第42話『いつもと違う魔物』


 ――スタンビーク北西の城壁。


 街の外は魔物で溢れていた。

 魔物達は北西からぞろぞろとやってきているようで、幾体かの魔物が城壁をよじ登ろうとして、それを兵や冒険者達が阻む。


 城内に怪我を負って動けなくなった兵や冒険者達が次々と担ぎ込まれていく。

 そんな光景を見て思う。


「これ、おかしくないか?」


 俺は城壁の上から、城の外の様子を見る。

 外からぞろぞろと集まってくる魔物達。

 だが、その全てが突撃してきている訳じゃない事に気づく。

 一隊が攻め、一定時間が経てばその一隊が退いて別の隊が襲ってくる。

 まるで訓練された兵のような動きだ。


 今まで色んな魔物を見てきたが、基本的に奴らは目についた人間を問答無用で襲ったり、魔物同士で殺し合いをしていたりと知性の欠片もない動きしかしなかった。


 それが今回はどうだ。熟練された兵の動きとまでは言わないが、少なくとも魔物同士で争うようなことはしていない。



「誰か指揮を執っている奴がいるのか?」


 しかし、そんな様子を見せている魔物は居ない。


「ちっ、まぁいい」


 考えていても仕方ない。

 俺も参戦するか。


「おい、お前っ! 何をやっているんだ!?」


 兵士らしき奴が俺に話しかけてきたが、無視。

 俺は躊躇ためらいなく、高さ約10mの高さの城壁の上から飛び降りた――


★ ★ ★


「ぎがっ、なんだ? ぎゃっ」


 俺は城壁から飛び降りるついでに取り付いていたワータイガーを斬り捨てた。


「? 今、何か喋ってなかったか?」

『喋ってたわね』

「はい、魔物が人間の言葉……使っていたように聞こえました」


 ルゼルスとセンカにもそう聞こえたらしい。

 この世界の魔物は基本的に喋らなかったはずだ。


「うわぁぁぁぁっ」


 などと考えていると悲鳴が聞こえてくる。

 見れば、一人の兵士がゴブリン、オーク、スケルトンに囲まれ、今にも襲われそうになっていた。


「させるかっ」


 強い踏み込み。

 轟音と共に、俺は包囲していた魔物の一角であるオークを斬り捨て、兵士の前へと躍り出た。


「ギッ!? いきなりナンダ、コイツ?」

「コイツ、ツヨイ。オレタチダケ、カナワナイ。テッタイ、テッタイ」

「……ワカッタ。イソイデ、ホウコク」


 俺を目にした魔物達は襲ってくることもなく、退こうとする。


「これは……」


 やはり、こいつらは今まで俺が倒してきたどの魔物とも違う。

 そもそも、種族が違う奴らで兵士を囲っている時点でおかしいのだ。

 普通の魔物はそんな連携を見せないからな。


 今、魔物が退こうとしている件もそうだ。

 普通の魔物も強者を相手にするとき、逃げる事はあるが、こいつらはそういうのとは少し違う。

 こいつらは俺が強いと判断し、戦力差を考えて撤退行動に移った。

 生存本能に従っての逃走ではなく、頭で考えての撤退だ。

 その点だけ見ても、こいつらが普通の魔物と違うという事が分かる。


「まぁなんにせよ……逃がすわけにはいかないな……シッ――」


 俺は虚空に向け、剣を振るう。

 そして――


「ウゲッ」

「カッ――」


 切断されるゴブリンとスケルトン。

 ウルウェイの憑依召喚にも慣れてきたからな。

 空を裂き、離れた敵を割断するなんて簡単な事だ。


「オマエッ――」


 胴と首を割断してもなお動くスケルトン。

 こいつはバラバラにするか浄化でもしない限り、動き続けるからな。


「ふんっ」


 俺は足裏でスケルトンの頭部を踏みつぶす。

 それと同時にやっと動きを止めるスケルトン。


「大丈夫ですか?」


 襲われていた兵士に声をかける。

 腰が抜けているのか、立つこともなくぼーっとこちらを見つめている兵士の男。




「あ、ああ。大丈夫だ。ありがとう、助かった」


 そう言って兵士は手を俺の方に差し出す兵士。

 えーっと……これはあれか?

 立ち上がらせてほしいって事か?


 ……いや、大丈夫って言うんなら自分で立てよ。甘えるな。


「無事ならさっさと立ってくださいよ。戦えるなら戦う、戦えないなら引っ込むって感じでもっとシャキシャキ動いてください。邪魔です」


 戦えない体でうろうろされても迷惑だしな。


《全くもってその通りね。正直、見ていてイライラするわ》

「あの、ラース様。さすがにそれはいいすぎなんじゃ……」



 ルゼルスからは賛同の声。センカからは否定の声が上がる。

 いや、でも実際邪魔だし……。

 

「なっ――」


 一瞬で顔を真っ赤にさせる兵士の男。

 だが、いつまでもこいつに構っているわけにもいかない。

 俺は次の魔物を狩るべく、疾走した。



★ ★ ★



「ハァッ――」


 キィンッ――



 数十本目の剣が折れる。

 俺は襲われそうになっている人を優先的に助け、その中で魔物をバッタバッタと斬り倒していた。

 だが、敵にゴーレムなんていう魔物まで混じっているせいで武器がパッキンパッキン折れてしまっていた。


「面倒だな……そこの人、もう戦えないですよね? なら少し借りますよ」

「なっ、おいっ!」


 俺は数十人目かの兵士だったか冒険者だったかの剣を許可なく借りる(返すとは言ってない)。

 まぁ、あの程度の魔物に殺されそうになってたこいつが使うより俺が使う方が武器としても本望だろう。多分、またすぐ折れるけど。


 そうして魔物を斬る→人を助ける→武器を借りる→また別の魔物を斬るを繰り返していると、魔物達に変化が見えた。


「アイツ、ヤバイ、ヤバイ」

「イッセイニ、イクカ?」

「イヤ、アレヲダソウ」


 魔物の注意が本格的に俺に向いてきた。

 それはそれで好都合だ。

 ただ、アレを出そう……だと? 何か隠し玉があるのか。

 とことん本能で動く魔物らしくないな。


『そうね。それに……気のせいかもしれないけど魔物の強さが何段階か増している気がするわ』

 ああ、ルゼルスもそう感じるのか。

 正直、俺もそう感じてたのだが、気のせいじゃなかったらしい。



 知能を得た、連携を取るようになった、そういう意味でも今回現れた魔物は強くなっている。

 だが、それだけでなく、個々の強さが通常よりも何段か上がっている……気がするのだ。



「まぁ、まだBランク以下の魔物しか出てないから分かりにくいけどな。Aランクの魔物でも現れれば違いがもっと分かるかもなんだが……」


 ウルウェイの力でかなりの魔物を倒して分かったが、正直Bランクの魔物では相手にもならない。

 安全マージンなどの事も考え、ウルウェイではAランクの魔物は厳しいと当初は考えていた俺だが、この分ならAランクも余裕で行けそうだ。


 なんて事を考えていたら……そいつは現れた。


「サワガ……シイ。イッタイ……ナンダ」



 遠くから地鳴りと共に、その巨体は現れた。

 人型の魔物だ。ただ、サイズが人のそれとは異なる。通常の人と比較して約十倍といった所だろうか。

 魔物は手に棍棒を持ち、こちらを苛立たしそうに見ている。


「オマエ……ツヨソウ……ダナ」


 にぃっと笑みを浮かべ俺を見る魔物。

 これは……アレだな。


「トロールか」


 以前、俺(正確にはルールルだけど)が倒した魔物だ。

 だが、こいつも人語を介しているから以前のトロールとは色々と違うな。


「グフッ……タイクツ……シテタトコロ……ダ……スコシ……アソンデヤル」

「ああ、いいぞ。その遊びに付き合ってやる。普通の魔物とどれくらい違うのか……良い比較材料になりそうだっ!」


 そうして俺はトロールと対峙した。

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