第43話『新たな武器』
「イク……ゾ」
こちらに向けて一歩を踏み出すトロール。
しかし……遅い。
いや、もうマジで遅い。普通のCランクの魔物の方がまだ俊敏に動いていた。
でも、前のトロールもこれくらい遅かった気がするし普通……なのか?
まぁ、腹も思いっきり出ているしあまり素早そうではないよな。
「ウォォォォォォッ――」
振り上げる棍棒。
それが――俺に向かってくる。
「いや、当たる訳がないだろう」
余裕をもってその一撃を躱す。
ついでに、その斬ってくださいと言わんばかりの隙だらけなトロールを斬る。
斬ったのは棍棒を持つ右腕。
すんなりと切断される。
そう思ったのだが――
「ん?」
トロールの皮膚に剣が食い込むが……振りぬけない。
仕方ない。
俺は武器に負担がかかるのを承知で、振りぬく力を全開にした。
「ハァッ――」
ギィンッ――
鈍い音と共に、トロールの右腕が根元から切断される。
だが、その代償として借り受けた剣もまた根元から折れた。
まだそこまで使っていないのに勿体ない。そう思わないでもないが……まぁ武器はまた借りればいいだろう。
ズーンッ――
トロールが振り下ろしていた棍棒が切断された右手ごと地面に叩きつけられる。
凄い力だ。叩きつけられたときの衝撃が少し離れた所からでも伝わってくる。
「な、なんだアレ!?」
「あの威力、おかしいだろ!? 普通のトロールじゃねえっ!」
「うっそだろおいっ。今回出てきた魔物、おかしくねぇか!? 普通のより強さが段違いだぞっ!」
「に、逃げたほうがいいんじゃないか?」
「だけど見ろっ! あのトロール相手にあの子供、一歩も引いてないどころか押してるぞ。いけるんじゃないか?」
「っつぅかあの子供、何者だ? 化け物か?」
周囲の冒険者やら兵士が俺の目の前にいるトロールを指さして騒いでいる。
ふーむ、やっぱり今回現れた魔物は通常のより強さが増しているらしい。
そして最期の奴、きちんと聞こえたからな?
「全く……誰が化け物だ。通常召喚したウルウェイはこの十倍強いんだからな? 俺はまだ普通の人の範疇に収まってるっつの(多分)」
『収まってる……のかしら?』
「え? ラース様って人間……なんですか?」
「俺はきちんと人だよ!!」
まさか仲間であるはずのルゼルスとセンカからも人間辞めてる疑惑を持たれているとは思わなかった。
特にセンカ。お前、俺の事を何だと思ってたの? 俺はきちんと人間だよ?
内心少しショックを受けつつも、対峙するトロールから目を離さない。
トロールは斬られた右腕を見て、なぜか笑った。
「グフッ……ヤルナ……ダガ……ムンッ」
トロールがなにやら体に力を
すると――トロールの右腕が新しく生えてきた。
なるほど……再生能力持ちか。一瞬で回復したなおい。
「オマエ……ブキウシナッタ……オマエジャオレ……タオセナイ……オレノカチ」
武器を失った俺の攻撃程度では致命傷を受けないと笑うトロール。
武器はまぁまた借りればいいから問題ないんだが……こいつを相手にするだけでいくつダメにするか分からんな。
さて……どうしたものか。
そこで俺の脳内で電球が光り輝く。
そうだっ。せっかくだし試してみるか。
俺は先ほど見たトロールの再生を脳内でリピートしながら、ウルウェイの能力を発動させる。
「――模倣――ムンッ」
別に力を入れる際の掛け声まで真似する必要はないと思うのだが、まぁ念のためだ。
そもそも、俺が考えているような事が出来るかは分からないしな。
前回、ハーピィの飛翔を模倣しようとしたら失敗したし。
そして、結果は――
「おー、傷が癒えていく」
「………………エ゛?」
無事、トロールの再生能力を模倣できたようだ。
前のクエストで二十四時間魔物を狩り続けた際、敵が多かったせいもあっていくらかHPを削られたからな。ここで回復できるのは非常にありがたい。
そうして改めて俺のステータスを確認すると――よし。HPが全開になってる。
これ、使えるな。
「ラース様……笑ってる?」
『アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ』
おっと。気づかないうちに悪い顔で笑みを浮かべてしまっていたらしい。
ルゼルスは俺の考えを読んだのか、大爆笑だ。
つまり、気に入ってくれたって事だな。よし。
俺は目の前のトロールを指さし、力強く宣言した。
「お前、今から俺の武器な」
「………………え゛?」
「「「は?」」」
その瞬間、冒険者、兵士、魔物の想いは一つになったと言う。
皆一様にラースの宣言を聞いて、思わずにはいられなかったのだ。
『何言ってんだこいつ? と――』
荒れ狂っていたはずの戦場がその一瞬、完全に停止した。
それを最初に打ち破ったのは、当事者であるトロールだった。
「ワゲワガンネエゴト……ヌカスナァッ」
棍棒を拾う事もせず、両こぶしを握り、俺目掛けて振り下ろしてくるトロール。
だが、やはり遅い。速さだけはそんなに強化されていないようだ。
俺は足元の小石を蹴り――トロールの拳へと当てる。
小石の当たった部位が傷つき、しかしすぐに再生する。
もちろん、トロールの拳は止まらない。
俺はその拳を――真正面から受け止めた。
「ぐっぬっ――」
衝撃が俺の全身を襲う。
さすがトロールと言うべきか。なかなかの怪力だ。
負担を強く受けた左腕が複雑骨折しているっぽい。
だが――それでいい。
俺はトロールの打撃を無事にとは言えないが、受け止める事に成功した。
「グフッフッフ。イタイダロ……イマカラナブリゴロシニシテヤ――」
「――模倣――」
トロールがなにやら勝ち誇っている中、俺は先ほどと同じようにトロールの再生を模倣する。
そうして――瞬時に左腕が治癒される。
HPも再び満タンだ。
「………………エ゛?」
さっきより近くで俺の傷が治るのを見たトロールは目をパチクリさせて驚いている。
「ク……グソ……ナンナンダオマエェッ……ソレナラモウイチドッ」
そう言って拳を引き戻そうとするトロール。
だが――そうはいかない。
俺はトロールの両手首を強く掴んで、決して離さない。
「ナッ……ハナゼェッ」
「断る。せっかく手に入れた上質な武器……絶対に逃がさない」
「………………ヘ?」
俺が何を言っているのか理解出来ないのか、トロールが困惑している。
ここまで言ってもまだ伝わらないか……。さすがトロール。知能の程度が知れる。
仕方ない、もう少し分かりやすく言ってやろう。
俺はトロールの手首を掴み、大きく振りかぶる。
「ウォァァッ」
天高く舞い上がるトロールの巨体。
だが、それでも俺はトロールの手首を離さない。
そうしてそのまま――――――魔物の群れに向かってトロールを振り下ろした。
「エェェェェェッ!? ウッソダロオイ!?」
「アノニンゲン、オカシイ。ゼッタイニオカシイッ!」
「アノキョタイヲカルガルト……バケモノダァァッ!!」
阿鼻叫喚の悲鳴をあげ、トロールの巨体の下敷きになる魔物達。
そんな魔物達と、トロールに向けて俺は再び宣言する。
「見たかっ。これが本日限定の俺の新武装――トロールソードだっ!」
「「「ハァァァァァァァァァァァァァァァァッ!?」」」
武器にされたトロールと、魔物達が絶望の悲鳴をあげる。
さぁ、行くぞ。――
余談だが、それを見ていた冒険者や兵士たちもその常軌を逸した光景に魔物と同じように悲鳴を上げたと言う。皆、巻き込まれないように撤退を開始した。
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