第25話『再開する世界』


 ――教会本部(大部屋)





 ――そして世界は再開する。




「この教会本部までご足労頂いたのです。さぞかしお疲れでしょう。さぁ、のどの渇きでも潤し――ぐっ――」


「なっ! こ、これは?」

「どういう……ことだ」

「馬鹿な!?」


 世界が一転し、時は教皇のお付きの騎士が紅茶を振る舞っていた場面に戻る。


 しかし、紅茶を振る舞った騎士も、周りに控えている騎士たちも、激しく動揺している。

 当然だろう。彼らは訳も分からないまま意識を保ったまま時間を遡らされたようなものなのだから。




「あーあ。死んじゃった。あ、ラー君。この紅茶毒入りだから飲まない方がいいよ。後、これを保管しとけば教会の弱みになるんじゃないかな?」


 唯一、状況を一番正しく把握し、冷静でいるのはこのラスボス『ルルルール・ルールル』だけだ。彼女は自分を殺した原因である紅茶を指さしながら、毒だと告げる。いや、毒なのは分かりきってたけどね?


 時が逆行した世界。そんな中でルールルの能力を知る俺達だけが期せずして訪れたこの状況をいち早く察し、冷静さを取り戻す。

 こんな事、作戦にはなかったから多少動揺しているが、教会むこう程ではない。


 そう――この状況は全てルルルール・ルールルが作り出したものだ。

 彼女の能力の一つである死に戻りは彼女が死んだ瞬間、周囲も巻き込んで彼女が死ぬ少し前の時間へと移動させる。


 ちなみにルールルのこの能力、ルールルが登場するゲームでも発揮されるのだが『彼女が持つ能力:記憶共有が何らかの影響を及ぼして周囲の人も巻き込んで時間を移動しているのではないか?』とゲームプレイヤーの間では考察がされていた。まぁ、実際は神(ゲーム制作者)のみぞ知るというやつだが。



 ――さてと。

 これで教会が俺たちを害そうとしているのは確定事項となったな。

 そしてルールルの言う通り、連中はこうして証拠まで提供してくれた。ありがたい事だ。

 だが――


「全く……俺も人の事は言えないがお前も無茶するなぁルールル。確かにお前は不死だけど、痛みも苦しみもするだろう? そんなわざわざ苦しまなくてもいいだろうに」


 

 ルールルはその過去の生い立ちから正気がほぼ吹っ飛んで狂気に走っている。

 とはいえ、そんな彼女にもきちんと感情や痛覚はある。

 だから死ぬのは彼女にとっても辛いことであるはずなのだ。 


「ルゥ、いいんです。ルールルはラー君の役に立ちたいからやっているんです。そのためなら何十回だって何百回だって苦しんで死んであげます。ルールルにはよく分からないですけど、それが愛ってものなんでしょう?」




 理由がさっぱり分からないが、俺へと愛の言葉を囁いてくれるルールル。正直、彼女の事は嫌いじゃないどころかどっちかと言うと好きだからその好意は嬉しい。

 嬉しいが……なぁ。


「愛が重い……けど感謝するぜ。――センカ、この紅茶を影にしまってくれ。持っとけば後々良いことがありそうだ」

「は、はい」


 そうして俺がセンカに指示を飛ばした直後だった。


「――影!? い、いかん。何が起こっているのかは分かりませんが早く照明を落としなさい!! 動かれては厄介です」



 教皇がセンカの技能を封じようと照明を落とすように指示を出す。


 バンッ――


 指示は適切に受理され、部屋の照明が落とされる。

 結果、訪れるのは闇だ。これでセンカの影は無力化される。








 ――とても思っているならおめでたい事だ。




「何が起こっているのかは分かりませんが総員突撃! 魔物の大軍を再度転移。ラウンズは奴らの隙を突きなさい!!」


「イマダァッ!!」

「カカレェッ」

「キキィッ」


 時間が巻き戻る前の世界で聞いたものと同じ声。

 やはり魔物の声っぽいな。


 しかし、まさかこの教会本部自体がダンジョンだとは思わなかった。俺たちが思ってた以上に教会って黒かったんだなぁ。ルゼルスや俺が適当にでっちあげた教会は悪の権化説もあながち間違っていなかったのかもしれない。

「先ほどのは夢か? 分からんが……所詮は人間。暗闇の中でどこまで動けるかな?」

「こなくそっ! 俺は楽にお前たちを殺したいんだー!」


 魔物とは異なる人間の声も聞こえる。

 もしかしてこいつらがさっき教皇が言ってた『ラウンズ』って奴か?


 ラウンズの語源は円卓の騎士。

 円卓の騎士とは、アーサー王伝説にて彼に仕える者達の中でより秀でた者に与えられる称号だ。この称号を持つ者だけがアーサー王と同じテーブル、即ち『円卓』に座るとを許されたという。

 

 この事から教皇が言うラウンズとは教会の精鋭か何かの事だと想像がつく。


 しかし、疑問が残る。


 ラウンズという単語を俺が知ってたのは前世の記憶にそれに該当するものがあったからだ。厨二の俺にとって『円卓の騎士』についてなんて常識だったからな。


 だが、この世界にラウンズなんて単語はない。発音も日本語のそれだった。

 これは……偶然か?


「――と。考えていてもらちが明かないな。――センカ!!」


 この状況を打破する手段なんて幾つもあるが、ここは敵の浅はかさを笑う意味でもセンカに任せるとしよう。

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