第17話『永続召喚Ⅱ』


 長年、暗躍を続けていた教会。

 ラース達もとい、黒十字の使徒にその悪行がバレタと確信した彼らは黒十字の使徒を抹殺すべく、動き出していた。


 対するラース達(黒十字の使徒)は教会のそんな動きを察知していないどころか、そもそも教会の暗躍すらも知らず、ダンジョンの攻略を終えて呑気に休憩していた――

 ※ラース視点に戻ります


★ ★ ★


 ダンジョンの攻略を終え、一仕事終えた俺たちは、先ほど攻略したダンジョン……もとい、元ダンジョン前にて休憩していた。

 この場で休憩しているのは、王の連絡役とやらと会う約束をしているからだ。

 とはいえ、約束の時間まで、いくらか間がある。



 そこで俺は――


「MPが200000貯まったぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ! これで新たなラスボスを永続召喚できるぜイヤッハァァァァァァァァァァァ!!」


 待ちに待った永続召喚を行おうとしていた。


「ラース様、MPを100000残しときなさいよってリリィ師匠に叱られてましたもんね……」


 なぜか遠くの世界の人でも見るような目でこちらを見つめ、呟くセンカ。

 だけど、今はそんな事どうでもいいね。

 今の俺は最っっっっっ高に気分がいいのだから!!


「リリィさんとの約束だからなぁ。リリィさんの兄が見つかったらすぐに彼女を永続召喚するっていう。でも、そのためにはMPを100000残さないといけない訳で。ルゼルスの永続召喚には目を瞑ってくれたけど、それ以上は許容できないって怒られちったぜ」


 そう――俺がMPを100000溜めても永続召喚を実行しなかった理由がそれだ。

 なので、こうしてコツコツとMPを200000になるまで頑張ったのだ。

 そうしてついに今日……その必要なMPが貯まった。


「くすくす。おめでとう、ラース。よしよし――と、頭を撫でてあげたいけど……んー、やっぱり届かないわね」


 今までの俺の頑張りを知っているルゼルスが頭を撫でてくれようとするが、いかんせん身長差もあって叶わない。

 ルゼルスは三年前から全く成長してないけど、俺はしてるからなぁ。

 それにしても……必死に背を伸ばすルゼルス可愛いな。普段のラスボス然としている姿とのギャップが凄くてヤバイとしか言えない。


 そんな彼女が可愛すぎて、逆に俺は彼女の頭にそっと手を置き、優しく撫でる。


「――あ」

「あっ!!」


 前者が呆けたようなルゼルスの声。

 後者が、まるで浮気の現場でも見つけたようなセンカの声だ。

 しかし、半ばトリップ状態になっている俺は気にせずルゼルスの頭を撫で続ける。


「ありがとうルゼルス、それにセンカ。ここまでMPを貯められたのは二人のおかげだ。これからも俺にその力を貸してくれ」


 二人が居なければ俺はここまで来られなかった。というか、どちらが欠けていても俺は道中で死んでいただろう。

 特にルゼルス。そもそも、彼女が俺を呼び掛けてくれなければ、俺はラスボス召喚の存在に気付く事すらなく死んでいたに違いない。

 そういう意味でもとても感謝している。


「ふ、ふふ。くすくす。こうして頭を撫でられるなんて……何百年ぶりかしら? お父様やお母さま、それに義姉様ねえさま達の事を思い出す……」


 為されるがままのルゼルス。

 この世界に永続召喚されてかれこれ三年。彼女も丸くなったという事だろうか?


「むぅ……ルゼルスさんばっかりずるいですラース様。力を貸してくれって言うんならそれなりの態度を示してもらわなければ困ります」


「と言うと?」


「決まってます! 私だって頑張ったんですからルゼルスさんと同じようにしてください。具体的に言うと、愛情たっぷり込めて撫でて欲しいです。あ、ハグしてくれてもいいですよ?」


「へいへい。ハグは勘弁な。これで我慢してくれ」


 センカの要望に従い、きちんとこれまでの感謝やら愛情やらをこめて差し出された彼女の頭も優しく撫でる。


「んっ――。ふふ♪」


 嬉しそうに身を震わせるセンカ。

 


 しかしなんというか……少し冷静になったのだが今の状況、まさに『両手に花』状態だな。見る人が見れば殺されかねん……。


 そうしてしばらくして――


「こほん、さて。そろそろ永続召喚するか!!」


 俺は若干わざとらしいかな……などと思いながらそう口にして、二人を撫でる手を止める。


「こ、こほん。え、ええ。そうね。さっさとやるとしましょう」


 若干顔を赤くさせながら取り繕うルゼルス。


「えー、もうですか? センカはずぅっとこのままでも良かったのに……」


 逆にセンカはもっと撫でて欲しかったとどこか不満げだ。



俺は「言ってくれればいつでも撫でてやるから」とセンカを納得させ、永続召喚にとりかかる。


「それで? 今度は誰を永続召喚するのかしら? ずいぶん迷っていたわよね?」


「ああ、結構考えたんだけど……やっぱりルールルを召喚しようと思う。彼女は俺に対してやけに好意的だし、戦力や能力的な意味でもルール作成は強力だ。あれには何かと世話になってるしな」


 ルールルのルール作成。

 あの能力には大いに役立ってもらっている。


 ルール作成は何も戦闘方面にしか使えない能力なんかではない。むしろ、それ以外の場面でこそあの能力は真価を発揮する。

 ルールルが空間に施す掟。それを世界が平等なものだとみなせば、新たな摂理としてその空間の掟となる。


 俺はその能力をまだ信頼関係を築けていないラスボスと面と向かって対話したいときなどに使わせてもらっていた。


 どう言う事かと言うと、例えば『この空間に居る者は他者を傷つける事はできない』なんてルールを空間に施してもらえばその瞬間からその場は話し合いの場へと早変わりするのだ。


 そのようにして、俺は相手を半ば強引に話し合いのテーブルへと引っ張り出して幾人かのラスボスとの対話を成功させたのである。




 ――とまぁそんなわけで、あのルール作成は汎用性がそれなりにあるのだ。

 これまで何度も世話になってるし、今後もそうなる可能性が高い。ならばそれを使えるルールルを永続召喚するのは十分にアリだろう。


 それに――


「――なにより、永続召喚してほしいってルールル本人に言われてるからな。これで他のラスボスを永続召喚したらへそを曲げて力を貸してくれなくなるかもしれん」


 ラスボスの中で永続召喚を希望しているのはルールルを含めて三人。

 永続召喚を希望するラスボスを優先的に呼び出すというのなら、他の二人についても検討するべきだろう。


 だが、俺はあの二人をまだ永続召喚したくない。


 一人は裏で何を考えているのかわからなくて怖いし。

 もう一人はまともな思考回路なんて残ってなさそうなので永続召喚しても暴走する未来しか見えない。


 そんな事をいろいろと考えた結果ルールルを召喚するのがいいだろうという結論に至ったのだ。


「それじゃあ……行くぞ。永続召喚。対象は――ルルルール・ルールル」


『イメージクリア。召喚対象――ルルルール・ルールル。

 永続召喚を実行――――――成功。

 MPを100000消費し、ルールの創造者、ルルルール・ルールルを永続召喚します』



 そうしてルルルール・ルールルは完全な形でもって、この世界に召喚された。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る