第20話『教会の罠?』



「ステータスオープン」


 そうして俺はルールルを永続召喚したボーナスが反映されているであろうステータスを表示させた。


★ ★ ★


 ラース 16歳 男 レベル:99(MAX)


 職業クラス:ラスボス召喚士


 種族:人間種


 HP:4353/4353


 MP:112163/上限なし


 筋力:1671


 耐性:1197


 敏捷:1318


 魔力:11077


 魔耐:12204


 技能:ラスボス召喚・MP上限撤廃・MP自然回復不可・MP吸収・魔術EX・炎属性適性・魔力操作・ルール作成(微)・記憶共有


★ ★ ★



 分かっていたことだが……やはりステータス値自体はそんなに変化してないな。


 元々、ルールルの能力値は低かったからなぁ。その内の10%が加算されてもこの程度にしかならないだろう。


 だからステータス値の所はどうでもいい。

 問題は――技能の方だ。


「記憶共有とルール作成(微)か……」


 記憶共有は他者の記憶を読み、それと同時に自分の記憶を他者に読み取らせる技能だ。

 まぁ、使いようによっては便利な技能と言えるだろう。

 問題はルール作成(微)の方だ。


「わぁ、さすがラー君。ルールルの代名詞でもあるルール作成まで手に入れちゃうなんて凄いです」

「ルールルのルール作成と一緒ならとても強力な技能だけれど(微)が気になるわね。おそらくルールルのルール作成の下位互換という意味なのでしょうけど……どういった点が異なるのか、検証した方がいいと思うわ」


 ルールルをラスボスたらしめているルール作成。

 俺が手に入れたルール作成(微)はそれの下位互換のような技能だろう。

 だが、どういう点で下位互換になっているのかが現状では不明だ。ルゼルスの言う通り検証する必要があるだろう。


「それじゃあさっそくやるとするか。――ルール………………」


 さっそく技能を発動しようとする俺だったが……さてどうしよう。どんなルールにするか考えていなかった。

 平等なルールじゃないとダメなんだよなぁ。

 うーん。使う側になって初めてこの技能を使いにくいと感じたぞ。まぁ、慣れたらどうってことないんだろうけど。


 そうしてルールの内容を考えていた時、もう結構時間が経っていたのか――待ち人が現れた。


「……待たせた」


 短く一言だけ告げて、その人物は現れた。





 彼女こそが王の連絡役であり、王の抱える隠密。名前は『チェシャ・カッツェ』。


 長い金の髪をたなびかせ、感情の色がない群青の瞳が俺たちを射抜く。

 隠密という職業柄か、ノースリーブの黒いドレスに肘まで覆う黒いロンググローブとその身を黒一色で統一している。

 背丈はルゼルスと同じくらいで140センチもない程度。ぶっちゃけかなり背が低い女の子である。

 隠密というには少し幼い気もする。

 いや、逆にそれが狙いなのかも? こんな女の子を見て隠密だと思う人なんて居ないだろうしな。


 そんな隠密であるチェシャは懐から何かを取り出し、こちらに差し出してきた。


「王からの書状を持ってきた。確認を」

「お、おぅ」


 この通り、チェシャは基本的にぶっきらぼうというかなんというか……とにかく接しにくいタイプの子だ。

 感情のない機械を相手にしているような気分にもさせられる。正直、やりにくい。


 俺はそんな彼女から書状を受け取り、読み進める。


 ちなみに、こんな書状を介さなくてもこの世界には魔法による通信手段がある。

 通信魔法を使える人材さえいれば、その者を使って電話のようにやり取りできるのだ。

 

 ただ、通信魔法は万能ではない。傍受される危険性もあれば偽造される危険性もある。


 ゆえに、重要なやり取りとかがしたい場合はこうして手紙(書状)を使って連絡を取るのが好ましいとされているのだ。




 さて、そんな重要っぽい手紙の内容はというと――





★ ★ ★


 ラースよ。ダンジョンの攻略、ご苦労だった。

 ――と言っても、攻略を確認したわけではないのだがな。まぁ、貴様たちなら万が一があったとしても失敗などせんだろう。ゆえに、攻略に成功したという前提で話を進ませてもらう。


 さて、いつもならば新たなダンジョンの情報やら魔物の群生地やらへと向かってもらう所なのだが……今回は少々趣が異なる。

 というのも、先ほど教会から使者が我の元にやってきてな。要件はお前たち『黒十字の使徒』についてだった。

 どうやら連中、我々が繋がっていることに気付いたらしい。『黒十字の使徒』である貴様らの正体についても知られていると思っておいた方が良いだろう。少なくとも貴様らが我の命で『ダンジョン』を攻略しているという事は知られているようだ。


 さて、そんな連中からお前たち『黒十字の使徒』に頼みがあるそうだ。


 教会の奴らが言うには奴らも独自でダンジョンの攻略に勤しんでいたらしくてな。

 だが、最近になって奴らだけでは攻略不可能な恐ろしいダンジョンが現れたらしい。それも教会本部のすぐ傍にだそうだ。


 ようはそのダンジョン攻略の手助けを『黒十字の使徒』にしてもらいたいという要求だ。ダンジョンの場所など、詳細については教会本部まで『黒十字の使徒』が来た時に話すのだと。


 『黒十字の使徒』が力を貸してくれるのならば奴ら『教会』は黒十字の使徒の教義を認め、教会を解体してその身を王と黒十字教の為に捧げるとまで言ってきおった。



 ――さて、以上が奴らの言い分だ。ここからは我の見解を述べさせてもらうぞ。


 はっきり言おう。奴らは怪しい。


 今まで王である我が再三魔物の討伐で力を貸してくれと頼み込んでいたのだが、奴ら教会はその全てを突っぱね続けていたのだ。


 奴らの言い分は『民を守るのは王の役目。われらの力を当てにしないでもらいたい』というものだった。


 そう言っていた奴らが、今回はヤケに協力的だ。話がうますぎるとは思わぬか?

 少なくとも我は裏があるのではないかと睨んでいる。素直に奴らの救援要請に応え、教会本部へ向かうのは危険かもしれん。


 ――とまぁ、以上が我の見解だ。

 最終的にどうするかはラース、お主のの自由だ。元々、我らはそういう約定で手を結んだのだからな。我はお前を縛らぬ。

 だが、教会本部に向かうのならばくれぐれも気を付けるがいい。


 以上。


★ ★ ★




「ふーむ」

「どうしたのラース? 厄介なダンジョンか魔物の討伐でも依頼されているの?」

「いや、今回はだいぶ違う内容だった。――ほい」


 俺は読み終えた王からの書状をルゼルスへと渡す。


「どれどれ? ………………へぇ、遂に教会が重い腰を上げたって所かしら。教会を糾弾していた私たちを罠にはめて一網打尽にする。教会がやりそうな事ね」


「やっぱり罠だと思うか?」


「それ以外にあり得ないでしょう? 私たち『黒十字の使徒』は教会を表立って糾弾しているいわば厄介者よ? そんな私たちに奴ら教会が救援要請なんて出すはずがないじゃない。王様が言う通り、ほぼ確実に何か裏がある。そう見ていいわ」


「まぁ、そうだよなぁ」


 俺もルゼルスと同意見だった。教会のこの救援要請は胡散臭すぎる。よりにもよって教会を糾弾しまくっている俺たち『黒十字の使徒』に助けを求めている辺りがかなり怪しく思える。


「罠かもしれないんでしたら行かない方が……」

「ルールルはラー君がどんな選択をしようが付いていくよ~。あっ! なんだったらルールルだけ先に行って安全確認してこよっか? きちんと皆殺しにしてきますよ?」


 とりあえずルールルの案は却下するとしてだ(先にルールルを送り込んだ場合、相手が悪だくみしていようがいまいが相手を皆殺しにしてしまいそうな気しかしないし)。


 ――よし。


「決めた。行こう」


 少し迷った末に、俺は教会の誘いに乗ることにした。


「十中八九、罠か何か仕掛けられているんだろうけど……これは逆に好機だ。既に教会の力はだいぶ弱体化してる。ここで更に向こう側が俺たちを罠にはめたとして、その事が公になったらどうなる? おそらく、教会の信用は地に落ちる。そのための最後の一手として罠に掛かりに行くのも悪くない」



「むむぅ……。むざむざあると分かってる罠に飛び込むなんて……。まぁ、ラース様がそう決めちゃったのならセンカは従いますけど……」

「ルールルも右に同じ~。頑張ろうね、センちゃん♪」


 俺の意見に賛同はしていないが、付いてきてくれると言うセンカとルールル。


「くすくす。いいじゃない。敵の罠に自ら入り、それを食い破る。私、そういうの好きよ? ――でもラース。わざわざ罠に嵌まりに行く理由はそれだけなのかしら? 私には他にも理由があるように思えてならないんだけど」


 くすくすと笑いながら問うてくるルゼルス。さすがだ。俺の考えを的確に読んでくる。


 そう、理由はもう一つある。とてもくだらなくて、だが同時に俺にとっては重要な理由が。

 それは――


「どうせ教会を潰すならこの手でぶっ潰した方がスカっとするだろ。教会ともこれで最後だろうし、こうしてルールルっていう新しい仲間(ラスボス)まで加わったんだ。お疲れ様会&歓迎会代わりに派手に行こうぜっ!!!」


「はぁ……」

「はーい♪」

「くすくす」


 こうして俺たちの教会本部行きが決定した。


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