第37話『愚かな貴族たち』
――アレイス王国。その王の間にて
「以上が教会で起こった出来事です」
「うむ、ご苦労であった。しかし……まさか教会がダンジョンとそこまで密接な関係にあったとはなぁ……」
教会本部という名のダンジョンを攻略してから、一週間が経過した。
あの日、俺とココウはラウンズの三人を撃退した後、ダンジョン内をさ迷う事になった。お互い、ダンジョン内の構図なんて知らないから純粋に迷ったのだ。
だが、しばらくしてセンカやルゼルス達が俺達の事を探しに来てくれた事で俺たちはダンジョンから脱出できた。その場に居たボルスタインはと言うと、俺やココウの戦いを間近で見れなかったと言ってとても残念がっていた。
教会本部には多くの魔物やラウンズを含むダンジョンの主が居たようだが、それら全てを彼女たちは打ち倒したらしい。
――かくして、教会は信用も中身もボロッボロになって崩壊した。
そうしてあれから一週間が経過して現在、俺とセンカ、ルゼルス、ルールルは『黒十字の使徒』として仮面を付けてアレイス王城の王の間でその時の事を報告しに来ていた。
そして先ほど、大まかなところだけ説明し終えた――という感じだ。
「信じられないかもしれませんが、事実でございます。我が神の教え通り、教会はやはり悪だったのです。とはいえ、あそこまで醜悪であるとは見抜けませんでしたが……」
この場には王以外にも、様々な貴族が席に着いている。
彼らの内の多くが、数日前までダンジョンについて全く知りえていなかった者達だ。
そんな彼らがこの場に居るのは、大きな力を持っていたはずの教会が崩壊し、更には多くの魔物が謎の死を遂げたという大事件があったからだ。
多くの魔物が死んだのはおそらく、教会本部での戦いで多くのダンジョンコアが破壊されたからだろう。
魔物はダンジョンより生まれ、生まれた魔物はダンジョンを生成したコアが破壊されると同時に死を迎える。
あの教会本部での戦いの時、あれだけ多くのダンジョンの主が居て、その全てを滅ぼしたのだ。そりゃ当然、魔物の数は目に見えて減るよなって話である。
――とまぁ、そんな大事件があれば当然、多くの貴族が調査に乗り出す。
そして、一部の貴族たちがどうやって知ったのか。世間一般で言われているダンジョンではない『本物のダンジョン』の存在に行きついてしまったのだ。
本物のダンジョンについての噂はあっという間に様々な尾ひれがついた状態で貴族間に広まった。
ダンジョンを制した者は不老不死になれるだの、七つのダンジョンを踏破した者はなんでも願いが叶えることが出来るだのと……様々な噂が飛び交う事になり、多くの貴族が真のダンジョンを血眼になって探し始めた。
それを見かねた王様がダンジョンについての情報を公開すると宣言。
そうしてこの場が設けられたのである。
ちなみに、俺が教会本部で起きた事の
だから、既にここに居る貴族たちはダンジョンについての情報を正しく認識している……と思いたいのだが、期待は出来ない。
なにせ、一部の貴族が興奮しながら「ダンジョンを七つ攻略したらなんでも願いが叶うという話は?』とか聞いてたからなぁ。
勇者君がそんなものはないと貴族の夢を切り捨てていたが、それに対して貴族は全然納得できてませんという顔をしていた。
あれは……全く信じていない感じだった。あのまま放っておけば独自でダンジョンに突っ込んで全滅か、ダンジョン攻略してダンジョンの主へ転職コースだろう。
その証拠に――
「教会の話なんぞどうでもいい! 問題はダンジョンについてだ。王よ、なぜ我らにダンジョンについての情報を与えないようにしていたのですか!? そのようなものがあるなら、すぐに対処しなければならないではないですか!!」
「そうだそうだ!」
「王よ、私にダンジョンの攻略をお命じください。このリヒテンハイト。必ずやダンジョンを踏破し、魔物を駆逐致します」
「いや、王よ。私に命じてください」
「いや、私に――」
……これだよ。
既にダンジョンについての情報は全部出している。魔物を生むのがダンジョンで、その最奥には必ず強大な力を持つダンジョンの主という物が存在すると説明済みなのだ。
そしてダンジョンを攻略しても、デメリットでしかないダンジョンコア精製の技能が手に入るだけ。不老不死なんてそんなに良いものじゃないし、何より悪意の種を植えられるなんて人形にさせられるようなものだ。望んで手に入れるような物じゃない。
それなのに……え? 君たち単独でダンジョン行くつもりなの? 力を合わせることもしないの? 馬鹿なの? 死ぬの?
そもそも、君たちお互いの顔をきちんと見ろよ。そんな欲がぎっしぎしに詰まった瞳をぎらつかされたら仮にダンジョンを攻略できたとしても新たなダンジョンの主になってる未来しか見えねえよ。
こいつらがコア作成技能を手に入れたら確実に『やったー。これで願いが叶うぞー』とか言って技能を発動させてダンジョンの主になるだろう。そんな未来しか浮かばない。
そうしてアホな貴族がわいわいと騒ぐ中――
「沈まれ」
たった一言。静かで、それでいて響き渡るような重い声が王の口から発せられた。
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