第56話『戻ってきて-2』
――センカ視点
「絶対に……離しませんっ。センカは……ラース様が好きっ……ラース様が居ない世界なんて……もう考えられないんですっ。だから……帰って……きてぇっ!」
帰ってきてと。
お願いだからまた名前を呼んで、頭を撫でて欲しいと。
そんな想いを籠めて、センカはラース様に抱き着きます。
来るかもしれない痛みにセンカは目をぎゅっと瞑ります。
「うるさぁいっ。シネシネシ――」
「ラースっ! いい加減正気に戻りなさいっ。この子の……センカの想いを無駄にする事は私が許さないわ」
「うぎぎぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ」
私が抱き着いた事に反応したのか。
ルゼルスさんの声に反応したのか。
ラース様の体を操るサーカシーは断末魔の悲鳴のようなものをあげます。
そして――ラース様の体がセンカを抱きしめ返し、
「いいか……げん……にしろ。サーカシー。お前の負け……だよ」
途切れ途切れだけど、サーカシーに対して敗北を告げる。
間違いないです。これは……ラース様だ!
「憑依召喚……解除――――――――――ふぅ」
ラース様は何か呟くと脱力し、センカにもたれかかってきます。
「わわっ」
慌ててセンカは四肢に力をこめ、倒れないようにラース様を支えます。
「えと……ラース様……ですよね?」
不安を覚えつつも、センカはラース様? に尋ねます。
「ああ、もう大丈夫だ。サーカシー……さっきまで居た怖い奴はもう居ない」
「そうですか……。よかったぁ」
私はほっと安堵の息を漏らします。
良かった……本当に良かった。
一時はどうなる事かと思ったけど、ラース様、ちゃんと戻ってきてくれた。
センカは、それだけで十分です。
「ったく。俺の言動とか様子がおかしくなったら逃げろよって言ったのに……。随分無茶したな。今回は無事に済んだからいいけど、次はきちんと逃げろよ?」
――次。
次もまたこんな事があるかもしれない。
ラース様はそう考えているみたいです。
なら――センカは……
「嫌です」
ハッキリと。
どもらずに。
センカはラース様の命令を拒みます。
「え?」
目を丸くして驚いているラース様。
センカは、そんなラース様の頬に手を当ててその目をジィっと見つめ、言います。
「ラース様、今回はすっごく危なかったと思います。ラスボス召喚について、センカは当事者じゃないから分からないですけど、多分あのままだったらラース様の心、壊れちゃってたかもなんですよね?」
「いや、それは――」
「ええ、そうね。あのままサーカシーが暴走していたらラースの心は壊れていたかもしれないわ。壊れなかったとしても、変質ぐらいはしそうね」
「ルゼルスっ」
「なによ、ラース。事実でしょう?」
「ぐっ――」
口を閉ざして私の疑問に答えないラース様の代わりに、ルゼルスさんが答えてくれました。
やっぱり――あのままだったらラース様、大変な事になってたかもなんだ。
センカは決意を更に固くします。
「もうラスボス召喚に頼らないでください……とは言いません。でも、今回みたいに危ない召喚は極力控えて欲しいです。そんな危ない召喚をしなくてもいいように……センカ、いっぱいいっぱい頑張りますから! 強くなって……ラース様に酷いことする人たちをセンカがやっつけますっ!」
ラスボス召喚はとっても凄い力。
でも、ラース様の心も削る危険な力。
そんな力に頼らなくてもいいように……私が強くなればいいんだっ!
強くなって、ラース様をあらゆるものから守る。
「それでも……今回みたいに怖くて強い人が私たちを襲ってきたりして、ラスボス召喚で危ない召喚をしなくちゃいけないって時が来たら……その時はまたセンカがラース様を止めます」
「いや、それは危険――」
「危険な事をしてるのはラース様もおんなじです! ラース様がそんな無茶をするならセンカも無茶します。それが嫌なら危ない召喚をしないですむようラース様の方でもなんとかしてくださいっ!」
「えぇ……」
そんな無茶なって顔をするラース様。
本当に……センカの身を案じてくれるのは嬉しいですけど、それなら自分の事も大事にして欲しいものです。
こうなったら――
センカは、少しだけ卑怯な手に出ます。
「センカにとって、ラース様は生きる意味そのものなんです。もし仮にラース様が居なくなったら……なんて考えると震えが止まりません」
これは本当の事です。
今まで、センカは誰にも認められなかった。
要らない子だと、役立たずだと蔑まれてきました。
そんな中で唯一、ラース様だけがセンカの事を必要だって言ってくれたんです。
それがどれだけ嬉しかったか……言葉では言い表せません。
そんなラース様が居なくなったらなんて考えると……とっても怖いです。その先の事なんて絶対に考えたくありません。
だから――
「だから――ラース様が死んじゃったり、その心が完全にラスボス召喚でなくなっちゃったりしたら……センカはラース様の後を追って自害します」
「なっ――」
ハッキリと――
強い意志を持って――
センカはラース様の目をまっすぐに見つめて宣言します。
嘘や冗談なんかじゃない。本気の想いです。
ラース様がごくりと喉を鳴らします。
センカの覚悟が紛い物なんかじゃないと分かってくれた……かな?
「ふふっ」
思わず笑みがこぼれます。
理由は二つ。
一つは、いつもセンカがラース様に驚かされてばかりだったので少し新鮮で笑ってしまったという理由。
二つ目の理由。
それは――ラース様が苦々しい顔をしているから。
それの意味する所は、センカの身を案じてくれているがゆえだと理解出来てしまうんです。
それが嬉しくて……頬が緩んでしまいました。
「センカの事を少しでも大切だって思ってくれてるなら……今回みたいな無茶は極力避けてくださいね?」
「――ったく」
完全に体から力を抜いて、センカに寄りかかるラース様。
「――疲れた。寝る」
かと思えば、ラース様はそんな我がままを言い始めました。
「わわっ、ら、ラース様ぁ。まだ返事を聞かせてもらってないですよぅ。いえ、ラース様は今回いっぱいいっぱい頑張ったので疲れてるのかもしれないですけど……それでもお休みする前に今回みたいな無茶はしないって約束を――」
「ぐぅーぐぅーぐぅー」
「ちょっ、ラース様ぁ。なんですかそのあからさまな寝息!? 絶対起きてますよね!?」
センカは慌ててラース様の体をゆさゆさと揺さぶって寝かせないようにします。
センカが一世一代の想いをぶつけてまでラース様を追い詰めたんです。こんな形で逃げられてはたまりませんっ!
そうして揺さぶっていると――
「――努力する」
「え?」
小さくたった一言だけ、ラース様が呟きます。
そんなラース様の横顔を見ると……少しだけ赤くなっていました。
「――はいっ! 約束――ですよ?」
そのまま返事もしないラース様。
どうやら本当に眠っちゃったみたいです。
センカはそんなラース様を起こさないように、だけどそっと頭をなでなでします。
どうか……センカをずっとお傍に。
そんな願いを抱きながら、センカはラース様の寝顔を眺めるのでした――
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