第39話『アホ貴族は破滅への道を爆走する-2』
「今こそこの私――キルゲン・アークライトが『黒十字の使徒』に決闘を申し込む!!」
俺に手袋を投げつけながらアホ貴族は決闘を申し込んできた。
あまりにも予想外の展開。
それに対し、予想もなにもしていなかった俺は――
「へ? あ、はい」
――『黒十字の使徒』っぽい態度を取ることを忘れ、つい決闘の申し出を受けてしまう。
「お、お待ちくださいキルゲン卿!! それはあまりにも無謀です!!」
そんな中、唯一まともに動いたのがかの勇者君だった。
彼は真剣な表情でキルゲン卿とかいうアホ貴族を止めようと言葉を尽くす。
「そこの『黒十字の使徒』は本当に恐ろしい者達なのです。相手取るだけで死を覚悟せねばならないほどの相手なのですよ!?」
「見くびってもらっては困るな勇者殿。このキルゲン、決闘に臨むときはいついかなる時も死ぬ覚悟だとも」
「そういう意味では……この自分ですら彼らの足元にも及ばないのです! それなのにキルゲン卿が彼らに敵う訳が――」
「勇者殿! 私を侮るのも大概にしてもらいたい。私はこれでも数多の魔物を倒した猛者だぞ! そんな私がこのような得体のしれない宗教団体の者に後れを取るというのか!?」
「その程度だから絶対に後れを取るって言ってるんだよ!! いいから考え直してくれキルゲン卿! 今、あなたがしようとしている事を例えるなら蟻が人間に立ち向かおうとしているようなものなんだっ!」
「ええい、そろそろ黙れこの勇者風情が! 貴様では話にならん」
「だから――」
必死に言葉を尽くす勇者だが、アホ貴族は聞く耳すら持たない。
なぜか勇者君がこちらに時々アイコンタクトを送ってきているが、目と目で通じ合うというほど俺とあいつは親しくもなんともないので意味は分からない。ゆえに放置だ。
王様に頼まれ、勇者パーティーとは模擬戦のような事を何回かやらせてもらっている。
しかし、いつも虐めみたいな様相になってしまうので戦いの中で分かりあうなんて事もないのだ。
ちなみに、虐める側はもちろん俺達の方だ。
そういう経緯もあって、あの勇者君はこっちの力を十分すぎるくらいに知っている。だからこそ、必死になってアホ貴族を止めているのだろう。
俺としては――どっちでもいいや。王様もなんか『どうにでもなれ』みたいな感じで二人の争いを見てるしな。いざ決闘になってうっかり俺たちがあの貴族をKILLしてしまっても文句は言わないだろう。
むしろ、一人ぐらい
なんて思っていると――
「コクウ。好きにさせればいい。ああいう馬鹿は言っても分からない」
声がした方向を見ると、そこには勇者君以外の勇者パーティーが居た。
先ほど発言したのは黒魔法使いのシャルロット=アレイス。王様の孫娘だ。
彼女はつまらなそうにしながら、この茶番劇を見ていた。
「シャルロット……でも、そういう訳には――」
仲間の投げやりな発言を諫めようとする勇者君。
それに対し、シャルロット女子は指をぴんと立てて、一つの真理を勇者へと授けた。
「コクウ。一ついい事を教える。馬鹿は死ななきゃ治らない」
「死んだらそれまでだろ!?」
「冗談」
「ほっ、なんだ冗談か。まったく……シャルロットの冗談は心臓に悪い――」
「一割くらい冗談」
「九割本気じゃないか!?」
「馬鹿な貴族にはお爺ちゃんも頭を悩ませてる。いっそ、みんな死ねばいいのに」
「それは冗談だよな?」
「? 本気だけど?」
「嘘でも冗談って言って欲しかったよ!!」
「じゃあ冗談」
「もう遅いよ!!」
仲間から精神的大ダメージを受けている勇者君。彼も苦労しているんだなぁ。
まぁ、勇者ってある種、弄られるのが宿命って面もあるからアレも勇者君の運命だったんだろう、多分。
「あー、その……なんだ。キルゲンよ。つまりお主はこう言いたいのか?」
そうしている内に、少し事態を冷静にみれるようになったのか。王様が口を挟む。
「そこの黒十字の使徒との決闘でお主が勝ったら貴族のダンジョン内への立ち入りを認めろと。そういう事で良いのか?」
「左様でございます。王よ……どうぞ私とこの者共との決闘をお認めください。このキルゲン、必ずや勝利して貴族の力という物を思い知らせましょうぞ」
「そうか……。という事らしいがどうするラ……黒十字の使徒殿よ。決闘を受けるか?」
もうなんか投げやりな感じでこっちに決定権を投げてくる王様。
さて――どうしようか。
なんか泣きそうな顔で拝んでいる勇者君。
少しワクワクしながらこちらの様子を窺っているシャルロット女子。
もうどうにでもなれとあきれ顔の王様。
よし――
「畏まりました。我らは神より力を賜いし使徒。
そうして俺達『黒十字の使徒』VS『アホ貴族率いる一軍』の決闘が決まった。
――余談だが、この後勇者君は王や貴族が見ているというのに「終わった……」と言って四つん這いになっていた。
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