第16話「教皇様は作戦を練る-4」


 ラウンズの『ルナ・アウスブレンデン』が我々が頭を悩ませていた黒十字の使徒への対策法を明らかにした。


 それに対し、多くの幹部達が立ち上がった。


 それは、ラウンズに対して意見を出す為ではない。

 むしろ、その逆だった。


「いける……これならばいけるぞ!」

「そうですな。ここまで詳細な情報を集め、対策まで既に考えているとは。さすがはラウンズ。大したものですな」

「一週間前から調査を開始したと言っていたが、それでこれとは。ハハハ。彼らには敵いませんな」

「全くです」


 最初、ラウンズに対して不平不満ばかり言っていた者が今はラウンズに対して称賛の声を上げている。

 それに対し、微笑みながら『ありがとうございます』と返すルナ。

 他のラウンズのメンバーは邪悪な笑みを浮かべるか、無関心を貫いている。


 そんなラウンズ達に目もくれず、幹部達は会議を進める。


「では、奴らをおびき寄せる方法を考えましょう」

「素性は割れているんだ。いくらでも方法はある。まずはどこにおびき寄せるか。それを考えるべきではないか?」


 などと、ラウンズそっちのけで意見を述べていく。

 この辺りについては幹部達に任せて良いだろう。彼らの中には元貴族だった者も居る。

彼らならば王の指令を受けて動いているという黒十字の使徒を上手く釣ってくれる事だろう。


 問題はどこに彼らを誘き出すか。

 私は幹部達をしばらく放置し、ルナ・アウスブレンデンへと相談する。

 そうして彼女との対談の中で、決戦にふさわしい場所を決めた。

 

 私は未だにあーでもないこーでもないと議論を交わしている幹部達に声をかける。


「皆さん、黒十字の使徒を誘き出す場所についてですが、提案があります。私のダンジョンであるこの教会本部へと彼らを誘き出すのはいかがでしょうか? 私のダンジョンはこの教会そのものです。そして、知っている者も居るでしょうが私のダンジョンは少し特別でしてね。このダンジョン内ならば私は魔物を自由に転送できるのです。更に、特定の条件さえ満たせば敵ですらも転移させることが出来ます。敵を分断させれば先ほどの作戦である召喚士ラースを殺すことも容易でしょう。ですからこの場を決戦の場としたいのですが……いかがでしょうか?」


 黒十字の使徒を抹殺するという点において、私のダンジョンほど適した場所はあるまい。

 そう考えての発言だったのだが、幹部達は何とも言えない表情を浮かべていた。


 なぜ?


 彼らがなぜ不安そうな表情を浮かべているのか。その答えはすぐに明らかになった。


「教皇様……教会で決戦となれば一般市民に見られる恐れもあります。教会に魔物を出現させるなどという事をすれば、我ら教会の権威は更に失墜するでしょう。今後の事を考えると別の場所を決戦の場とするべきかと――」


 そういって、諫めてくる幹部達。

 どれもこれも、今後の事を案じる物だった。

 教会の権威が落ちる。信者が減る。得られる金銭が減る。


 どれもこれも、醜い人間の欲が感じられる懸念だった。


「はぁ……」


 思わず、ため息をついてしまう。

 愚か、愚か、愚か――実に愚かだ。


 この決戦での敗北は即ち、我らの終わりを意味する。

 黒十字の使徒の抹殺に失敗すれば廃棄処分。もうそれを忘れたのだろうか?

 それなのに今後の事? 今後の事だと? 何を馬鹿なことを言っている。



 我らにはもう『今後』についてなど、考えている余裕はないというのに。



 私は彼らのプライドを刺激しないようにして、そのことを諭す。

 まだ不満げではあったが、最終的に幹部達もこの教会本部決戦の場にする事を同意してくれた。


 そして、肝心の黒十字の使徒を誘き出す方法についてだが、王を経由して黒十字の使徒を正式に教会本部へと呼び出すことになった。


 王へと伝える内容はこうだ。


★ ★ ★


 黒十字の使徒殿の活躍は我らの耳にも届いている。その教義についてもだ。

さて、その黒十字の使徒殿の事であなたに話がある。


 我ら教会は黒十字の使徒が王からの命を受け、ダンジョンの攻略を成している事を知っている。

 というのも、我々も秘密裏にダンジョンの攻略を成しているのだ。

 しかし、先日問題が発生した。

 どうしても我らの力だけでは攻略が出来ない恐ろしいダンジョンが現れたのだ。それも、教会本部のすぐ傍にだ。


 そこで王よ。貴殿に頼みがある。


 このダンジョンの攻略に黒十字の使徒の力を貸してほしいのだ。

 もし、力を貸してくれるのならば我々は黒十字の使徒の教義を全面的に認め、教会を解体し、この身を王と黒十字教の為に捧げよう。


★ ★ ★


 要点だけ抜き出すと、このような内容だ。


 これで乗ってくれば良し。乗ってこなければまた別の手を考えるだけだ。


 だが、私は奴らはこの誘いに乗ってくると踏んでいる。


 黒十字の使徒は強大過ぎる力を持っている。

 ならば、仮にこちらの思惑を見抜いていたとしても真正面から力づくで来る可能性が高い。

 これまでの彼らのダンジョン攻略も力押しの物が多かった。

 ゆえに、勝算は十分にある。


 私は来たる最終決戦に向けて、万全を整えるべく久方ぶりに休息を取ることにした――


★ ★ ★


 後書きというか予告。


 少し長く続いてしまいましたがこれにて一旦教皇サイドの話終わりです。

 次回からラース視点に戻ります。

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