第2話『影の担い手』
――とあるダンジョン内部にて
俺とルゼルスとセンカはダンジョン内部へと侵入した。
目指すは最下層だ。ダンジョンに必ず居るダンジョンの主。まずはそいつに用がある。
ダンジョン内にはかがり火がたかれており、暗くて前が見えないということはない。
それは、ダンジョン内に現れるこいつらの為の光源だ。
そう――ダンジョン内では必ずこいつらが現れる。
「シンニュウシャッ! シンニュウシャッ!」
「ゴーレムタイガジカンをカセイデル。ソノアイダにアルジにホウコク――」
魔物――全ての生物に対し敵対行動を取る異形の化け物。
今この瞬間も地上で暴れまわっているであろう存在。
下級の魔物なら訓練されていない人間でもなんとかなる程度。しかし、大抵の魔物はそうではない。訓練された人間でもなければまともに相手もできない難物だ。
ダンジョンはそんな魔物を生み出す生産工場のようなものだ。
だからこそ、ここではこうして魔物がわらわらと出てくる。
魔物にも様々な種類がおり、目の前には多種多様な魔物が展開されている。
本来、魔物は知性を持たないためこうやって様々な種族が一丸となることはない。そもそも、こうやって喋る事すらないはずなのだ。
だが、ことダンジョン内においてはその限りではない。
ダンジョン内での魔物は能力値が倍となり、知性を持つからこうやって喋るし、一丸となって侵入者に対処したりするのだ。
訓練された人間でなければまともに相手できない魔物。ダンジョンにはそれらが溢れるほど存在する。ゆえに、ダンジョン攻略はかなり難易度が高いとされている。そのような理由もあって、ダンジョンについての情報は公にされていない。
しかも、ここに出てきた魔物はどれも手ごわそうだ。通常の冒険者パーティーではこのダンジョンに踏み込んだ瞬間に死に絶えるだろうなと思えるくらいの脅威。
最上級クラス――A級以上の魔物が幾体も見える。魔物の総体数も多く、見えるだけで数百の魔物がダンジョン内にはひしめいていた。
現在、俺たちはダンジョン内の魔物を展開させるために用意されたと思われる広場にいる。そして奥からは絶えずに魔物の増援がやってきていた。
無理、無茶、無謀。撤退すべき。
否、撤退すらも至難の道である。だが、生き延びる道はそこしかない。
この光景を見た誰もがそう言うだろう。
だが、それは普通の者から見た場合の評価だ。
生憎、この場に普通の者などいない。
「ゴーレムタイダァ? ンナモントックニトッパサレタヨォッ」
「バカナッ!?」
手ごわいはずの魔物たちの間に動揺が走る。
それを前にしてくすくすと笑う黒衣の女が一人――ルゼルスだ。
「くすくす。こんな魔力も通っていない石ころで私たちを止められるわけがないでしょう?」
そう言って黒炎の魔術でゴーレムやその他の魔物を一瞬で燃やし尽くすルゼルス。
彼女が操る黒炎は岩だろうが鉄だろうが一瞬で燃やし尽くす。
この場にいる魔物では、時間稼ぎすらできない。
「ナラ……ウシロデウデクンデルアイツカラシマツシテヤルァッ!!」
そう叫び、後ろに引っ込んでいる俺めがけて突進してくる鳥型の魔物。
そんな魔物を俺は何もせず、ただ腕を組んで眺めていた。
そこへ――
「ラース様は傷つけません。影縛り」
「グガァッ」
センカの拘束術が炸裂。鳥型の魔物が捕らえられる。
三年前は自身の技能である『操影』を使いこなせていなかったセンカだが、今ではこの通り。自身の技能をほぼ完璧に使いこなしていた。
この三年の間、センカは師匠であるリリィさんの手ほどきを受けていた。その修行の成果だ。
今の彼女は影を自由自在に操る事ができる。
影を操って対象を縛ったり、影を鋭利な刃物として振るったりする事が出来るのだ。
そうやってセンカは素早く飛び回る鳥型の魔物を質量を持った影で捕らえた。
鳥型の魔物も素早かったが、センカの操る影はそれよりも遥かに早い。
本来、影とは質量を持たない。光によって見える形でしかない。
だが、そんな論理など放棄し、影が質量を持ったとしたら? そしてそれを動かせるとしたら?
その速さは如何ほどなのだろうか?
答えはここにある。
光によって生まれた影の速さは、源である光と同じ速度らしい。つまりは光速だ。一秒に地球を七周半できるほどの速さ。
いかに鳥型の魔物が素早かろうと、その速さは音速にも届かない程度。
そんな魔物が光速で動くセンカの影を避けることなど……不可能。
「ラース様に仇なすものは全てセンカの敵です……踊れ、
そして、魔物を捕らえていた影が鋭い刃となって対象を細切れにする。
鳥型の魔物は声すら上げずに絶命した。
「さて、それじゃあそろそろ俺も――」
久しぶりに暴れるか。
そうして一歩を踏み出す俺……のはずだったのだが……。
「……あの、体が動かないんですけど……」
右足を上げた状態で静止する俺。
力を入れても全く動かない。
これは……またアレか……。
「お察しの通り、影踏みですよ。ラース様♥」
背後から聞こえるセンカの声。
俺の影を踏み、動けないようにしているらしい。
「あのー……センカさん? その能力解いてもらってもいいっすか? 俺もそろそろ暴れたいんだけど……。ラスボスの力を色々と使ってみたいしさ」
少し下手に出てセンカに能力を解除するように懇願する俺。
しかし、やはりそんな願いは叶えられなかった。
「ダメです! ラース様は私たちの中で一番弱いのに無茶するんですもん。おとなしくしていてください。あ、それと召喚術は使わないでくださいよ。今は通常召喚もダメです。もし使おうとしたら口も動けなくしますからね?」
「うぐぅっ」
一番弱い。
ハッキリとそういわれ、少し傷つく俺。
だが、センカの言うとおりだ。召喚術込みならば俺はこの三人の中で一番強い自信があるが、召喚術を用いれないのならば俺はこの三人の中で一番弱い。
それこそ、今センカとルゼルスが片手間に処理している魔物達相手でも苦戦するレベルだ。
「ラース様の召喚術はここぞという時に使ってください。それにラース様。MPを消費したくないでしょう? なら、おとなしくしているべきだと思います」
正論だ。
ゆえに、何も言い返せない。
いつもと同じ。俺が戦いたいと言って、それをセンカが拒む。
今までも何度かこうして暴れさせてくれと言ったことはあるのだが、全部正論でもって返されてしまっている。
しかも、それが俺の身を案じてのことだと理解できてしまっているだけにやりづらい。
「くすくすくす。尻に敷かれているわね、ラース」
数多の魔物を灰燼へと返しながら、ルゼルスがこちらを見てくすくすと笑う。
この程度の魔物の相手など、ルゼルスからすれば余興でしかない。余裕たっぷりといった様子で文字通り片手で魔物の相手をしながら俺と言葉を交わす。
「本当にな……。今の俺、なんなの? このパーティーの足を引っ張るだけの存在と化してるんだけど」
「大丈夫ですよラース様。確かにラース様は召喚術を用いないと私たちの足元にも及びませんし、正直このパーティーでのお荷物でしかないかなって思ったりもしますけどそんなの関係ないんです。ただラース様が傍に居てくれるだけで、センカはいっぱいいっぱい頑張れちゃうんですから」
「…………………………アア、ソウデスカ」
センカ、それ……フォローしているつもりなの? 俺、しまいには泣くよ?
いや、確かに事実ではある。
三年前、ルゼルスの力の一端を手に入れ強者となったつもりだった俺。
つもり……ではないか。実際、俺はそれなりの強者となったのだ。
世間では数えるくらいの人間にしかなることが出来ないと言われているA級冒険者。それに匹敵する力を俺は手にした。
だが、センカはそんな俺の力を一年近い修行とレベル上げだけで凌駕したのだ。
★ ★ ★
次回、ラース&センカのステータス公開
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます