第59話『仮面の男』


 お面を被った冒険者が俺を訪ねてきたらしい。

 正直、お面なんて被ってる時点であやしいとしか思えない。

 少なくとも俺の知り合いにそんなやつは居ないはずなんだが……。


 俺がそう悩んでいると、ルゼルスが宿屋の主人に尋ねる。


「五人パーティー……ねぇ。そのお面の代表者は何か言ってなかった?」

「ああ、はい。伝言を託されております。『先日の約束通り、話をしに来た』とだけ――」

「――ああ、私の客で間違いないわね。ここに通してもらえる?」

「か、かしこまりました」


 ルゼルスの指示に従うべく、宿屋の主人が引っ込む。

 しかし……ルゼルスの客だって?


 ルゼルスにそんな客がいただなんて俺も知らなかった。

 俺が寝ている間に何かあったのだろうか?


 そうして俺が頭を捻っているのに気づいたのか、ルゼルスが説明してくれる。


「ああ、まだ言ってなかったわね。サーカシーの暴走を押さえてあなたとセンカが落ちた後、王を名乗る老人が現れたのよ。来たのは多分それね」


「へぇ………………って王様!?」

「嘘……」


 人間種の住まう国、アレイス王国。

 その国王であるという『アレイス・ルーデンガルヴ』。

 その国王が俺たちを尋ねてきた?


「まさか……王様が直々に俺を捕らえにきたのか?」


 ぶわっと冷や汗が出てきた。

 以前、俺(正確には憑依した斬人だけど)は冒険者学校でライルと罪もない審判を惨殺している。

 今回、この街で目立った事で俺の身元が割れ、王自らがここまで裁きに来た……とか?


 そう警戒する俺だったが――


「ああ……そういえばそんな事もあったわね。

 ――大丈夫よラース。多分、その心配はしなくていいわ。王を名乗るその男は礼と共に伺わせてもらうと言っていたし、こちらをあまり刺激したくないのかかなり下手したてに出ていたわ」

「王様が下手にって……まぁ、言われてみれば無理もない……のか?」


 確かに、俺は昨日多くの冒険者やら兵士が見守る中で大暴れしている。

 そして、結果的に街は救われた。


 そんな俺を相手に、王様が礼と共に下手に出るのはまぁあり得る話……なのかねぇ。


「ラース様ラース様」

「ん?」


 センカが俺の服を軽く引っ張る。


「今、ラース様『王様が俺を捕らえに来たのか』って仰ってましたけど……ラース様、何か悪いことをしたんですか?」

「………………」





 ああ、そう言えばセンカには冒険者学校で俺が起こした不祥事の事とか言ってませんでしたね。


 素直に言うべきか?


 ただ、あれも元はと言えば憑依召喚のせいだからなぁ。

 それを素直に告げたらラスボス召喚は絶対にやめてという話に逆戻りしそうだし――


「ラースはセンカと会う以前にも憑依召喚したラスボスに精神を乗っ取られて暴れた事があるのよ。それで二人殺したわ」

「ちょっ、ルゼルス――」


 俺が止める間もなくルゼルスが俺の犯罪歴をセンカへと明かす。

 いや、それは確かに事実だけど今それをセンカに言うと――


「……ラース様ー? そんな危ないって分かりきってる憑依召喚を今まで何度も使ってたんですかー?」

「いや、それは――」

「仕方ない事だったんだとか言わせませんよ! 今後、憑依召喚なんてしたらタダじゃ置かないんですからね!?」


 ビシィっと指を突きつけてくるセンカ。

 ほらぁ! やっぱりこうなった。

 ルゼルスはセンカの肩を持っているのか。こちらを見てくすくすと笑っているだけだしさぁ。


 ――と、雑談していると複数人の足音が聞こえてきた。


「ほ、ほら。なんか王様とその他が来たっぽいぞ。その話はまた今度にしよう!」

「……はぁ。いえ、話は終わりでいいです。決めました。ラース様が憑依召喚する時はセンカが邪魔してやるんですから♪」


 ……そう来たかー。

 イタズラな笑顔を見せるセンカ。説得するのは無理……だよなぁ。

 仕方ない。憑依召喚は諦めるか。

 これからは通常召喚をベースに戦略を練ろう。




「――こちらです」

「うむ、ご苦労。ぬしはもう下がっていて良いぞ」

「は、はぁ」


 足音が部屋の前で止まり、そんな会話が外から聞こえてくる。 

 そして扉が開かれ、主人の言った通りの五人組が姿を現した。


 仮面をつけた男が先頭を歩み、残る四人がそれに追従する。

 そうして部屋の中の俺たちを見て――


「……なんだ、全員子供じゃないか」


 追従する四人の内の一人がそんな事を言い出した。

 まぁ、事実だ。ルゼルスも実年齢はともかく、外見は幼いし、俺とセンカは共にまだ十三歳。子供と言われて当然の年だ。

 だからこそ、その男の発言にはむかつきもしなかったのだが――


「この愚か者めがっ!!」


 仮面をつけた男が怒声と共に追従していた仲間の一人を殴った。


「ぶへっ――」


 殴られた男は為すすべもなく床へと叩きつけられる。

 仮面の男は床へと叩きつけた男の襟を掴み、激しく揺さぶる。


「貴様、彼らの不興を買うような真似はするなと散々言ったであろうが! あの者達、特にあの女を不快にさせれば我々はおろか、我が国は滅びかねんのだぞ?」

「ぐっ――。い、いやいや王様。考えすぎですって。昨日、あなたが恐れているというあの女のステータスを教えてもらいましたけどあんなの絶対デタラメじゃないですか。ステータスを偽装する技能か何かを使ってたとしか考えられないですよ」

「この男は……もういい。ぬしら、この男を少し黙らせておけ」


 そう言って仮面の男は仲間の男を追従していた他の三人へと放り投げた。


 それが終わると仮面の男はこちらに向き直り……その仮面を外した。

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