第24話『暗転する世界』


 教会の奥へ奥へと進み、最終的に俺たちが通されたのはだだっ広い部屋だった。

 どういう仕組みかは分からないが、白い光が頭上から部屋全体を照らしている。


 そして、部屋の中には武装した騎士やら位の高そうな教会の人が多数だ。


 そろそろ仕掛けてくるか? と身構える俺達。

 しかし、そんな俺達に気付く様子すらなく、教皇はこちらに向かって頭を下げてきた。


「長く歩かせてしまって申し訳ありませんでした。ですがご容赦ください。ダンジョンについては、我ら教会内でも秘中の秘。ですから絶対に秘密が漏れないこの場所へと皆さんをお連れしました。ここから先の会話ではダンジョンについて話すことになるでしょうしね」


 そう言って頭を下げる教皇。

 ああ、確かにこっから話を進めていくうえでダンジョンの話は欠かせないだろうからな。それを隠すために場所を移動したというのはまぁおかしな話じゃない。


 そう――おかしな話じゃないのだが……既にルールルからアンタらが俺たちに殺気向けてきてるの聞いちゃってるんだよなぁ。

 そもそも、ほぼ確実に罠だと思って来てるわけだし。

 そうなったらここまで連れてきたのも罠の一環としか思えない訳で。正直、部屋全体が何かの罠であると考えてもいいわけで。ここに配置されている人間、全員敵としか思えない訳で。


 しかし、それをここで口に出すわけにはいかないだろう。少なくとも、こちらから向こうに手を出すことはできない。そうしたら教会は表立って俺たちを糾弾するかもしれないし。

 ――なので。


「そうですね。お互い、腹を割って話すことに致しましょう」


 ――と、思いっきり腹の内に色んな物を抱えときながら教皇に応じる俺。

 そんな俺の言葉に対し満足そうに頷く教皇。

 そして、彼は近くに居た騎士っぽい人に目線で何かを訴え、それに従って騎士っぽい人が退室。少ししてからまた現れ、その手には盆に乗せられたティーセットがあった。


「この教会本部までご足労頂いたのです。さぞかしお疲れでしょう。さぁ、のどの渇きでも潤してください」


 柔和な笑顔を見せ、紅茶を勧めてくる教皇。

 そんな中、俺は心の中で絶叫していた。


「(胡散うさんくせぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!)」

 

 誰がどう見ても怪しい。いや、絶対毒入ってるよなそれ。疑うまでもなく絶対に毒が入って――


「ありがとうございます。頂きますね♪」

「「「「あ」」」」


 躊躇なく、渡されたティーカップに口を付けるルールル。

 そして重なる驚きの声。心なしか、なぜか教皇まで驚いているように見える。


 ――結果。


「ふぅ、美味しいですね♪ でも……ルル? あはは~、世界が回ってますよぅ。なんですかこれ~」


「「「「毒だよ(ですよ)(よ)!!」」」」


 案の定、毒が入っていたらしいお茶。

 そこで教皇が行動を起こした。


「少し上手くいきすぎな気もしますが……いいでしょう。好都合です!!」


 教皇がそう言ったと同時に、それまで部屋を照らしていた光が消滅した。

 そうすると当然、闇が部屋を包む。

 そしてそんな中――


「イマダァッ!!」

「カカレェッ」

「キキィッ」


 どこかで聞いたことのあるような大量の声が聞こえてきた。

 これはまさか――魔物の声?



「くはははははははははは! 我らでは攻略が叶わないダンジョンが発見されたと先の手紙でも伝えたでしょう。この教会こそがそのダンジョンでございますよ。さぁ――この暗闇の中、得意の影も使えない状態で魔物の軍勢――更には我らの精鋭相手にどこまで耐えられますかな?」


 思いっきり勝ち誇った感じで笑う教皇さん。暗闇の中、しかも魔物たちがひしめいているので教皇がどこに居るのかも分からない。


「くくくくくく。やはり人間はいいねぇ。こうまで容易い仕事は久方ぶりだよ。亜人や魔人相手ではこうはいかない」

「楽勝だー。あーっはっはっはっはっはっはっはっ」


 それと同時に魔物とは違う、教皇がさっき言っていた精鋭さんだろうか――の声も響く。

 暗闇の中、鋭利な何かが俺の頬を斬る。


 そして――


「ル・ル・ルゥ♪ 世界が回って――回って――回って――。アハッ――これにて一旦……はい、おしまい♪」


 瞬間、暗転するか如く世界が一転し、その場に居た俺も含む全ての者の意識が闇に落ちた――


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