第62話『魔物の起源』



 王様から魔物について色々と聞き出した。

 それらをまとめると――



 ☆魔物は全てダンジョンで生まれし異形の生物である。


 ☆ダンジョンとは昔からいくつも存在しているものである。世間一般で知られているダンジョン(学園のダンジョン等)はダンジョンと呼ばれてはいるものの、紛い物であり魔物を生み出す機能などはない。


 ☆魔物を生むダンジョンには必ずそれを治めるあるじが居て、それを滅ぼすには拳大の大きさのコアと呼ばれる物を破壊しなければならない。それ以外の方法でダンジョンの主を滅ぼすことは不可能。


 ☆コアを破壊した者は技能として『コア作成』を獲得する。コア作成を持つ者を殺害した場合も同様に、殺した側は『コア作成』技能を獲得する。


 ☆『コア作成』技能は使用型の技能であり、所有者が使用しようとしない限りその力が発揮されることはない。


 ☆『コア作成』技能を発動した者のステータスは数倍となり、強化される。更に、使用者が指定した地はダンジョンとなり、その中に存在する全ての魔物への命令権を得る。


 ☆ダンジョンを形成しているコアを破壊すればそのコアから生み出されたダンジョンは消滅する。そのコアから生み出された魔物も全て息絶える。


 ☆ダンジョン内の魔物は知性を獲得し、その力も倍となる。


 ☆原則、生み出されたコアは生まれたダンジョンより外に持ち出すことはできない。


 ☆『コア作成』技能を発動した者はいつでもダンジョンを終了させることが出来る。そうした場合、生み出されたコアは技能使用者の体に埋め込まれ、ダンジョン外にも持ち出し可能となる。ただし、そこで生まれた魔物は消えずにその場に残る。技能使用者はコアがある限り、いつでもダンジョンを再展開することが出来る。


 ☆『コア作成』を使用した者は今の所一つの例外もなく、魔物以外の生物を滅ぼそす存在と化している。

 人類の為にと『コア作成』技能を使用し、『魔物には魔物を』とぶつけようとする者が過去に居たらしいが、結局うまく行かなかったらしい。

 最初は上手くいっていたらしいが、数年後、その者は守るべき人類に牙を剥くようになってしまったのだと。


 ☆コア自体の起源は不明。だが、いくつかのコアを破壊しているのにダンジョンは増える一方なのだとか。おそらくどこかで生産されている。


 ☆一つのコアにつき、生み出せることが出来るダンジョンは一つ。



 ――とまぁ、こんな所か。


 要は、ダンジョンとやらが魔物を量産しているって感じらしい。

 そんでもって、ダンジョンには必ず主というのが居て、そいつを倒すには(本来)コアを見つけて破壊しなきゃいけない……と。

 俺はサーカシーの力でアイファズを退けたけど、あれも別に殺した訳じゃないしな。

 あの対処法は例外中の例外だったってやつか。



「魔物ってそういうふうに生まれてたんですね。知らなかったです」

「当然だ。この事は一部の信用出来る者にしか話しておらん」

「そう言えば大衆に知らせる訳にはいかないとか言ってましたもんね。それはどうして?」

「それは――」


「想像はつくわ。力を求めてダンジョンに向かう者を出さない為でしょう?」


 横から口を出すルゼルス。


「人間の欲望には果てがない。先にあるのが破滅だと分かっていても力を求める者は必ず現れるわ。そんな人間達に今の話をしたら……醜い競争が行われるでしょうね。それで仮にダンジョンのコアとやらを破壊できたとしても、力を求める人間ならば確実に『コア作成』技能を使う。そうして新たにダンジョンが形成されてしまうから魔物の数は一瞬しか減らず、何の解決にもならない。だから公表しない……こんな所かしら?」


「その通りだ。そうして力を求め、破滅した阿呆を余は実際に見てきたからのぅ」


 なるほど。王様も苦労してるんだなぁ。


「剣聖の次男であったアイファズもそうだ。奴はラースを倒す力を得るためだけに実の父を殺した。ダンジョンやコアについては剣聖のズヴェラに聞いたのだろう。奴にはコアについて話していたし、実際にダンジョンを攻略させたこともあったからな。奴には後任の育成のためにしばらく休暇を与えていたのだが……まさかこんなことになるとは思わなんだ」


 王様が頭を抱える。

 ――そう、俺の父。ズヴェラ・トロイメアはアイファズに殺されたらしい。



 実家の方で父上と冒険者学校の校長が死体で発見されたのだとか。そして死体に残った様々な要因から犯人はアイファズだと断定されたらしい。


「父上がアイファズに殺されるなんて……」


 実の親が弟の手によって殺された。

 別に悲しいわけではない。強がりでも何でもなく、本心からだ。


 なにせ、俺はそこまで父の事が好きだったわけではない。

 むしろ、嫌いだった。憎いとまでは言わないが、良い印象なんて全くなかった。


 子供だった俺とアイファズに戦闘技術を叩きこみ、出来ない方を蔑む父。

 挙句の果てに勘当までされたのだ。好きになれるはずがない。


 だが……その行動も王様の為に強い後任を生み出すためだったのだと思えば……少しだけ理解も出来てしまう。


 だからだろうか?

 そんな父親ともう話せないのだと思うと……なんだか少しだけもやっとしてしまった。


「館で争った形跡はなかった。おそらく不意をつかれたのであろうよ」

「そうですか……」


 少しだけしんみりしてしまう。

 ――と、そこで思い出した。


「あ、そうだ。アイファズを無力化した際、俺たちはコアの事とか知らなかったんで放置してたんです。あのままだったら魔物がまた湧いてきたりとかするんじゃ――」

「心配には及ばぬ。そこのルゼルス嬢からコアの場所を聞き出し、昨日の内に破壊は済んでおる。もうあの地はダンジョンではなくなり、魔物も湧かぬようになっている」

「そうですか………………良かった」



 胸を押さえてほっと一息つく。

 いくら縁がほぼ切れているとはいえ、弟絡みの事でこれ以上他者に迷惑はかけたくない。

 それに、この街の事はそれなりに気に入っているからな。

 この街を魔物が湧く場所になんかさせたくないのだ。


 そんな事を考えていると、王様が何やら値踏みするかのような視線をぶつけていることに気づいた。




「えっと……どうしたんですか? 王様」

「いや、なに。思ったよりまともな人格であるのだな……と」

「はい? なんですか急に。人を異常者か何かみたいに」


 いくら王様でもさすがに失礼だと思う。

 まぁ、王様は俺が壊してしまった武器の補填とかもしてくれたらしいし、借りがあるからそんな事、口には出せないけど。


「いや、余が冒険者学校でみかけた貴様は異常者と言って差し支えないアレだったと思うのだが……敵はともかく関係の無い者まで斬っておったし……」

「アー、アレミチャッテマシタカー」


 そっか。王様、あの時あそこに居たのか。

 俺が冒険者学校で対戦相手を殺し、更には罪もない審判にまで手をかけたとき。

 あの現場を見られてたのなら……うん。異常者だと思うのも頷ける。


「あれはまぁ……さっき話した憑依召喚の影響ってやつですよ。俺の体を媒介に召喚した対象が少しやんちゃしちゃったんです」

「んんんんんんん? 少し……やんちゃ……した……だと? あれが……少し?」


 王様と俺の認識に何やらズレがあるような気がしたが、まぁ些末さまつな問題だろう。横に置いておく。


 ちなみに王様にはラスボス召喚について軽く説明済みだ。

 といっても、王様は既にギルドから俺のラスボス召喚について聞いていたらしく、補足説明する程度だったが……。


「だけどいいんですか王様? あれ見てたんなら知ってるでしょう? 俺、罪もない審判を斬り捨てたんですよ? 捕まえなくていいんですか? 俺は捕まるのが怖くて遠くのこの街まで逃げてきたんですけど……」


 俺がこのスタンビークに流れ着く原因となったのは俺が犯罪を犯してしまい、このままでは追われると思ったからだ。

 だが、その事について王はさっきから何も言及していない。それどころか礼を言わせてくれとまで言ってきている。

 てっきり、俺が犯したあの事件の事を知らないんじゃないかと思ったのだが、どうやら知らないどころかその目で見てるっぽいし……どゆことなの?


「あぁ、良い良い。理由はどうあれお主のような規格外の力を持つ者を敵に回せるか。お主が全人類を滅ぼすとか言わん限り、余は貴様の敵に回る気はない。それに、事情も今しがた聞いたからのぅ。情状酌量の余地は十分あるだろうよ」


 え、それってつまり仮に俺が狂った犯罪者であっても捕らえるつもりは無かったって事?

 それはそれでなんというか……豪快な判断をするな、この王は。

 いやまぁ、それだけ余裕のない状況に人類が立たされてるって事でもあるんだろうけどさ。


「まぁだがそうさな……。もし少しでも悪いと思ってくれているなら貴様に頼みがあるのだが良いか?」

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