第6話『敵失格』
何の根拠もなしに時間停止という可能性を排除し、全く理屈に合わないことを言い出すダンジョンの主。
戦いに卑怯も汚いもないというのに……そもそもこの戦いは決闘でもなんでもないと思うのだが……ちょっと何言ってるのか分からないですね。
「まぁ良い。つまりはアレだろう? 貴様が仕込んだイカサマを私が暴けば私の勝ちというわけだ。くっくっく、何を隠そう、私は不死でな。貴様が何度私を殴り殺したとしても、私はその度に蘇るのだ。どうだ? 恐れ入ったか?」
「………………」
「くっくっく。どうやら驚いて声も出ぬらしいなぁ」
……いや、単純に呆れて言葉も出ないだけだと思いますよ?
そもそも、俺たちはダンジョンの主についての知識をある程度は身に付けている。だから、そっちが不死身なのは最初っから知ってるんすよ。それが正確には
それなのにそんな自信満々に『私は不死でな』とか『時間停止なんてあり得ない。他に何か仕掛けがあるはず』なんて的外れな事ばかり言われても……ココウでなくとも反応に困るだろう。
「――
――瞬間、ココウが全身から力を抜いた。
手はだらしなくだらんと垂れ、やる気が微塵も感じられない。
「クックックックック。潔いな召喚物。自らに勝ち目がないと悟っ――」
「貴様は敵にも値しない。名もなき雑魚としてここで朽ちていけ」
そして次の瞬間、ココウはダンジョンの主に向けて拳を振るう。
時間停止も何もない。ただの拳打。しかも全然届いてすらいない。
だが、音速を超えたそれはダンジョンの主の体を傷つけるに至った。
風圧によって頬に裂傷ができたダンジョンの主。ダンジョンの主はその出来た傷に手を伸ばし、今の一撃で自身が傷ついたことを自覚する。
「……は?」
「………………」
全くやる気を見せぬままに……ココウは跳躍する。
そうして時間停止を繰り返しながらココウはダンジョンの主を再度タコ殴りにし始めた。
「ちょっまっ、やめっ」
「………………」
だが、最初にタコ殴りにしていた時とは少し様子が違う。
殴られている側のダンジョンの主の反応は最初の時となんら変わらない。しいて最初と違う点を挙げるとするならば、在りもしないイカサマとやらを探しているという違いがある程度だろうか。
それに対し、ココウの動きは最初の時とかなり異なっている。
何も言わず、ただただ正確無比な一撃をダンジョンの主へとぶつけるのみ。
その瞳は相手を見ていない。
相手を見て、その真価を引き出そうとしていたココウだったが、相手が愚かすぎてもう愛想が尽きたらしい。
「ココウさん。すっごくつまらなそうにしてますね」
「当然よ、センカ。だって彼は強者にしか興味がないもの。相手の実力を見定めている間のココウは探りを入れ、視線で相手の動きを誘導し……なんて目には現れない戦いを楽しんでいたわ。でも、それも相手が答えなければ虚しいだけ。ここのダンジョンの主はココウが求める最低限のラインにも届かなかったようね。だから彼はああやってただ反射神経にのみ任せて相手を事務的に処理しているのよ」
そう、ルゼルスの言う通り。
ココウは戦いを好む。
だが、それはある程度実力が伯仲した状態での戦いか、もしくはココウ自身が劣勢となっている戦いに限る。
死闘を演じ、勝利して相手の血肉を食らう。
そうすることで相手の力を自身の物に出来る。
ココウが生まれた部族ではそういう教えがあり、ココウは忠実にそれを信じている。
ゆえに、ココウは強者との戦いを好むのだ。自分より遥かに格下の相手との戦闘になど彼は興味すらない。
だが、一度始めた戦いをつまらないからとひっこめることが出来るほど器用な……いや、この場合は無粋というべきか。ともかく、そんな人間でもない。
だからこそ、そんな格下と戦う時のココウはその身を反射神経にのみ任せて戦う。駆け引きもなにもない。今のココウはただ反射神経のみで戦っているのだ。
「ぐびゃ、ぶごっ、ぴげぇっ」
「………………む? これは……コアか。危うく破壊するところだった」
「そ、それはぁっ!?」
ダンジョンの主は自身の命の源とでもいうべきコアを懐に隠し持っていたらしい。
三年前の戦いのとき、アイファズは自身の源であるコアを巧妙に隠していた。それと比較するとこのダンジョンの主はアホに見えるかもしれない。
だが、意外とこういうダンジョンの主は多いのだ。
自分の命の源。そんな己の命と等価の物を隠すうえで一番安心しやすいのはどこか?
答え――自分で後生大事に抱えていればいい。
そう考えるダンジョンの主が多いのであった。
攻略するこちら側からしたら本当にありがとうございますというやつだ。なにせ、自分で大事に抱えていてくれるならわざわざ探す手間が省ける。最悪、ダンジョンの主の肉体を消し飛ばせばコアごと消えてくれるのだから楽なのだ。
「受け取れ、我が宿敵」
「おっ――と」
ココウから投げ渡されたコアを受け取る。
コアは拳大の大きさで、赤黒い光を放ちながらドクドクと脈打っていた。
「さて、続きと行くか………………」
「おまっ。いいかげ……べほぁ!?」
引き続き反射神経のみでダンジョンの主相手に作業を開始するココウ。
反射神経のみで戦っているということはつまり、ある意味手加減も何もしていないということでもある。
もちろん、今のココウは駆け引きやら何やらを考慮すれば手加減している状態だ。だが、拳打の鋭さ。無慈悲に振るわれる蹴りの威力などには手加減の欠片もない。
そんな暴力に晒されたダンジョンの主は――ハッキリ言ってもうボロボロだった。
そうしてココウによるダンジョンの主虐めはこの後も数時間続き、プライドの高そうなダンジョンの主もいい加減勝てないことに気付いたのか、白旗を上げたのだった。
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