第14話『教皇様は作戦を練る-2』
――教会本部、地下会議室。教皇視点
数十分の時を要して、その場にいる全員が資料を読み終えた。
多くの者が絶望していたり、乾いた笑みを浮かべていたり、そんなバカげたことがあるかとラウンズに向けて罵倒を投げていたりと反応は様々だ。
「皆さん、落ち着いてください。なにも打開策がないわけではありません」
喚くばかりで耳を貸さないもの。己の運命を悲観して耳を塞ぐもの。私はとにかく彼らを会議へと引き戻そうと声を上げる。
だが――
「落ち着け? 落ち着け……ですと? ハッ――! これが落ち着いていられますか。なんなのですかこの化け物達は!? これが実際に起きた事だと? ふざけるな! あり得ていいわけがないでしょう!? こんな化け物が三人も……この世に居ていいわけがないだろうが!!」
喚くばかりで耳を貸さない幹部が暴れる。
だが、誰もそれを止めようとしない。その余裕がないのだ。
「怪しげな術で影を操る者が居ることはこちらも掴んでいた。だが、光の速さで動き、鋼鉄すら容易く切断できるものだとまでは聞いていない! 光の速さなど、どうやっても避けることなど不可能ではないか!! さらにこの『ラース』とやらは実は召喚士で? この『ルゼルス・オルフィカーナ』なる者を召喚したのはこやつで? そういった者を次々と召喚し、使役して戦っているだと? つまり、こいつはいざとなれば先ほど問題となっていた『ルゼルス・オルフィカーナ』級の存在をいくらでも呼び出せると? カハハハハハ。勝てん。勝てんよ。これが事実ならば我らに勝機など微塵もない。――ああ、終わりだ。我らはもう終わ――」
喚いていた幹部が勝手に諦めようとする。
その時だった――
「ふぅ……そろそろ聞くに耐えんな」
瞬間、光が走った。そう錯覚する。
何も変わらぬ室内。
だが、長い時を生きてきた私の本能が何も起こっていないはずがないと警鐘を上げる。
そして、変化はすぐに現れた。
「なんだ? 今……なにが……がぁっ!?」
先ほどまで喚いていた幹部の体が崩れ落ちていく。
ぼろぼろ、ぼろぼろ、ぼろぼろと体が黒い炭のような物へと転じ、物理的に崩れているのだ。
その現象、この場にいる物ならば誰もが一度は見たことがある。
これは……その者を不死たらしめていたダンジョンコアが破壊されたときに起こる現象。
現在、幹部達は一時、自身のダンジョンを破棄してこの場へと集まってくれている。
ゆえに、コアは各々の肉体に収まっているはず。
それを破壊するためには、当たり前の話だがその肉体を破壊なりなんなりしなければならない。
だが、崩れる幹部が攻撃を受けた様子はなかった。
ならば――なぜ?
「貴公の体内にあるコアのみを斬った。苦しむことなく逝けることだろう。痛みも何も感じなかっただろう? それは貴公の肉体が斬られた事にすら気づかなかったからだ」
あまりにも無茶苦茶な理論を語るのはラウンズのリーダー『ガイ・トロイメア』。
剣聖であった頃からずっと剣の道に生き、まだ上を、まだ上をと人間をやめてまで剣の頂を目指す超人。
まさに……神業。
「貴公には悪いと思っている。だが、あのまま放置していればこちらの士気は下がっていただろうからな。会議を円滑に進めるためにも、一人くらい見せしめで斬るのが効果的だと判断した。組織の運営に関する事以外では無能である貴殿ならば、居なくなっても支障はないだろうという己の勝手な判断もあるがな。まぁ……あれだ。恨んでくれて構わない」
「ふざっ――かぁっ――」
そうして、あまりにもあっさりと同志が死んだ。
騒がしくしていた他の者も、悲観していた者も、ただただ恐れるようにしてガイを見つめていた。
それをどう感じているのか……ガイは特に気にした様子も見せずに話を進める。
「さて、少々トラブルはあったが会議を続けましょう。教皇猊下が仰っていたように、我々にも打開策がある。それも一発逆転の物が……な」
クスリと笑うガイ・トロイメア。
その打開策とは何なのか……誰もが固唾をのんで見守る中、彼の後ろから別のラウンズの者が説明を引き継いだ。
ラウンズにおける参謀役。先ほども軽く名前が挙がった『ルナ・アウスブレンデン』だ。
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