第34話『元剣聖』


 そうして呆気なく、ラウンズの二人は無となった。

 ダンジョンコアごと破壊できたかは不明だが……あの二人が再生する気配はない。

 体内にコアを格納していて、それごと闇に呑まれたのだと思われる。


 そして――



「――素晴らしい」


 パチパチと拍手を送るラウンズの司令官たる男。

 そいつが俺に賛辞の言葉を投げかけてくる。


「重ねて賛辞の言葉を送らせて頂こう。素晴らしい。今の二人は我々教会の中が有する切り札的存在だったというのに相手にもならないか。特に彼らの連携に関しては他の追随を許さない程だったのだがな」


「仲間がやられたっていうのにそれを倒した相手を褒めるのか?」


 少し非難するように問うてみる。

 しかし、当のラウンズ司令官様は何のことか分からなかったらしく、一瞬訝し気な顔をする。

 そして少し考えた末に『あぁ』と何かを思い出したかのように語り始める。


「仲間と言うのは先ほど貴殿が倒したタラリアとクスリアの事か。ふっ……少し誤解しているようだな。私たちは教会という組織に属してはいるが、それに忠誠を誓っているわけでも、ましてや仲間意識があるわけでもない。特に、最近のタラリアとクスリアの振る舞いは目に余るものがあった。貴殿が倒してくれて清々したくらいだ。賛辞の言葉だけでなく、礼を言いたいくらいだとも」


 男のその言い方からは本当に悪意を感じられなかった。

 ただ事実を言ったのみ。そう言った印象を受ける。

 こいつもダンジョンコアを持ったダンジョンの主だと思うんだが……こんな悪意を撒き散らさないダンジョンの主は珍しいな。

 もしかしてこいつ……ダンジョンの主ではないのでは?


 そう思って一応『お前はダンジョンの主じゃないのか?』と聞いてみたのだが――


「いや? 私も他の者と同様、ダンジョンの主だとも。そもそも、教会に所属し、その暗部に与している者は全てダンジョンの主だ。黒十字の使徒といえど、そこまでは掴めていなかったか?」


 ダンジョンの主っぽくないこいつもやはりダンジョンの主だったらしい。


 だけど……なぁ、おい。『黒十字の使徒といえど、そこまでは掴めていなかったか?』だとぉ?






 そもそもこっちはそこまで掴んでないどころか教会とダンジョンの主に繋がりがあるなんて事すら全くぜんぜんこれっぽっちも知らなかったっつーの!!!




 ――と、全力で叫びたかったがギリギリで堪える。

 いや、こいつがそう思う理由もなんとなく分かるよ?


 多分、こいつだけの話でなく、教会は俺達『黒十字の使徒』が教会の暗部について色々知りえていると思ったんだろ?

 俺とルゼルスが適当にでっちあげた教会悪役説を実際に教会がなぞってたからそう思ったんだろ? 分かるよ。


 分かるけどさぁ……実際は何一つ教会の暗部なんぞ知らなかったんだよねぇ。



 ――なんて、今更言えるわけもなく。

 ここ、一応ゲームでいう所の佳境ってやつだろうし。


 ボルスタインほどではないが、俺も演出は大事だと考えているしなぁ。


 なのでここは――ゲームの主人公にでもなったつもりで合わせておこう!


「――ふっ。教会に潜まれた暗部。当然その全てを俺は見抜いていた。無論、教会の幹部以上の者の全てがダンジョンの主だという事も把握していたさ。当然だろう?」


 (注:もちろん全く見抜けてませんでした)


「だが、貴様からは他のダンジョンの主から漂う禍々しき気を感じない。ゆえに俺は貴様がダンジョンの主か聞いたのだ。俺の標的はダンジョンの主のみ。それ以外には興味がないのでな。その他の者を間違って殺してしまっては寝覚めが悪かろう?」


 (注:そもそも、禍々しき気なんて感じ取れません。なんとなくです)


 俺は全部わかっていましたよというていでラウンズの司令官である男に語りかける。

 男は『ほぅ』と感心するような吐息をつく。


「さすがと言うべきか。確かに私はダンジョンの主が本来持つべき他種族への悪意というものを持ち合わせていない。捨てた――というのが正しいのだろうな。剣は冷静さを欠けば斬れるものも斬れなくなる。ゆえにアレは私には不要。既に斬った」


 ………………斬った?

 それってもしかしてダンジョンコアを発動させたら植え付けられてしまうっていう悪意を自分の中から斬ったって事か?


 俺はほんのちょっぴり心の底で動揺しながらも主人公っぽい感じを継続しながらそのことを聞いてみる。


「ほぅ。自身に内包する悪意のみを斬ったという事か」


「いかにも。この身は一振りの剣。多少、様々なものを斬るのが得意というだけの事だ。しかし……さすがは黒十字の使徒殿と言うべきか。この話をしても誰も信じなかったというのに貴殿は信じるのだな」


「知り合いに似たようなことが出来る者が居るからな。驚くに値しない」


「ふっ、そうか。やはり私もまだまだだな」


 そう言って苦笑しながら自分の事を蔑む男。

 対する俺は超然とした態度とは裏腹に、かなりパニクっていた。


 (いやヤバイって! 自分を操ろうとする悪意だけを斬るとか……そんなのラスボスの斬人きりひとの領域じゃねぇか!?

  こいつの態度といい、その偉業といい、さっきの二人とは多分比べ物にならないくらいの実力者だぞ?

 下手しなくてもルゼルスの十分の一程度の強度しかない俺の黒円陣なんて簡単に斬られるぞこれ)


「ステータスオープン(ボソッ)」


 俺は現在の自分のHPを確かめるためにステータスを表示させてみる。


★ ★ ★


 ラース 16歳 男 レベル:99(MAX)


 職業クラス:ラスボス召喚士


 種族:人間種


 HP:2261/4353


 MP:211666/上限なし


 筋力:1671


 耐性:1197


 敏捷:1318


 魔力:11077


 魔耐:12204


 技能:ラスボス召喚・MP上限撤廃・MP自然回復不可・MP吸収・魔術EX・炎属性適性・魔力操作・ルール作成(微)・記憶共有


★ ★ ★




「(イヤァァァァァ!!」」


 そんな気はしてたけどやっぱりHPが半分くらいになってるぅぅぅぅぅぅ!

 結構強めな魔術を放っちゃったからなぁ。

 しかも制御が半ば出来てないやつを。


 一発も貰ってない状態でこれ……だろ?

 これは……さすがにこの男を相手取るの危険すぎるな。戦ってみたいという欲もなくはないが、さすがに死ぬのは勘弁だ。



「? どうした? 気分が優れないのだろうか? 差し支えなければ私の相手もしてもらいたいのだが」


「(ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!)」


 いやいや大丈夫じゃねぇよ! 差し支えしかねぇよ! 冷や汗で背中べっとべとだわ!!


 なーんて言える場面でもなし。


 なので――


「――良いだろう。しかし、ここからは俺本来の戦いをさせて貰おうか……通常召喚。対象は――ココウ!」


『イメージクリア。召喚対象――ココウ。

 通常召喚を実行――――――成功。

 MPを1000消費し、果てなく強さを求める者、ココウを24時間召喚します』



 俺は宣言通り、本来の戦い方をする事にした。

 そして――ココウがこの場に呼び出される。

 一応、召喚をしている間に斬りかかられる事も考え、備えていたのだがそんな心配は要らなかった。相手は俺が召喚するのをただ見ているのみだった。


「――なるほど。ようやく歯ごたえのありそうな相手だ」


 召喚されたココウは相手の方を見て、その目をギラつかせる。

 そして――


「名乗る価値のある相手だ。己の名はココウ。いずれ最強となるおとこだ。――さぁ、貴様も名乗るがいい」



 ビシっと指を突き付けて相手にも名乗るように告げる。

 相手の男は『フッ』と薄く微笑み、腰にある刀に手を添えながら名乗った。


「元剣聖――ガイ・トロイメア。貴殿がいずれ最強となる漢なら私は……そうだな。いずれ万物を斬る漢だと言っておこうか」


 ( ,,`・ω・´)ンンン?

 ちょい待てよ。今更きづいたがガイ・トロイメア……元剣聖のトロイメアぁぁ!?

 それって――


「いざ尋常に――」


「「勝負!!」」


 俺の困惑など知ったことではないと戦いを始めてしまう二人。

 そんな中、俺はとうとう耐えきれず叫ぶ。


「トロイメアって……俺のご先祖様じゃねぇか!!!」 


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