第19話『鈍感系ハーレム主人公』


「――というわけで、今までも何度か会ってるけどせっかくだから自己紹介させてもらうね。ルールルはルルルール・ルールルだよ。気軽に『ルールル』なり『ルー』なり好きに呼んでほしいな?」


 ルールルを永続召喚することに成功した。

 それと、俺を襲っていた永続召喚ボーナスによる痛み。

 あれもしばらく寝たら回復していた。


「よろしく、ルールル。これからもよろしくな」

「よ、よろしくお願いします。ルールルさん」

「くすくす、それじゃあ私はルーと呼ばせてもらうわね。ラスボス同士、仲良くしましょう?」


 永続召喚の記念というべきか、各々ルールルに改めて挨拶していく。

 これで俺たちのパーティーメンバーにルールルという頼れる仲間が加わった。



「それにしても……半ば予期していた事とはいえ、やっぱり永続召喚ボーナスあったな」


「永続召喚に成功するとボーナスが貰えるとみて間違いないんじゃないかしら? そこの所、ルーはどう思う?」


「うーん、ルールルはそういう難しいこと、分からないなー。難しいことはぜーんぶラー君やルゼルスちゃんに任せるよ。ルールルの望みはただ一つ。ラー君と愛を育むこと。三番目だろうが四番目だろうが……百番目だったとしても構わない。ルールルみたいな異常者を愛してくれるかもしれない人なんてラー君しかいないからね。頑張っていつかは愛して愛されての関係になるんだ♪」


「はぁ……。そういえばあなたはそうだったわね。あなたに聞いた私が馬鹿だった」


「えー、なにそれー。気になる言い方だよぅルゼルスちゃぁん」

「ちょっ、服を引っ張るのはやめなさい。鬱陶うっとうしい」




 珍しく翻弄ほんろうされる側に回るルゼルス。まぁ、俺もセンカもルゼルス相手にあんなふうにしないしなぁ。

 ルールルをさすがラスボスと褒めるべきところか。判断に迷うところだ。


 さて、そんな感じでルールルとルゼルスがじゃれ合う中、俺はセンカの様子をうかがっていた。


「? どうかしましたか? ラース様?」

「いや、えーっと。アレだよ。怒ったりしてないのかなーって」

「はい? 怒る……ですか?」


 まるで何のことか分からないといった様子で首をかしげるセンカ。

 さっきのルールルの発言で嫉妬の炎を燃やしていないか? という質問だったのだが……この分だとそういうのは一切ないらしい。

 俺がルゼルスばかり見ているとすぐに不機嫌になるのに……。なんで?


 そうしてしばらく「うーん?」と頭を悩ませたセンカだったが、やがて俺の懸念していた事について考えが及んだのか。「あぁ」と納得の声を出し、自身の心境を語る。


「そりゃぁセンカだって女の子ですからね。好きな人が自分以外の人ばっかり見ていたりしたら気分が悪くなりますよ。もっと直接的に言うと、嫉妬します」


 あっけらかんと言った様子で、自分が嫉妬を普通にすると告げるセンカ。

 だからこそ……せない。


「だよな。でも、だったらセンカ的にはさっきのルールルの発言って許せないんじゃないのか? 自分で言うのもなんだがあれって恋敵が増えたようなもんだろう?」


「本当に自分でいう事ではないですね?」


「うるっさいな。自分で言って『何言ってんのこのナルシスト? 死ねば?』って思った所だよ」


 自分を巡っての三角関係のような泥沼で「お前、俺に対して嫉妬しないの?」と尋ねるクズ男。それが今の俺だ。

 うん。そう考えると無性に自分の舌を嚙みちぎりたくなるね。


「なるしす? ……まぁいいです。確かにセンカの立場からするとルールルさんのさっきの発言は見過ごせるものじゃなかったかもしれませんね。実際、恋敵が増えたようなものですし」


「なら――」


「でも、センカはそれ以上にこう思うんですよ」


 俺の言葉を遮り、センカは何かに祈るように瞳を閉じて――確信に満ちた答えを告げるのだった。


「そんな事に一喜一憂している暇があるなら、とっととラース様の貞操を奪ったほうがいいかなって」


「いやごめん。マジで何言ってんの?」


 話が異次元方向に飛んで行った。


 ――っていうかそんな神聖さすら感じさせるような祈りのポーズから何を言い出してくれやがってますかこの子は。どこをどうしてどうなった結果その結論に行きついたんだ?


 センカは俺の反応が意外だったのか、きょとんと首をかしげる。

 


「え? だってラース様って女の子の心を自覚全くなしで弄ぶ人じゃないですか?」


「風評被害にも程がある! そんなことをした覚えはない!!」


「そういう風に弄んでいる自覚が全くないのも厄介ですよね……。自覚があったら幻滅できたでしょうけど、そうさせてもくれないのって残酷だと思いませんか?」


「なぁ、それ俺の事? さっきから俺の事を言ってんの?」


「当たり前じゃないですか。さっきからずぅっとラース様の事しか言ってませんよ。センカだってラース様に初対面で弄ばれた被害者みたいなものですし。自覚がなかったのはもう分かりましたけど、アレは本当にダメだったと思いますよ?」


「……なぁ。それ、前からちょくちょく聞いてるけど何の話だ? 俺としてはセンカを弄んだ覚えなんてないんだが……」


 初対面で俺がセンカに何かやらかしたらしいのだが、変なことをした覚えは全くない。

 しかも、そのことをセンカやルゼルスに問い詰めてもはぐらかされるばかりだからこっちは何のことかまるで分からない。

 一つ、分かることがあるとすればルゼルスにとって愉快な出来事があったっていう事くらいか。この話題になるとルゼルスはお腹を抱えて笑い出すから。


「私を仲間に引き入れた時のセリフを思い返して頂ければ自ずと分かるかと」


 センカを仲間に引き入れた時のセリフ?

 あの時は確か……なんとしても影使いのセンカを手に入れようと必死だったんだよなぁ。


 それで衝動のままにセンカを仲間に誘って……うん。さすがに自分が何を言ったのかまで詳しくは覚えていないな……。

 そんな俺の心中を察したのか、センカは「はぁ……」とため息をつく。


「ルゼルスさんの言っていた通りです。ホント、ラース様って鈍感系ハーレム主人公ってやつですよね」


「鈍感系ハーレム主人公!?」


「そんなラース様に言い寄る新しい女の影の一つや二つ。気にするだけ時間の無駄じゃないですか。そんな暇があったらとっとと既成事実でも作ったほうがいいかなってセンカは思うんですよ。ラース様、責任感は人並みかそれ以上にあるんできっと最後まで面倒見てくれますし」


「巧妙に計算された罠!? え? 大丈夫だよね俺? まだ初体験迎えてないよね?」


「大丈夫ですよ。……今はまだ」


「今はまだ!? ――っていうか既成事実やら鈍感系ハーレム主人公やらそんな単語どこで覚えてきた? そんな事知る機会、今までなかっただろ!?」


 基本、純粋無垢を地でいっているセンカ。そんな彼女の口から既成事実という単語が出てきたのも驚きだが、それ以上に鈍感系ハーレム主人公なんていう単語が出てきた事に驚きを隠せない。

 なぜなら、その単語はこの世界では聞くはずのない単語だからだ。

 ならば、その単語をセンカに吹き込んだ犯人は自ずと絞られて――


「ルゼルスさんから教えてもらいました。既成事実に関してはラース様を落とす最終手段としてこの前、誕生日に教えてもらったんですよ。十中八九、ラース様なら責任を取ってくれるからと――」


「ルゼルーーース!!!」


 元凶はやはりと言うべきか。ルゼルスだった。


 パーティーメンバーが俺とルゼルスとセンカの三人だからなぁ。

 そうなると、必然的にルゼルスとセンカが二人一緒に寝ることが多くなるのだ。そういう時にルゼルスがそういう知識を仕込んでいるのだろう。


 もしかしたら今後は二人を一緒に寝かさない方がいいのかもしれない。センカの教育的な意味でも、俺が一緒に寝てやるべきなのかも……。

 でもさっきの発言の後でセンカと一緒に寝るのも怖いなぁ。うーむ。


 そうしてしばらく考え、俺は――



「――――――よし!! とりあえず更新されたであろう俺のステータスを見るか!!」


 問題を先送りすることにした。もういいや面倒くさい。そもそも、恋愛方面は俺の分野じゃないんだ。なるようになれだ。


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