第58話『来訪』
――次の日
「――悪かった」
起きると俺はスタンビークの宿屋のベッドで寝かされていた。
どうやらルゼルスに運ばれ、宿で寝かされていたようだ。
そうしてしばらくして落ち着いた後、俺は昨日やらかした事を二人――特にセンカに謝っていた。
「色々と怖い思いをさせたよな。俺の家の問題に巻き込んで……更にはサーカシーの暴走を止められず迷惑をかけた。怖かった……よな?」
アイファズとの一件はつまるところ、俺の家の問題だ。
その件に本来は関係のないセンカを巻き込んでしまった。
それだけではない。俺は怒りのままに最強×最凶のラスボスであるサーカシーを呼び出し、暴れてしまった。
サーカシーが不死であるアイファズを確実に葬る事ができる唯一のラスボスだったのは確かだが、それでももう少し考えて召喚するべきだった。
「い、いえ。確かに怖かったですけどラース様はそれ以上に大変でしたから別に……ただ、もう今後は憑依召喚なんてしないでくださいね? ラース様がラース様でなくなるのは嫌です」
「ああ、しばらくはしないよ。こうやって魔術も使えるようになったみたいだしな」
そう言って俺は人差し指を立て、その先に小さな黒い炎を生み出す。
――魔術
ルゼルスが登場したゲーム『レッドアイズ・ヴァンパイア』にしかなかった概念。
そんな魔術だが、俺は永続召喚でルゼルスを召喚した特典としてルゼルスの一部技能とステータスを獲得し、使用できるようになっていた。
ちなみに現在の俺のステータスはこんな感じだ。
★ ★ ★
ラース 13歳 男 レベル:67
種族:人間種
HP:3830/3839
MP:8287/上限なし
筋力:1363
耐性:1045
敏捷:1317
魔力:10081
魔耐:10903
技能:ラスボス召喚[詳細は別途記載]・MP上限撤廃・MP自然回復不可・MP吸収・魔術EX・炎属性適性・魔力操作
★ ★ ★
ルゼルスの技能の一つである『魔術EX』を手に入れた事によって俺は魔術を使えるようになったのだろう。
ちなみに、ルゼルスが登場したゲーム『レッドアイズ・ヴァンパイア』には逆にMPという概念が存在しなかったからか、魔術を使っても削れるのは体力であるHPのみらしい。
魔術を使うたびにHPが削れるというのは少し痛いが、それでも自然回復しないMPが削れるよりはかなりマシである。
「『しばらくは』ではなく、永遠に使わないでください。ラスボス召喚についてルゼルスさんにも詳しく聞きましたけど、通常召喚なんていうのもあるらしいじゃないですか。そっちを使ってください。それと、意味もなく魔術を使うのも止めてください。HPが削るってさっき言ってましたよね?」
センカはラスボス召喚について今までなんとなくしか理解していなかったのだが、俺が寝ている間にルゼルスからその詳細を聞き出したらしい。
魔術については俺が少し前に説明した。
少し前に起きて、自分のステータスを確認した俺は魔術の行使を少し試したのだ。
そこでHPが減っている事に気づいた。
その事をセンカとルゼルスにも告げたら……センカによって無理やりベッドに寝かされたのだ。
「いや、通常召喚は通常召喚でヤバイんだよ。俺が制御できないラスボスが現れたら……それこそサーカシーなんて出したら俺たちは間違いなく全滅だ」
「じゃあ、その通常召喚もなしでお願いします」
………………まさかのラスボス召喚全般が禁止されてしまった。
いや、さすがにそれは困る。超困る。
「あ、でもリリィ師匠は定期的に呼び出してほしいです。センカはもっともっと強くならなくちゃですから」
「なんか……我がままになってないか? センカ?」
自分の要求だけ通そうとするセンカ。
いやまぁ、いいんだけどさ。
俺もセンカにはもっともっと強くなって欲しいし。
「センカは気づいたんです」
俺の言葉を受けて、センカは自身に言い聞かせるように語り始める。
「ラース様だって万能じゃない。むしろ、色々とダメな所があるってっ!」
「――おい」
ダメな所ってなんだダメな所って。
「くすくす。まぁ、ラースも色々と抜けている所があるわよね」
ルゼルスにまで駄目出しされる。
今回は確かに少しやらかしてしまったが……そんなに俺ってダメか?
「最初、センカはラース様の事をすっごく強くて頼りになる人だって思ってました。でも、よくよく考えてみればその行動は考えなしで直情的ですし……今回も要はカッとなってやっちゃったってやつですよね?」
「まぁ……そう……だな」
肯定してしまった。だって、否定できる要素が何一つないんですもの。
計画を立ててどうこうする? なにそれおいしいの?
そもそも、センカを引き取ったのだって完全に衝動のままに動いた結果だしな。
今回の件も含め、直情的で考えなしと言われても仕方ないだろう。
「それに、憑依召喚中のラース様はとってもお強いですけどそうでない時はそんなにみたいですし……」
「おっと、それはもう改善されたぞ? 今の俺のステータスは大幅に上がってる。ルゼルスの魔術を一部とはいえ使えるようにもなったからな。今の俺ならBランクの魔物の群れが相手でも遅れはそう取らないはずだ」
なにせ実質、常時ルゼルス・オルフィカーナを憑依召喚してるようなもんだからな。
BランクどころかAランクの魔物の群れが相手でもおそらく問題なく対処出来るだろう。
「……でも、魔術って使う度にHPが減るんですよね? つまり、命を削って使うものなんですよね?」
「まぁ、そうだな」
HPとはつまり命だ。
これがゼロになったら死亡する。
どこぞのドラ〇エやファイ〇ルファ〇タジーみたいに教会に行ったり魔法を使ったりすれば生き返るなんてシステムもこの世界にはない。
死んだらそれまで。それが現実だ。
だからこそ、命は大切にしないといけない。
「ラース様の場合、考えなしで魔術を使ってHPが全損なんて事もありそうだから魔術も出来るだけ控えてください」
「いや、そんな事は――」
……ありそうだなぁ。俺の場合。
ついさっきまで、今度魔物を狩りに行くときはルゼルスの使っていた特級の魔術を撃ってみたいなーなんて考えていたし。
「ラース様……」「ラース……」
ジト目で俺を見るセンカとルゼルス。
おっと、これは完全に詰んでますね。
ただ、魔術を使わない俺って魔法への耐性があるだけの中級冒険者って感じになるんだよなぁ。
――なんて考えていた時だった。
「お客様。少し宜しいでしょうか?」
ドアを叩く音と共に宿屋の主人の声が聞こえてきた。
「あ、はい。どうぞどうぞ~」
ちょうど旗色が悪かったというのもあり、俺はその訪問を歓迎する。
「失礼します。お客様に用があると冒険者の方々が尋ねてきたのですが……」
「冒険者? テラークさんかな? いや、でも冒険者の方々って事は複数人か……」
「ええ、五人パーティーの冒険者です。代表格らしき者は面を被っていてなんといいますか、そのぅ……」
「お面を被ってる冒険者?」
何それ超あやしいんだけど。
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