第26話『悲劇の演出者』
「はいっ! ――光よ、世界を照らしてください」
俺の呼びかけに応じ、センカが即座に魔法を発動させる。
瞬間――彼女の手元に光源が現れた。
真っ暗闇の中に光が現れたのだ。
照らされる室内。照らされるまでは分からなかったが、どこから現れたというのか、数百匹以上いるんじゃないかと言う魔物の大軍が部屋の中には居た。
光によって魔物たちや俺たちの姿が闇の中から顔を出す。
そうなると当然――影は復活する。
「わっ、魔物がこんなに沢山。もう……邪魔ですっ!
「「「ギャギィッ――」」」
「おっと――危ない。腕だけで済んだか」
「なっ!? これで終わりかぁぁぁぁぁ!?」
センカがその技能によって影を光速で振るう。
多くの魔物や、教皇がラウンズと言っていたと思われる二人がその犠牲に……いや、一人は光速で放たれる影の軌道を読んだのか、被害を最小限に抑え、右手一本を失うだけで済んでいた。
「馬鹿な!? 光の低級魔法だと!? そんな情報は回ってきていないぞ!?」
思い通りにいかなかったことが腹立たしいのか、遠くで地団太を踏む教皇。
俺はそんな教皇に対し、ため息をついてから当然の事を教えてやる。
「はぁ……あのな? 影使いの弱点なんて誰でも考えたら分かる事だろ。真っ暗闇に落とすか、影が生まれないほどの光を与えてやればいい。それなら当然、こっちもそれに対策立てるっての。幸い、この世界には魔法なんていう便利な物があるわけだしな。真っ暗闇に落とされても光か炎の魔法を使えればこうして解決だ」
影使いは影が使えなければ無能。そんな事は馬鹿でも分かる。
その問題点を放置する影使いなんて、ド三流以下だろう。
「ちぃっ! だが、我がダンジョンにはまだ多くの魔物の軍勢が控えています。数十万の魔物の猛攻を防げますかな? 更にっ――」
バァンッ――と開け放たれる俺たちが入ってきた扉とは正反対の方に位置する扉。
そこには大量の人間が――
「キョウかいに仇名すものもののもの。死ねシネシネシネシネェぇぇええぇぇぇぇ!」
「カミをしんじじぬモノにカミのテッツツツツッツツツツイををぉぉぉぉっぉぉォォォォ」
「不死の体、遂に手に……痛くないイタクナイイタクナイあははばばばはははばばばっぁぁぁ」
否――人間のような者達がずらっと並んでいた。
印象的にはどこぞのバイオ〇ザードなんかに出てきそうなゾンビだ。
救いでも求めるかのように手を伸ばしながらこちらへゆっくりと向かってくる。当然ながら、理性も飛んでいるみたいだ。
「我が神からの恩寵により不死となった信者達です。さぁ、行けお前たち! あの男を殺せぇぇぇぇぇぇぇ!」
血走った目で俺を殺すように指示を出す教皇。
魔物も、ゾンビじみた狂信者もその指示に従い俺へと狙いをつける。
しかし……なんで俺を狙うんだ?
普通、この状況なら現在進行形で暴れてるセンカを優先して狙いそうなものだが。
いや、まぁ奴らの狙いは正しいんだけどな?
このパーティーで一番隙が多いのが俺であることは間違いないし。
しかも、俺にはラスボス召喚術がある。向こうからしたら早めに処分しておきたい存在だろう。
ん? ……あれ? もしかしてそこら辺の事情、敵さんにばれてる?
だから俺を狙ってるのか?
もしそうだとしたら少し面倒くさいな。
ならまぁ……仕方ない。
――出し惜しみはやめるとしようか。
「センカ、ルゼルス。今から通常召喚でボルスタインを呼ぶ。少しイメージを固めるからその間、俺とルールルを守ってくれ」
「ボルスタインさんですか。センカはあの人苦手ですけど……分かりました!」
「くすくす。今のこの状況はボルスタインが望むものだものね。いいわ、ゆっくりイメージを固めなさい。――ほら、ルーはラースの傍に居なさい。そこらをうろちょろされると守りづらいわ。貴方が死んだらまたやり直さなないといけないから死なれると面倒なのよ」
「むぅ。ルールルとしてはもっともっとラー君の役に立ちたいですけど、この状況じゃルールルはただのか弱い女の子なので無力ですね。仕方ないです。諦めてルールルはラー君の傍で守られておく事にします。ぴとー」
俺が召喚する時間を稼ぐために動いてくれるセンカとルゼルス。
普通の女の子レベルの身体能力しか持たないルールルは状況が分かっているのかいないのか、必要以上に俺へと密着してくる。
普段なら狼狽えたりしている俺だが、今はそんな事以上にこの先の展開が楽しみでそれどころじゃない。
それに、今はボルスタインのイメージを固めている最中だからルールルの体の感触に気を取られている暇もない。
俺は集中を乱すことなく、通常召喚に臨んだ。
「通常召喚。対象は――シュランゲ・ボルスタイン」
『イメージクリア。召喚対象――シュランゲ・ボルスタイン。
通常召喚を実行――――――成功。
MPを1000消費し、悲劇の演出者、シュランゲ・ボルスタインを24時間召喚します』
そうして俺の眼前にゲーム『トラゴディエ・ヴォン・ゲシスター』のラスボスであるシュランゲ・ボルスタインが現れる。
決して強そうには見えない瘦せぎすな男。
男は自身の漆黒の長髪をそっと手で掻きあげ、青の蒼眼で世界を眩しそうに見渡し、笑みを浮かべる。
「これはこれは。難敵揃いではないですか。いやはや愉快愉快。主よ、この度は私を召喚して頂き誠に感謝する。欲を言えばルールルではなく、私を永続召喚して欲しかったがね」
「嫌だよ。俺はまだお前の事、信用出来てないもん。それは俺の記憶も得てるお前なら分かる事だろ?」
「くくっ、そう言われては返す言葉もない。かの世界でも私は嫌われ者だった」
そう言って指揮者の如く腕を振るうボルスタイン。
すると、その手に一冊の本が現れる。
「まぁ、良いでしょう。こうして呼び出して頂けたのだから文句を言っては罰が当たる。さて、主の役に立つべくやるとしましょうか。私も存分に楽しませて頂こう」
そうしてボルスタインがその手に現れた一冊の本を――開く。
「さぁ――――――悲劇を彩ろう。それにあたり、まずは無粋な出演者にご退場願うとしようか」
そして――悲劇が始まる。
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