第13話『教皇様は作戦を練る』
――教会本部、地下会議室。教皇視点
ニヴルカムイと名乗った竜人が帰り、ほどなくしてラウンズを含めた幹部達で話し合いが行われる。
議題はもちろん黒十字の使徒の抹殺についてだ。
他の議題はこの際すべて後回しだ。
これさえ成せば良いと我らが神は仰ってくださいましたからね。
しかし、現在その話し合いすらも難航していた――
「問題は黒十字の使徒をどうやって誘き出すかだ! 奴らは神出鬼没。いきなり辺境の村に現れては消え、現れては消えの繰り返しだ。黒十字教の教会本部に出入りしていた事もあったそうだが、それも数回。その際、黒十字教に潜伏させている信者達に接触させようと試みたが誰も接触出来ていない。幻術でもかけられたのか、目の前で突然消えたなどと訳の分からぬ報告をしてきている。これでは接触する事すら難しい」
「何より問題なのは彼らの正体が全く掴めていない事でしょう。これだけ暴れられて彼らに関する手がかりがゼロというのは問題ですよ。彼らの調査を一手に引き受けていたのは確か……ホウリープ殿でしたか?」
「儂のせいだけにするな!! 大体、無能は全員一緒だろう。話を聞く限り、ラウンズも亜人国や魔人国で活躍できずに見捨てられたそうではないか。そもそも、お前らが向こうで活躍していれば我々が見捨てられることはなかったのだぞ!? どうしてくれる!?」
教会を初期から支えてきてくれた幹部たちがあーでもないこーでもないと意見を言い交す。
だが、その内容は稚拙そのもの。相手の情報が全く集まっていないので、対策を立てようにも受け身にしか回れない。だから最終的に責任の所在をどうこうという方向へと話が向かってしまうのだ。
それに、ダンジョンコアを受け入れ起動する者は総じて人間である事に嫌気が差したか、誰かを憎んでか――とにかくその道しか選べなくなった
早い話、ダンジョンコアを受け入れる人間というのは無能であることが多いのだ。
ラウンズや私は例外だが、残念ながら幹部にすら無能が多いのだ。
だが、組織の運営など、細かい所に手を回せる貴重な人材ではあるので幹部に据えているのだけ。もっと使える人材が居るのならば即そいつを幹部に据えたいところだ。
目の前の醜い論争を目の当たりにして、これは神が我々を見捨てるのも無理ないですねと内心頭を抱えながらも私はそれを仲裁する。
「まぁまぁ、皆さん落ち着きましょう。今は責任の所在など気にしている場合ではないでしょう? まずは黒十字の使徒をどうにかする事が先決です。今は彼らについてのみ考えましょう」
「「「そんな事、言われんでも分かっている!!」」」
ここぞとばかりに息を合わせる
分かってないから言ったのですがねぇ……。やはりこんな使えぬ幹部達抜きで話し合うべきだったでしょうか?
しかし、作戦によっては彼らの力も借りなければなりませんしねぇ……。ああ、ままならないものです。
努めて笑顔であろうとする私だが、内心では激おこぷんぷん丸であった。神の恩寵を得て人間を脱却したというのに、なおも人間らしく醜い争いを続ける彼ら。見ているだけで腹が立つ。
――その時だった。
「失礼。発言、よろしいでしょうか?」
ラウンズのリーダー『ガイ・トロイメア』が手を上げ、皆がそこに注目する。
「貴様、役立たずの分際で何を――」
「まぁまぁ、何か案があるようです。まずはそれを聞こうではありませんか」
幹部達は多少ざわめくが、最終的に聞きに徹した。
それを確認して私は「どうぞ」と『ガイ・トロイメア』の発言を許す。
「黒十字の使徒……でしたか。かの三人組については我々ラウンズの耳にも入ってきていましてね。実は、一週間ほど前から調査をしていたのですよ」
「はっ。一週間の調査で何が――」
「――そして、奴らの素性。その後ろに王家が絡んでいること。大よその戦力。それらについての情報を我々は入手しました」
「「「なっ!?」」」
「「ほう――」」
驚きの声はラウンズを役立たずだと断ずる無能な幹部達から。
逆に、感心のため息のような物はラウンズを評価していた者たちから上がる。
「内容についてはこちらの資料をご覧ください」
そうしてラウンズの才女『リヒテル・ヴァレンタイン』がガイ・トロイメアの指示を受けて分厚い資料とやらを我々に配布する。
そこには、奴らの名前、出生地、経歴に至るまでが詳細に記載されていた。
ラウンズが鑑定技能を奴らにかけたのか、そのステータスについても資料には記載されていたのだが――
「なんだこの資料は!?」
「我々を馬鹿にしているのか!?」
「ふざけるのも大概にして頂きたい!!」
資料を少し読んだだけで、多くの者がラウンズへと罵声の声を上げる。
醜い……とはいえ、私はそれを非難する気にはなれなかった。
それだけ資料に描かれていた奴ら……特に『ルゼルス・オルフィカーナ』なる者のステータスが化け物じみていたからだ。
「ラースとセンカなる者についてはまぁいいだろう。所持している技能にやや不明な点はあるが、逆にそれさえ克服できればどうとでもなる相手だ。だが……このルゼルス・オルフィカーナ。こいつだけはダメだろう……人間の枠を完全に超えている」
「待て。そもそも1016歳というと……あれか? 教会が設立される以前からこの者は生きているという事か」
「なるほど。だからこそ奴らは教会の暗部について知りえたと?」
「はっはっは。なるほどなるほど。いやはや面白い。それでこそ我らの宿敵というわけですな」
資料を読んだ者達の多くが冗談混じりにそれを笑い飛ばす。
当然といえば当然だろう。なにせ、この『ルゼルス・オルフィカーナ』という者だけ格が違い過ぎる。
ここに記載されているステータスが真実その通りなのだとしたら、ラウンズ……いや、我々が全員で立ち向かっても勝算など皆無だ。神から与えられた黒い粉をどう使おうとも、敗北は確実。
そんな物の存在、あるわけがない。
否、認められるわけがない。
そう考え、誰もが冗談だと笑って先を考えようとしないのだ。
可能である事ならば、私もこれを冗談と言って笑い飛ばしたい。
だが――笑う者達を冷ややかな目で見つめているラウンズを見ては、そうもいかない。
私は一縷の希望を乗せ、ガイ・トロイメアへと尋ねた。
「ガイ・トロイメア。確認します。こちらに書かれていることは全て真実なのですか?」
「はい。そちらにある数値はラウンズの『ルナ・アウスブレンデン』が彼らを鑑定で見た結果です。もっとも、直接見るのは危険すぎると判断したので同ラウンズである『シュウ』の技能、知覚同調を用い倒される前のダンジョンの主の目を通じて見たものではありますが……」
「知覚同調……確か他人の感覚器官を無許可で借り受ける物でしたか」
「仰る通りです」
なるほど。その技能を用いて安全圏に居ながら敵の情報を集めたというわけか。
しかし……できれば冗談だと言って笑い飛ばしてほしかったのですがねぇ。やはり、そううまくはいきませんか。
「この『ルゼルス・オルフィカーナ』のステータス値についてですが、これは真実なのですか? 偽装などの技能を使用している可能性は?」
「さすがにそこまではハッキリしていません。なにせ、我々が見たこの者は終始防御に徹していてまともに戦っておりませんでした。ですが、魔法に特化した新米のダンジョンの主の攻撃をまるで
ふむ……。
では、あながち出鱈目だとは決めつけられないという事ですか。
そこで他の幹部が手を上げ、新たな疑問をガイへとぶつけた。
「ちょっと待ってください。ガイ殿は先ほどこの『ルゼルス・オルフィカーナ』なる者は終始防御に徹していたと仰っていましたね? では、誰が攻勢に回ったのですか? ラウンズが知覚同調したというダンジョンの主は滅ぼされているのですよね? 確かにこのラースとセンカという者もそこそこ優秀なようですが、この程度の能力値で不死であるダンジョンの主を打倒できるとは思えないのですが?」
「……それについても資料に記載しているので、そちらをご覧いただけるでしょうか?」
記載されていた情報の一部のみを見て騒いでいた幹部達が黙る。
それを見たガイは『ただ』と、最後にとんでもない事実を付け加えた。
「これだけは先に告げておきましょう。皆さまはこの『ルゼルス・オルフィカーナ』なる人物を警戒しているようですが……真に危険なのはこの者ではないと
あまりにも馬鹿げた。しかし冗談と切り捨てられないほどに真剣な表情で語るガイに圧倒され、幹部も含めた全員が配布された資料を最後まで読むのだった。
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