第63話『三つの要求』


 王様の頼み。

 このタイミングでの頼み……何となく想像はつくが、まずは聞くとするか。


「……内容にもよりますね」


「なに、察しはついているだろう? 魔物を生み出し続けているダンジョン。貴様にはそのダンジョンコアの破壊に協力して欲しいのだ。無論、支援は惜しまんし、何か望むものがあるなら何でも与えよう」


「ふむ……」


 ダンジョンとは魔物が生み出され続ける場所。即ち、危険地帯だ。

 だが、俺の目的は多くの魔物を狩ってラスボス召喚の為のMPを貯める事。だから、そう悪い仕事内容ではない。

 それこそ、クエストの一種だと思えば支援も貰えるらしいしかなりお得なんじゃないだろうか?


 ――と、俺がそんな事を考えている時だった。


「ふざけないでください!!」


 ダンッと床を蹴りながらセンカが怒鳴る。


「そのダンジョンが色んな人たちを苦しめているっていうのは理解出来ました。確かに、そんなのは早めになんとかしなくちゃいけないと思います。でも、でも……ラース様はまだ子供なんですよ!? そんな子供になんて事を頼んでるんですか!? 王様として恥ずかしくないんですか!?」


 相手は王様だというのに遠慮なしに怒るセンカ。


「うむ。まぁお主の言う通りだな。だがな小娘。これはラースにしか出来ない事なのだ。だから余は恥も外聞もかなぐり捨てて十三歳の子供にこうして頼んでいる。頭を下げることも厭わぬ。こうして話している間にも多くの民が魔物による被害を被っているかもしれんのだからな。そんな民たちの嘆きを失くせるかもしれないのに努力しないというのも……王として間違っていると、そう思わぬか?」

「そ、それは――」


 王の真っすぐな目に射抜かれ、言い淀むセンカ。

 確かにセンカの言う通り、まだ十三歳の俺にそんな重大っぽい任務を与えようとする王は責められるべきとも思う。


 だが、それ以上に王様の言い分は正しく思えた。


 為したいことがあり、それに手が届く手段があるならば恥も外聞も捨てて飛びつくべきだ。少なくとも俺はそう思う。

 ましてやそれが民の為だというならば、王としてその選択は正しいと、そう思うのだ。


「――いいですよ」


 だから、俺はそのクエストを受ける事にした。


「ラース様!?」

「ほぅ」

「くすくす」


 センカは驚きに満ちた目でこちらを見つめ、王は興味深そうな物をみるようにこちらを品定め、ルゼルスは何が面白いのか分からないが、くすくすと笑っている。


 そんな三人に見られる中、俺は指を三本立て、


「ただし、こっちからもお願いがあります。三つ」


 王様に対し、そんな事を言い放っていた。

 王様は何も言わず、先の言葉を待っている。

 なので俺はそんな王様に三つの要求を出した。


「一つ、俺は『主人公召喚』という技能を持ってる人を探しています。とはいえ、そんな技能が本当にあるのかも疑問なんですけどね。ただ、もしその情報があるならこちらにも教えて欲しいです。

 二つ、魔人に対する差別の撤廃を求めます。魔人が今まで人間に何をしたのか知りませんけど、無害な魔人が虐げられるのは見ていて不快です。ここに居るセンカも半分魔人っていうだけで虐げられてきました。

 三つ、判明しているダンジョンの位置など、魔物やダンジョンについて新たに分かったことがあったらその度に情報を寄越してください。

 以上、三つ。これらの要求を呑んでくれるのなら俺はダンジョンのコア破壊に協力しますよ。もっとも、ペース配分はこちらに一任してもらいますし、活動資金なんかも出してもらわないと困りますけど」


「ふぅむ……」


 王様が腕を組んで、俺の要求に対して何やら考え込んでいる。

 そうして一拍置いた後、王様が口を開いた。


「まずは一つ目の要求だが、良かろう。『主人公召喚』などという変わった技能の持ち主など聞いたことはないが、探させてみるとしよう。

 二つ目の要求だが……すまぬな。不可能だ。魔人への差別は余が王となる前から人民に浸透しているもの。そんな昔から根付いた意識をいきなり変える事など出来ぬ。そもそも、『魔人を差別せよ』などと余が言い出した訳でもないしな。

 そして三つ目の要求だが……引き受けてくれるのならば当然情報や報酬は惜しみなく出すし、やり方はそちらに一任する。ラースの召喚術は周りを巻き込むものだと言うし、戦闘面ではこちらは手が出せんだろうからな」


 要求が二つ目以外通った。

 それだけこちらを評価してくれているという事だろうが、それよりも気になるのは……


「魔人への差別ってそんな昔からあるんですか? そもそも、魔人って人類に対して一体何を仕出かしたんですか?」


 そう、これだった。

 そもそも、俺はなんで魔人がそんな差別を受けているのか知らない。

 もちろん『魔人は人類の敵』と教会が喧伝しているのは知っている。多くの人たちがそういう意識を持っていることも知っている。

 だが、魔人が具体的に人類に対して何をしたのか? 俺はそれを何も知らないのだ。


 果たして、その答えは――


「知らん」

「………………へ?」

「だから、知らん。余も気になって父に聞いたり、歴史書を読み解いたりなどしてみたが分からぬ。現代でも魔人は稀に我が国に潜伏しているのが発見されたりしているが、そやつらも特に人間に危害を加えたりせんしな」


 まさかの『知らない』だった。

 どれだけ昔から魔人への差別が続いているか、そしてなぜ魔人がそこまで人類に忌み嫌われているのか、王であっても知らないというのだ。


「……そんな事、あります?」

「あるのだから仕方なかろう。余だってこの現状をなんとかしたいという想いはある。あるのだが……なぁ。魔人の国と連絡を取ろうにも国内の情勢が安定しないというのもあって不可能であるし、何より教会が邪魔でのぅ。奴らの教義の中に魔人は人類の敵というものがあるため、魔人と繋がろうとすれば確実に邪魔となる。ただ、教会が民衆の支えとなっているのも事実であるしどうしたものかと……」


 今までに見せたことのない弱気な面を見せる王様。本気で困っているように見える。

 本当に……王様ってのは難儀な役職だよなぁ。


「それなら教会を潰せばいいじゃない」


 そんな中、ルゼルスがそんな事を言い出した。

 え?

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