貴族だが、こっちはそれどころじゃなかった。
えと……つまりはなんだ? こいつ――
「(え? こいつ……たかがB級の腕前で抱えてる最高戦力もB級止まりでしかないのにあのA級冒険者の更に先を行っている勇者君にあれだけ強気だったの!?)」
あの勇者『コクウ』君と彼が率いるパーティーは王様やら俺やらと何度か模擬戦をして、その実力をメキメキと伸ばしている。
三年前の時点でもあの勇者は冒険者のランク付けでいうとA級の真ん中か上の方の実力だった。
それがルゼルスやセンカ、果ては俺が召喚した他のラスボスとの戦いを繰り返したのだ。嫌でも強くなる。
いくら二人や俺が召喚したラスボスが本気じゃなかったとはいえ、生き残るのは至難の業だ。その試練に耐え、無事生き延びた勇者君が成長していない訳がない。
そうして今の勇者君は冒険者の基準では表せないくらいの強さとなり、元は人類で最強の戦士と言われていたらしい王様をも上回っている(とはいえ、そんな勇者君達もルゼルスやセンカには敵わないんだけどね)。
――で?
そんな今や(俺達を除いて)人類最強と言ってもいい勇者君にB級の実力しか持たないこのアホは『軍を率いていれば勇者殿にも負けはしない自信があります』なんて豪語してたの?
無理だからね? B級のお前らが何千人集まっても勇者君とそのパーティーに勝つなんて無理だからね?
このアホ貴族のアホさ加減に言葉を失い、言葉も出ない俺。
そして――
『観客の皆さま、お待たせいたしました。これより始まりますはキルゲン卿と『黒十字の使徒』による決闘です』
――ウォォォォォォォォォォッォォオォォォ
なんか始まった。
解説者っぽい人の声が闘技場全体に響く。何かの魔法でも使ってるのかな?
なんて思ってる間にも解説者っぽい人の話は続く。
『キルゲン卿はなんとアークライト領を治める知恵者、キンデル卿のご子息であり、今回は精鋭の一団を率いての決闘となります。その数五百! 対して黒十字の使徒は……なんとたったの四人! しかし、彼らは巷で神の御使いとも言われている者達です。侮ることはできない!!』
「ふんっ――見る目のない奴だ。侮れないだと? 馬鹿め、勝敗など分かりきっているであろうが」
解説者っぽい人の説明が気に食わなかったのか、アホ貴族ことキルゲン卿とやらは悪態をつく。
その後も、王の宣誓なり勇者のスピーチだったりとやたら長い前置きがあり、そして――
『それでは参ります――開始!!』
俺とアホ貴族との決闘が遂に開始された。
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