第64話『教会をぶっ潰そう』



 ルゼルスがいきなり『それなら教会を潰せばいいじゃない』とか言い出した。

 いや、王様の話では確かに教会が邪魔だって話だけど……さ。


 そもそも、教会を潰すってルゼルスさん……思いっきり私怨混じってないですか?


「カァッカッカッカッカッカッカ。無茶を言うのぅ。だが、そうもいかぬのよ。国内の情勢が魔物による被害で安定しない中、教会を潰すわけにはいかん。魔物に怯えて日々を過ごす民衆は多い。僻地へきちに居る者は特にそうだ。そういった者が何にすがって生きているか知っておるか? 神……つまりは教会の教えよ。そんな民衆から信ずるべき対象を国が取り上げなどしたら確実に暴動が起きるわ。教会には独自の戦力もあるゆえ、こちらも相応の深手を負うだろうしのぅ。今は人間同士で争っている場合ではない」


 まぁ、ですよねー。

 困った時ほど人は神頼みする。

 今まで僻地になんて足を伸ばしたことはなかったけど、そんなに魔物による被害やらが相次いでいるならそりゃ神の一つや二つ信じたくもなるだろう。


「何も国の強権や武力を使って教会を潰せだなんて言っていないじゃない。まずはそうね……教会の権威というものを地の底に落としてやるのよ。時間はかかるけれどやれるわ。くふっ、くふふふふふふふふふふ」


 ものすごく黒い笑みを浮かべるルゼルス。

 あー、これ、もう完全に頭の中で教会を敵に回しちゃってますね。

 まぁルゼルスは元々死ぬほど教会が嫌いだし、こんな話題になったらそりゃ教会を潰す方向で話を持っていくよね。


「アレイス・ルーデンガルヴ国王! あなたの力も貸してもらうわよ。もちろん、私たちもダンジョンの件、受けさせてもらうわ。それが教会の権威を落とす材料にもなるしね」


 そして、いつの間にやら俺が握っていたダンジョンコアを潰す協力をするかしないかの決定権をルゼルスがかっさらっていた。あれぇ?


「ほぅ……。面白そうだ。話を聞かせてもらおうか。カァーッカッカッカッカッカッカ」

「くすくすくすくす」



 思いっきり笑い合うルゼルスと王様。

 俺はそんな二人を見つめ、


「まぁ……MPの為にもこのクエストは受けるつもりだったからいい……のか?」

「ら、ラース様……ルゼルスさんって本当にラース様が愛する方なんですか? なんだか置いてけぼりにされちゃってますけど……」


 それを言われると少し痛い。

 確かに今のルゼルスは俺の事など見向きもせず、楽しそうに王様と『THE・教会潰すぜ』計画を練っている。

 寂しくないと言えば嘘になる。


 ――と、そんな俺たちの視線に気づいたのか、ルゼルスはこちらに手招きしてきた。


「ラース、センカ。あなた達も協力なさい。あなた達も教会には良い思いを抱いていないでしょう?」


「うーん、まぁ、確かにその通りだけど……」

「センカは別にどちらでも……ラース様に付いていくだけですし……」


 ルゼルス程の熱意がない俺とセンカは教会を潰す計画には消極的だ。

 いや、確かに俺もこの世界の教会には良い印象を抱いていないよ?


 センカを傷つけようとしたババァシスターにはムカついていたし、さっきの王様のいう事を全部信じるなら教会が魔人を悪者に仕立て上げているみたいだし?


 だけどなぁ……教会なんて大きなものの権威を落とそうと思ったらそれなりの工作は必要なわけで。

 つまりは色々と面倒臭い訳で。

 残念ながら俺にはそんな色々と面倒くさい事をしてまで教会を潰そうって思えるほどの熱意……ないんだよなぁ。


 そんな俺の機微を悟ったのか、ルゼルスはタッタとこちらに駆け寄ってくる。


 そして――ベッドで寝ていた俺へとダイブし、抱き着いてきた!?


「うぉぉっと」

「ふふ」

「ふへぇっ!?」

「ほぅ……」



 当然のように動揺する俺。

 好きな女の子にいきなり抱き着かれたのだ。

 これで動揺しない男なんてこの世にいないだろう。


 それを知ってか知らずか、ルゼルスは俺の頬に指を這わせ……それとは反対の頬にねちっこい口づけをしてきた。


「ふぅ……んむ……はぁ……」

「んっ――」


 あまりにもくすぐったいその行為に声を漏らす俺。


「ちょっなっ、えっ!? わわっ、わわわわわわわわ」

「ほぅ……」


 外野が何やら騒いでいるが、そんな事がどうでもよくなるくらい俺の頭の中はパニックに陥っていた。


「ちゅ……はぁ。ふふっ。可愛い声を出すじゃない、ラース。やっぱり坊やには刺激が強すぎたかしら? くすくす」


 からかうようにして俺の頬に指を這わせるのをやめないルゼルス。

 だが……坊やと言われて黙ってる訳にはいかない!


「んなっ……そんなわけないらろ!?」


 ………………噛んだ。

 そんな俺を見て笑みを深くするルゼルス。一体どういうつもりなんだ?


「教会を潰す計画……私の見立てが正しければ三年くらい時間がかかるわ」


 俺の体に指を這わせながら教会を潰す計画について語るルゼルス。


「三年後、ラース。あなたは十六歳になる。確か、この世界で結婚が出来るのは十六歳からだったはず。アレイス王、そうでしょう?」

「………………ぬ、儂か!? う、うむ、その通りだ」


 いきなり話題を振られた王様が少し狼狽うろたえながらも答える。





「私はずっと、アレイス王の様子を伺っていたけれど、彼の話に嘘はなさそうだった。つまり、教会は勝手に魔人を悪者にして正義面していると見ていいと思うの。私の故郷を蹂躙じゅうりんした十字軍と同じようにね」


 ルゼルスの目が一瞬険しいものへと変わる。

 それは過去の自分の境遇を思い出してか。この世界の教会への怒りがそうさせたのか。それは分からない。


「私はやっぱり教会が嫌い。教会から異端のように扱われている魔人たちを私のような目にあわせたくない。半分魔人のセンカを見ても、魔人が悪しき存在だなんて思えないしね。だから、そうなる前にこの世界の教会も早めに滅ぼしておきたいの。その為にラース……あなたの力を貸してくれないかしら?」


 確かに、半分魔人だというセンカを見る限り、魔人が悪というのは何かの間違いなんじゃないかと思えてしまう。

 だから、教会を潰す計画とやらには力を貸してもいいと思っている。

 だけどなぁ……まだ決心が固まらな――


「もし、あなたが力を貸してくれるのなら……私の為にあなたが頑張ってくれるのなら……私は嬉しいわ。嬉しすぎて、もしかしたらあなたを一人の男性として愛するようになってしまうかも。もし、仮にそうなったら三年後……結婚しましょう? そうしたら坊やでは経験できない快楽をあなたに味わわせてあげる♪」


 ――俺の決心が固まった瞬間であった。


「よっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁ! 教会ぶっ潰すぞぉ! 教皇も司祭も何もかも皆殺しじゃぁぁぁ!!」

「なっえぇぇぇぇぇ!?」

「ほぅ。そう来たか。面白い。その時、国の情勢が安定していれば余がその結婚式、盛大に祝ってやろう。クァーッカッカッカッカッカッカッカ」


 かくして、俺の目的に打倒:教会が加わった。


「くすくすくす。やる気になってくれて嬉しいわ、ラース。ただ、そんな野蛮な事はしないのだから落ち着きなさい。あくまで教会の権威を落とすだけよ。血が流れるかどうかは……向こうの対応次第という所かしら。――さて。それじゃあ今度こそ私の考えを聞いてくれるかしら?」


 そうして俺たち四人による『THE・教会潰すぜ』計画の計画立案&修正が行われた。

 主にルゼルスが提案を出し、それをいくつか王様が修正を加えていくという構図。


 そうして計画がまとまり――王は判明しているダンジョンの位置を俺たちに教えたのち、方々へと手を回すために立ち去った。寝ていた勇者達はたたき起こされ、何が何やら分からないといった感じで王に付いて行った。

 

 そして、俺たちはというと――


「よっしゃやるぞルゼルス! センカ! 今すぐダンジョン踏破じゃぁ!」

「ラ、ラース様ぁっ! もう少し安静にしていてくださいよぉ」

「そうよ。ダンジョンを攻略するのはもう少し安静にしてからにしなさい。それに、いくら私たちが急いても意味はないわ。ゆっくり、着実にやるからこそ意味があるのよ? だから……今はゆっくり休みなさい。ラース」


 俺の額を可愛らしく指で押してベッドに倒すルゼルス。

 

 うん、なるほど。確かにルゼルスの言う通りかもしれない。今は休むべき時だな。


「分かった。じゃぁ――お休みなさい」


 もぞもぞとベッドに潜る俺。


「むぅ……ラース様……ルゼルスさんのいう事ばっかり聞いて……センカもルゼルスさんみたいに押しを強くしなくちゃなんでしょうか(ボソッ)」

「くすくすくすくすくす。前途多難というやつね、センカ」

「むぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ――」



 ベッド周りが騒がしい中、俺はこれからに備えて眠った――



★ ★ ★




 数日後。

 王様と連絡を取りながら俺たちの『THE・教会潰すぜ』計画は始まりを告げた。

 様々なダンジョンのコアを破壊し、地上に跋扈ばっこする強力な魔物を派手に倒したりなどの活動をして――


 三年の月日が経つ。



★ ★ ★


 これにて一章終了です!

 ここまで読んでくださりありがとうございました。

 二章は『青年期 教会崩壊編』という感じで続くと思います。(未定です)

 それと、活動報告にも記載するのですが、ちょいとストックがほぼ尽きてしまったので多分二週間くらい投稿休みます。

 ストックが貯まったらまた毎日更新しようと思いますので、よろしくお願いいたします!

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る