第5話『果てなき強さを求める者』
「通常召喚。対象は――ココウ」
『イメージクリア。召喚対象――ココウ。
通常召喚を実行――――――成功。
MPを1000消費し、果てなき強さを求める者、ココウを24時間召喚します』
センカの許しを得て、俺はココウを通常召喚する。
この三年の間に、俺は多くのラスボスと意思疎通を完了させている。
話が全くと言っていいほど通じないサーカシーと斬人とはまだ良好な関係を構築できていないが、それ以外のラスボスとはある程度の意思疎通を終えている。ゆえに、こうして通常召喚することができるのだ。
それに、すぐ近くに抑止力となるルゼルスも居るしな。召喚したラスボスが暴走したとしても最悪、逃げるだけなら出来るはずだ(無論、サーカシーは除く)。
そうして俺の眼前に漫画『ディンクリング・ナイト・アドベンチャー』のラスボスであるココウが現れる。
その風体はラスボスというよりも、主人公に近い。
真っ当に鍛え抜かれた肉体を持つ青髪青眼の青年。
深紅の鎧にその身を包む闘士がこの世界に顕現した。
「アレが己の相手か……。奴が強者ならば己はそれを喰らう。異存はあるか?」
召喚されたココウは召喚されたばかりでも動じることなく、ただ召喚者である俺に問いかけてくる。
こいつは強くなるという目的以外に興味がない。ゆえに、動じない、ぶれない、曲がらない。
そんなココウに俺は許可を出す。
「コアだけは残してくれよ。それ以外は何をやってもいい。許す」
「ふん」
そう言うなりココウの姿は掻き消える。
次の瞬間、俺が目視したのは奴がダンジョンの主を殴っている所だった。
「ふん!!」
「おぼえぁぁ!?」
殴られたダンジョンの主は驚愕の声を上げている。
まぁ、気持ちはわかる。ココウは予備動作すら見せず、それなのに次の瞬間にはダンジョンの主を殴っていたのだから。
しかし、ココウがダンジョンの主を殴ったことで、相手が操っていた炎の制御が乱れる。
大質量の炎が制御を失い、このままでは無秩序に氾濫する……という所で――
「おっと危ない。あの程度で炎の制御を手放すなんて情けないわねぇ。ふぅー」
魔法で作られた炎を魔術によってコントロールするルゼルス。
炎の制御を引き継いだルゼルスはまるで蝋燭の火でも消すかのように大質量の炎を消す。
そうして、その間にも――
「せいっ。はぁっ。ふんっ! ………どうした? お前の力はその程度か? 人をやめてまで手に入れた力はその程度なのか?」
「あぶ、べっ、ぐぬぉっ」
ココウはダンジョンの主をタコ殴りにしていた。
別にここのダンジョンの主が特別弱いわけではないだろう。今までのダンジョンの主は総じて高い身体能力を持っていた。ここのダンジョンの主は魔法を得意としているみたいだが、肉弾戦だってやろうと思えばできるスペックを持っているに違いない。
それが何の反撃もできず、ただただココウにやられている理由はただ一つ。
なんてことはない。この世界において強者として君臨しているダンジョンの主よりも圧倒的にココウが強いから。理由はそれだけだ。
「弱い……弱すぎる。こんな弱さでは何も守れまい。愛するものも、ましてや自分すら守れない。やはり弱いというのはそれだけで罪なのだな。ゆえに己は――」
「言わ……せて……おけばぁっ!」
業を煮やしたダンジョンの主が無秩序に炎を噴出し始めた。
無作為に放たれるそれはただ攻撃を当てるために放たれたものだ。
当然、その余波はこちらにも及ぶが――
「おっとっと。ふぅ、乱暴ねえ」
こちらに飛び交う炎はルゼルスが張った障壁が阻む。
そして、至近距離で炎を無秩序にまき散らされたココウはというと――
「遅い」
「なっ――」
至近距離で炎をまき散らされたというのにココウの体には火傷のあと一つなかった。
そんなココウの姿を見たダンジョンの主はココウを指さして喚く。
「馬鹿な!? 貴様……貴様はいったい何なのだ!? あの男の召喚物ではないのか!? それならばあの男よりも劣るはずだろう! いや、いや、それよりもだ。それよりもなぜ私の炎をそう容易く躱せる? 目にも見えぬ程の超スピードで動いても避けることは困難であるはずだ。瞬間移動の技能を持っていてもそれは同じはず。貴様……いったい何をしているのだ!? 答えろ!!!」
みっともなく騒ぐダンジョンの主。
それに対しココウは自身がやっている事を惜しげもなく明かした。
「己の能力を敵に明かす馬鹿が居ると思うか? ……まぁいいだろう。己も馬鹿になってやる。己がやっているのは時間の停止だ。己は数秒間だけ、止まった時間の中を動けるのだ。そうして貴様の攻撃を避けた。さぁ、種は明かした。貴様の強さを示してみろ。俺はそれを真正面から受け、乗り越えてやる」
「………………は?」
口をあんぐりと開けているダンジョンの主。
そう――ココウが先ほどから行っているのは時間停止だ。
鍛え抜かれた肉体のみを用い、時間が止まった世界でココウのみが動ける。
俗に『ココウ・タイム』と呼ばれていたココウを代表する技である。
ちなみに時間停止中、ココウは物体にほぼ干渉する事ができない。ナイフや相手の肉体を移動させたりは出来るのだが、破壊はできないのだ。
止まった時間の中にあるものは不変。だからこそ傷つかないし壊れない。これがココウの居た世界『ディンクリング・ナイト・アドベンチャー』における法則だ。
「くく。はははっ」
自身の能力について詳細に語ったココウに対し、ダンジョンの主は乾いた笑みを浮かべる。
勝機を見出したのか、あるいは――
「ふは、ふはっははははははははぁ! 語るに落ちたな卑しい召喚物めがぁっ! 時間を止めただと? そんな神にも等しい行いを貴様程度の俗物にできるわけもあるまい。つまりはあれだろう? それとは別に何か仕掛けがあるのだろう。表現できないほど汚い手段で私を謀っているのだろう? そうに違いあるまい。くそが、この卑怯者め。さすがは卑しく矮小な召喚物よなぁ。決闘をなんだと思っているのか。恥を知れぇっ!!」
ダンジョンの主さんがなんかよく分からん事を言い始めた。
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