第61話『情報交換』


「……貴様ら、なんのつもりだ?」


 そうして静かに怒りの声を上げたのは俺ではなく、王様の方だった。

 最初に抑えられた従者は開放され、従者全員が俺に対して敵意を示している。

 王様の命令とかじゃなく、この従者達の意思みたいだが……。



「こいつ、こっちが下手に出てればいいたい放題……これ以上は看過できませんっ!」

「このガキ、いくら強いからって調子に乗りすぎだろうがボケェッ!!」

「子供と言えど王への不敬、さすがに見過ごせません」

「……どれだけ強いか試してみたいと思ってた」



 一振りの大剣を両手に持ち、爽やかそうな好青年が。

 盾を構えてちょっと野蛮そうな青年が。

 白の修道服に身を包み、全員の一番後ろで杖を構える金髪碧眼の少女が。

 黒のローブに身を包み、金髪碧眼の少女の斜め前で杖を構える紫髪・琥珀色の目の少女が。


 ――俺に怒りの矛先をぶつけていた。

 いや、最後の一人は怒ってないな。どっちかというと腕試ししたいっていう感じだ。



「お主ら……いい加減に……」

「いや王様。さすがにこれはもう見過ごせませんよ。そもそも、この子達の評判もあまり良くなかったじゃないですか。街で聞いたでしょう? 昨日なんて兵士や冒険者へと暴言を吐いた挙句、その武器を無断で奪っていくつもダメにしたとか。王様はそんな彼らの武器に対し補填までしたというのにこの子供ときたら……」


 え? それは酷い。そんな非道な事をするやつがいるなんてなぁ。

 唯一の武器を勝手に奪われ、しかも返されもせず壊されたりなんてされたら俺もキレちゃうね。



 ………………え? 俺そんな事したっけ?



「だから言ったじゃないですかラース様。言い過ぎだって。センカもさすがにアレはどうかと思いました。本当にラース様はもう……後先考えないんですから。あの……皆さん。どうか武器を収めてください。ラース様には私からよく言い聞かせておくので……」


 センカが武器を前に恐れることなく前に出て、従者達に向けて頭を下げる。

 いや、あの……そんな不出来な子を持ったお母さんみたいな対応をされるのはさすがに心にくるものがあるんだけど……。


 それと、さっきのセンカの発言で思い出した。



 うん、俺……確かにそんなことを昨日してたわ。

 普段の俺ならそんな事をしなかったと思うんだけど……やはりウルウェイを憑依召喚していた影響かなぁ。尊大な態度が前に表れていたように思える。


 憑依召喚……いくら憑依させるラスボスに意識を寝かせてもらっていても多少は精神に影響を及ぼすのかもしれない。


「あー、えーっとですね。昨日の俺は少し冷静じゃなかったというか……王様。代金を立て替えてくれたみたいでありがとうございま――」 


 昨日の事を思い出し、さらに俺のせいで王様に迷惑をかけてしまった事を謝罪しようと頭を下げる俺。

 そんな中、バタバタと何かが倒れる音がした。

 え? どしたの?

 顔を上げて従者達の様子をうかがうと……


「「「「ZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZ」」」」


 なんと、彼らは武器を手に持ったまま倒れ、熟睡していた。


「あぁ、ごめんなさい。武器を向けられてしまったから反射的に魔術を使ってしまっていたわ。眠らせただけだから問題ないわよね?」


 どうやらルゼルスが魔術を使って彼らを寝かせたらしい。

 これは……問題ない……のか?


「あぁ、構わん構わん。正直、余も鬱陶うっとうしく思っていたところだ。こやつらに経験を積ませようと思い連れてきたのだが失敗だったのぅ。……ああ、そうだ。寝ているが一応紹介させてもらおう。こやつらは人類の希望となる存在。いわゆる勇者というやつだ。もっとも、まだ修行中の身ではあるがな。成長すれば余すらも超える存在になれるであろう奴らよ。まぁ、貴殿らには遠く及ばぬだろうがな。カァッカッカッカッカッカッカ」


 幸い、王様は寛大なのか特に気にしていないようだけど……え? 勇者?

 目の前で熟睡している四人を見る。

 これが……勇者? いわゆる勇者パーティーっていうやつなのか?

 そんな勇者達は守るべき王を前に気持ちよさそうに寝ている。


 これが勇者……かぁ。

 そっかぁ……。

 人類の希望……ねぇ。



 もしかしたら人類はもうダメなのかもしれない。



 なんて事を一瞬考えてしまったが、相手は立ち位置としては大魔王と言ってもいいルゼルスさんだったからな。

 まだ修行中の勇者パーティーではさすがに荷が重かったというやつか。


「さて、話が逸れてしまったのぅ。何の話だったか……。そうそう。昨日の働きへの褒美をという話だったな」


 ああ、そうだそうだ。そう言えば話がそこで止まっていた。

 さっきは褒美なんて特に思いついていなかったが……一連の会話の中で俺にも欲しいものが出来た。


「それなら王様。褒美として色々と教えてください。俺の目的はできるだけ多くの魔物を倒す事なんですよ。さっきからダンジョンが魔物を発生させるだの、それを多くの人に知らせる訳にはいかないだのと気になる単語が出てきてるんでそれについて教えてほしいです」


 俺の欲するもの。それは情報だ。

 今まで、魔物の発生する起源について考えたことはなかった。

 どこからともなく現れ、本能のままに他者を襲う。それが俺の知る魔物だ。

 そんな魔物発生の起源……知る必要があるだろう。


「おお、そうであったな。元々、今日はそのことについて話す気で来たのであった。褒美については後回しにして、先にそちらから話すとしようかのぅ」


「お願いします」


「うむ。ああ、それとだ。余の方からもいくつか貴様らについて聞かせてもらって良いか? まぁ、無理にとは言わんがな」


 ふむ……俺達についてか……。

 別に隠すべきことはそんなにないはずだし……いいよな?

 この王様はこちらの力を過大評価しまくっていているからか、こちらに対してかなり譲歩してくれているし。敵に回ることはなさそうだ。

 むしろ、こちらの事情を話すことで何か力になってくれるかもしれない。


「いや、いいですよ。こっちも王様に迷惑かけちゃったみたいですし。こっちが答えられることならなんでも答えますよ」


 もちろん、答えづらいことは伏せさせてもらうけど。


 そうして、俺達は互いに知る情報を交換し合った――


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