第31話『途中退場』


 そんなボルスタインが教会の人たちを眩しそうに見ながら語る。



「さて、私は重い過去を持った人間を好む。その点、君たちは合格だ。いや、それ以上だ。何百年も生きた人間のドラマをこうして一気に感じることが出来て私は非常に満足している。熟成されたワインほど美味いが、それは人生にも言えることだ。濃厚な人生は見ていてとても楽しい。あぁ、心が躍るよ」


 ボルスタインはその性質上、重厚なドラマを作り出すに足る人材を好む……ってんんん?


「何百年も生きた人間の……ドラマ?」


 眼前に居る教会の人たち。

 どう見ても最高で40代の人しか居ない。別に、全員がよぼよぼの老人だ、なんてオチはない。

 それなのに今、ボルスタインはなんて言った? あいつ、今『何百年も生きた人間のドラマをこうして一気に感じることが出来て私は非常に満足している』と言ったのか?


 そんな俺の困惑を見て取ったのか、ボルスタインは軽く俺の方を見て微笑を浮かべる。

 そして、パラパラと『アカシックレコードの写本』のページを捲り、続きを語りだす。


「――ふむ。教皇よ、あなたがダンジョンの主とやらになったのは732年前の事だね」


「な!?」

「( ,,`・ω・´)ンンン?」


 前者が教皇が上げた驚愕の声。後者が小さく漏れた俺の驚愕の声だ。


 はえ? 今……ダンジョンの主って言ったよな? ダンジョンの主ってあのダンジョンの主? 魔物を大量に生産してるあのダンジョンの主っすよねぇ?


 その後もボルスタインは教皇をメインに教会の人たちと楽しく? 語り合っていた。

 その内容から察するに、相手の教会の人たちは全員ダンジョンの主のようだった。


 それはつまり、教会上層部の方々がダンジョンの主で占められていたという事であり、つまり――


「マジかよ。教会……真っ黒じゃん」


「そうね。教会の上層部からこっちに対して苦情とかがなかったから不思議に思っていたけれど……思い当たる節があったからだんまりを決め込んでいたというだけの事だったのね……」


「ルル。凄いミラクルです」


 俺とルゼルスは教会に対して根も葉もない悪評を広めまくった。

 その中には教会がこの世界を魔物の楽園にしようとしているだの、奴らは魔物を操作する技術を確立しているだのという物もあったはずだ。


「(……大体合ってるじゃん)」


 教会の上層部がみんなダンジョンの主だとしたら、今までに俺たちが広めた奴らの悪評のほとんどが割と真実っぽい内容になる。


 そっかー……だから教会の上層部から黒十字教に対して苦情がなかったんだなぁ。やっと納得がいったぜ。


 俺やルゼルスがそう納得する中、センカが呟く。


「でもこんな偶然。いや、もしかして……ルゼルスさんとラース様はこのことをご存じだったんですか?」


 あまりにも出来過ぎた偶然。自分だけが蚊帳の外に居たのではないかと訝しむセンカが俺とルゼルスを交互に見る。

 俺とルゼルスは二人同時に、顔を見合わせる。


 そうして互いに頷いたのち、センカに向かって断言する。


「「そんな訳ないだろう(じゃない)」」


 そう――これは本当に、陰謀とかでもなんでもなく、本気で偶然俺たちがでっち上げた嘘が相手の真実を射ていたという話だ。

 決して、確証を持てないからセンカには話さないでおこう……なんて殊勝なことを考えていたわけではない。


 ジトーっとした目で俺とルゼルス(特に俺)を凝視するセンカ。

 やがて、ため息をひとつ吐いて脱力する。


「嘘はいてない……ですね。ルゼルスさんはともかく、ラース様が嘘をついたらセンカにはすぐに分かりますし」


「なにそれ怖い」


 初耳なんだけど。

 いや、まぁ思い当たる節がないわけではないが……。


 そうして教会に対する認識を激変させる俺達。

 そして、そうしている間にボルスタインの舞台は整ったようだった。





「さぁ、第一劇の開幕と行こう。今一度、己の過去と向かい合うといい。さぁ、私にドラマを見せてくれ」


 そうして教会の人たちを白い霧が覆う。

 その霧に包まれた者のすぐ傍に、本人たちにしかハッキリと視認できない幽鬼の如くゆらめく人型の影が現れた。


 その影が、霧に包まれた者を襲う。


 これがボルスタインが紡ぐ全部で五劇から成る物語だ。


 第一劇――霧に包まれた者が過去に抱いた負の遺産を呼び覚ます。

 攻略法――自分の過去と決別し、真の意味で乗り越える事。(対象に背負うべき過去がない場合、不発に終わる)


 第二劇――霧に包まれた者の愛する者を呼び出し、殺し合わせる。

 攻略法――襲ってくる愛する者の全てを受け入れる事。(対象に愛する者がいない場合、不発に終わる)


 第三劇――霧に包まれた者を体感で666時間の間、音も何も聞こえない暗闇に閉じ込める。精神に異常をきたした時点で、包まれた者は永久に闇へと閉じ込められる。

 攻略法――耐える事。もしくは自力で闇を晴らすこと。


 第四劇――霧に包まれた者を幸せな夢へと誘う。包まれた者が目覚めたいと願わなければその夢は永遠に続く。

 攻略法――幸せ過ぎる夢よりも辛い現実を選択する事。


 第五劇――霧に包まれた者を三体複製し、それらと殺し合わせる。

 攻略法――複製された時点よりも自身が強くなる事。



 以上、全五劇。

 これがボルスタインが紡ぐ物語だ。彼と相対する者は、この劇にほぼ強制的に出演させられる。

 そして、この劇を乗り越えた勇者のみがボルスタインと戦う権利を得るのだ。



「だけどまぁ……本当に英雄か勇者か、そんな存在でもないと無理なんだよなぁ」




 霧に包まれた教会の人たちが一人、また一人と舞台から退場していく。

 怒り、悲しみ、または困惑しながらその命を散らしていく。

 幾人かは第一劇を乗り越えたようだが……さて、ここからどうなるか。


 そうして霧に包まれた人たちを見ていて、ふと教皇と目が合ったような気がした。


 そして次の瞬間――俺の体が光りだした。


「お? なんだこれ?」

「ルル? なんか光ってますね」

「あら? 何かの罠かしら?」

「ラース様!?」


 俺の体と、それと密着状態にあったルールルの体が光っている。

 その光は次第に輝きを増していき――弾けた――


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