第54話『最悪の展開』
――鉄の処女(アイアン・メイデン)再起動――
停止していた可憐な乙女の像達が再び動き出す。
「兄さっ、もう、やめ、クソ……許して……いや……もう、せめて殺してくれよぉっ」
許してくれと。
もう殺してくれと。
不死身であるアイファズが懇願する。
俺はそれを……サーカシーを憑依召喚している最中だというのに、えらく冷静に見れた。
俺のアイファズに対する怒りが、あの狂人の精神を上回っている。そういう事なんだろうな。――なんて事まで考える余裕があった。
「……お前、不死身なんだから死なないだろ?」
「い、いや、僕の不死性にはカラクリがあるんだ……です。核を壊されれば僕は死にます。その核はあそこに隠してあります。本当ですっ!」
そう言ってアイファズが指さしたのはジャイアントワームが空けた穴だった。
あの中にアイファズを不死足らしめている核があるらしい。
なるほどなぁ。
――そんなもの、今となってはどうでもいい。
「アイファズ。俺の言った事を忘れているみたいだからもう一回だけ言うぞ?」
俺は、奴に対してもう一度、あの決定を突きつける。
「俺はぜぇぇぇぇぇぇったいにお前を殺してなんかやらない。永遠に苦しみ続けろ」
『うふふ』
『一緒になりましょう♪』
『遊ぼう?』
アイファズを収納した鉄の処女(アイアン・メイデン)。
二つに割れた部分がゆっくりと一つに戻ろうとする。
そうはさせまいとアイファズが必死に抵抗しているが……無駄な抵抗だ。
「やめっ、もう痛いのは嫌なんだよぉっ。この……狂人がぁっ! ばけものぉっ! 人でなしぃっ!」
「――好きに喚け。お前は俺の大切な物に手を出し過ぎたんだよ。――フィナーレ――」
『アハハハハハハハハハハハハハハッ』
二つに割れていた鉄の処女(アイアン・メイデン)が完全に一つに戻り、中のアイファズの血を
中からはアイファズの悲鳴が鈍く聞こえる。
「俺を慕うセンカを辱め、なにより俺を幾度となく助けてくれたルゼルスにまで手を出したんだ。そんなお前を俺が許すわけがないだろ? 俺の持てる力を全て注いで、お前に地獄以上の物を見せてやる」
さぁ、仕上げだ。
「戻れ、鉄の処女(アイアン・メイデン」
役目を終えた鉄の処女(アイアン・メイデン)を収納する。
そして、鉄の処女(アイアン・メイデン)によって串刺しにされたアイファズが開放される。
「ひ、うっ、あぁっ、うわぁぁぁぁぁぁぁ」
串刺しにされたアイファズの肉体が自然治癒される。
治癒が終わるのをあいつは絶望的な表情で見つめ――走り出した。
向かう先はジャイアントワームが空けた穴だ。
さっきの奴の話が本当なら、そこにはアイファズを不死たらしめている核があるという話だ。
苦しみから逃れる為に自害する……という訳か。
――逃がさない。
「――大罪の拷問器具、暴食の章――」
大罪の拷問器具。
サーカシーが複数所持する拷問器具。
その中で特に残忍かつ強烈な効果を持つ七つの拷問器具。
それが大罪の名を関する拷問器具だ。
俺の傍らに出現する巨大な真っ黒な壺。
その壺の側面には人間の口のような器官があった。
『腹が……減ったなぁ』
壺が、喋る。
腹が減ったと、獲物を求める。
「暴食。今回の飯はアレだ。喰らえ」
逃げるアイファズを指さし、意志を持つ拷問器具、暴食へと命令を下す。
『一人だけかよ。もっとねぇぇのかぁぁぁ?』
「ない。いいからとっとと喰らえ」
『ったく。まぁいいか。久々の飯だぁ♪』
壺の蓋が――開く。
壺の中には闇が広がっており、どこまで続いているかは分からない暗黒空間となっている。
『いただきまぁぁぁす』
壺の空いた部分がアイファズに向けられ――突風が起こった。
暴食がアイファズを喰らう為、全てを呑み込もうとしているのだ。
「な、これはなん……だぁっ!?」
たまらずその場に伏せて吸い込みに耐えるアイファズ。
だが、その程度では暴食からは逃れられない。
俺は吸い込みに耐えるアイファズに、暴食の持つ能力を語る。
「ア・イ・ファ・ズゥー。気をつけろよぉ? この暴食の壺に喰われたら二度と出れないぞぉ。この中は異空間に繋がっててなぁ。冷たく、暗いだけの死の世界だ。それ以外なーんにもない。あるのは孤独と空腹感だけ。中に入ったやつは一日と持たず精神を病む」
俺は暴食の壺の恐ろしさを全て語る。
アイファズの無様な姿を最後まで目に焼き付ける。ただその為だけに。
「だけど安心しろ。この壺はそういう壊れゆく人間の感情が大好物でなぁ。壺の中で一日経てば、壊れた心が健常な心へとリセットされる。そうして何度も何度も心を殺すのがこの暴食の壺だ。あぁ、ちなみにこの壺、中に居る生物はどんな傷を負おうとも絶対に死ねないんだ。とても優しい壺だろ?」
『俺は永遠に喰らいたいだけだぁ。永遠に喰らい続けてやるんだよぉ。家畜を殺すなんて残忍な事、俺には出来ねぇやぁ』
暴食の壺と俺の言葉を聞き、顔を真っ青にするアイファズ。
「いや……だ」
必死に地面にへばりつくアイファズ。
だが、暴食による吸い込みは激しい。そのへばりついている地面ごと吸い込むのも時間の問題だ。
アイファズにもそれが分かっているのか、
「イヤダイヤダイヤダイヤダイヤダァァァッ! ごめんなさい兄さん。もう悪いことなんかしません。お願いですから僕をこれ以上苦しめないで。コロシテコロシテェっ。僕を殺してくださぁぁい。うわぁぁぁぁぁぁぁ」
泣いて殺してくれと懇願してきた。
死ねない事、それがどれだけの苦痛か。それをこの短時間で嫌というほど体験したアイファズはみっともなく喚く。
今のアイファズにとって、死は紛れもなく救いとなっていた。
そんな奴に、俺は最後となる言葉を送る。
「永遠の飢餓と孤独を味わえ。ルゼルスとセンカを傷つけたことを一生後悔しながらな」
アイファズがへばりついていた地面が崩壊する。
しがみついていたものがなくなり、新たに何かに捕まろうとするアイファズだが、その体は空中に浮いてもう為すがままだ。
「イヤダァァァァァァァァァ」
断末魔の叫びを上げながらアイファズは暴食の壺へと吸い込まれ――消えた。
そして訪れる静寂。
「ふぅ」
終わった――か。
怒りに任せてサーカシーを憑依召喚してしまったが……何事もなく終わって何よりだ。
さて、それじゃあ手早く憑依召喚を解除するか。
――何事もなく終われると思ってるんでちゅかぁぁぁぁ?
「がっ――」
ヤバイ。
自分がラースだという自覚が急速に失われていく。
――当然だっよねぇ~。今まで怒りで僕ちんの精神を上書きしてくれやがりましたねぇ。凄い事でっすことよぉっ。でも、ひと段落ついて気を抜いちゃダメダメダーメー♪
俺が……塗りつぶされていく。
悪逆皇帝、サーカシーの色に精神が染まって――
「ケキャキャッ――」
あぁ……よくも僕ちんを抑え込んでくれやがりましたねぇ。
今も少しだけ僕ちんが僕ちんでないようでムカムッカしますよぉ。
さぁて。憑依召喚の時間は一日でしたっけねぇ。その間、どうしてくれましょうか。
「ケケケケケケケケケケケケケケ」
ラースの精神の大半は呑まれ、サーカシーがこの世に顕現した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます