第27話『教皇は破滅の階段を登る』
――教皇視点
「ぬ……うぅ……」
先ほどのは……夢ですか? それとも幻ですか?
私たちは作戦通り、『黒十字の使徒』と呼ばれていた彼らを罠に嵌め、優勢だったはずだ。
だが、その事実はまるで夢であったかのように掻き消えた。
気づいたら私の意識は奴らを罠に嵌める直前へと戻っていたのだ。
動揺を隠せない私。それは周りに居た同志たちも同じであるようだった。
そんな中、『黒十字の使徒』達だけが冷静さを保ち、動き出そうとしていた。影使い『センカ』が影の技能を使用しようとしていたのだ。
奴らに影を使わせるわけにはいかない!!
そう強く感じた私は部下に命令を出し、作戦通り部屋の照明を落とす。
そうして待機させていた大量の魔物をこの部屋に順次、転移させる。控えている魔物の総数は数十万以上。この部屋にも収まらない大量の魔物だ。
細かい所は違うが、ここまでは先ほどの夢(?)で見た通り。
しかし、そこからの展開が大きく異なっていた。
影使いの『センカ』が光の低級魔法を使用し、新たに影を生まれさせたのだ。
その魔法の効果は本来極小。ただ光るだけの魔法であるがゆえに、直接的なダメージはないはずだった。
しかし、この場においてはその限りではない。暗闇の中で奴らを襲撃するという作戦だった為、初めにこの部屋に転移させてきた魔物は全て夜行性で、夜目が効く存在だ。
そんな魔物たちがいきなり光を浴びたのだ。一瞬、魔物たちの動きが鈍る。
その一瞬は、致命的な隙だった。
光速で動く影が魔物たちを切断していく。紙でも切断するかのように容易く魔物たちの頑強な肉体が切断されていくのだ。
最前線へとその身を置いていたラウンズの毒の支配者『バクテリアン』と
用意していた作戦が脆く崩れ去っていく。
だが……ここで諦めるわけにはいかない!!
私は温存していた切り札を奴らにぶつける事にした。
それは、かの竜人から貰った黒い粉で作り出した不死の狂信者達。
数は千にも満たないが、単純な強さだけで言えば我々ダンジョンの主達と同等。強力過ぎる手札だ。
彼らは不死の代償に思考能力が吹き飛んでいる。しかし、ダンジョンの主である私たちの命令だけは聞いてくれるとても使いやすい手駒だ。
そんな中、『黒十字の使徒』の中で最も警戒すべき男、ラースが新たな者を召喚する。
奴の召喚する者はどれも途方もない力の持ち主と聞く。私はラースが召喚した男に最大限の注意を払う。
――とはいえ、こちらは無限とも言える魔物の群れと不死の狂信者軍団。加えて歴戦の猛者であるダンジョンの主達に、我が教会の精鋭であるラウンズも控えている。
奴がどんな存在を召喚したのだとしても、隙をついて召喚者であるラースを殺すことは十分可能だろう。そうすれば今召喚された男も、あの『ルゼルス・オルフィカーナ』も
幸い、今はあの『ルゼルス・オルフィカーナ』も影使い『センカ』も防御に徹している。このままいけば、いずれあの防御も突破できるだろう。
いや、突破できずともいい。隙を作らせるだけで十分。その隙に歴戦のラウンズ達が一瞬の内にラースを撃破してくれるはず。
わたしはそうやって戦況を分析しながら、容易く葬られていく魔物たちを領域外に転移。そして待機させていた魔物たちを新たにこの部屋に補充していく。
そんな中、今しがた召喚された男が動き出す。その手にはいつの間に取り出したのか、一冊の本があった。
「さぁ――――――悲劇を彩ろう。まずは無粋な出演者にご退場願うとしよう」
男がそう呟き、手に持った本を開く。
瞬間――
「「「く、く、く、クタバレ黒十字のシトォォォォッォォ!!」」」
「「「ナ!? マテ!! オレタチはミカタ……ガァァッ」」」
私が用意した狂信者達が魔物軍団に強烈な一撃を加えていた。
魔物たちは戸惑いながらもこれに対処。その矛先を『黒十字の使徒』から狂信者達へと変える。
しかし、狂信者達は黒い粉で強化されている不死者だ。胸を貫かれようが、頭を潰されようが死なない。
結果――訪れたのは膨大な魔物VS不死の狂信者の図だ。
「……は?」
なぜだ?
なぜ……こんなことが起こる!?
一瞬、自身の目を疑う。だが、いくら目を擦っても目の前の現実は変化してくれない。
「教皇様! 信者たちに指示を!!」
「え? あ、あぁ。そうですね。信者達よ!! 標的を間違えています。『黒十字の使徒』はあの仮面の者達です。やつらを狙いなさい!!」
近くに居た教会の幹部に言われ、私は不死の狂信者達へと命令を飛ばす。
だが――
「「「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!! く、く、く、黒十字のシトォォォォッォォ!! しねねねねねね抹殺サツサツサツゥゥゥゥゥッゥゥゥ」」」
「コイツラ……ゼンッゼンメイレイヲキカネェゾ!! ジョウダンジャネェ!! チクショォッ」
命令を飛ばしたにも関わらず、魔物を襲う手を止めない不死の狂信者達。
不毛な争いが続く。
そんな中――
「さて、無粋な出演者には消えていただいた。さぁ、
その光景を満足げに眺めながら、先ほど召喚された男が訳の分からぬ事を言う。
改めて思う。これはやはり夢か、幻なのではないか?
一度、我々が優勢だったはずの展開からこれなのだ。目の前の光景を夢か幻だと考えるのも無理ない事だろう?
そうだ、これは夢、もしくは幻だ。そうでなければこんな――
「「「シネェニンゲェンッ!!」」」
「「「く、く、く、クタバレ黒十字のシトォォォォッォォ!!」」」
こんな地獄はあり得ない。
不死の狂信者達は私の命令に忠実であるはずなのに、現在は全く言う事を聞かない状態にある。こんなことは絶対にありえない。ありえないはずなんだ。
だからそう……これはきっと夢なのだ。
しかし――ならばこの伝わってくる熱気も
むせかえるような血の匂いと、響く断末魔の叫びも、全てが
瞬間――
「とてもそうは思えない。教皇よ、あなたの思う通りだ」
「な!?」
私の思考を先読みするかのように、先ほどラースが召喚した瘦せぎすの男が本を片手に楽しそうに我々へと語りかけてくる。
「さて、理性ある出演者である君らには私の力を明かそう。私の力はこの本を媒介に現実世界を私が
パチンッ――と男が指を鳴らす。
瞬間――教会の大部屋から一転して私たちの周りを囲む光景が山へと切り替わった。
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