第41話『襲来する魔物』



 冒険者ギルドに転がり込んできた男は息を切らしながら、しかし必死に声を張り上げる。


「魔物の群れが街を襲いに来やがった。しかも、半端じゃねえ数だ。数百……いや、数千の魔物がっ!」


 街に魔物……だと!?

 いや、それ自体は驚くべきことじゃない……のか?


 この世界の人々は常に魔物の脅威に晒されている。

 冒険者や騎士がいくら掃討しても、魔物の数は減る様子がなく、むしろ増える一方らしい。 


 だが、それでも人は魔物は狩り続けなければならない。

 なぜなら、増える魔物を放置した場合、奴らは新たな住まいを求め街や村を襲い始めるからだ。

 つまり、魔物の群れが街を襲いに来るなんて別に驚くべきことでもない出来事のはず――


「――いや、それでもこれはおかしい」


 魔物が新たな住まいを求めて街や村を襲う事は確かに起こりえる事だ。

 だが、それは普通、散発的なものであるはずだ。

 男が言った数千の魔物が街を襲う事態など、よほど魔物を放置していない限り起こりえないはず。



 少なくとも俺はスタンビーク周辺の魔物をかなり滅ぼしている。

 あれだけの数を間引まびいたのに集団の魔物がすぐに街に進行してくるなんて……あり得ないはずだ。


「なんだって!? そりゃ本当かい?」


 男の叫びを聞いたレイナさんが詳細を聞くため、男の下へと駆け寄る。


「あ、ああ。何が原因かは分からないが外はもう大騒ぎだ。今はまだ手の空いている冒険者が街の外で押しとどめてくれているがおそらくそれも時間の問題。魔物の強さが普通じゃねえんだよっ」

「くっ、なんてこったい。――しゃあないねぇ。空いてる冒険者は手助けに行ってやってくんなっ! 時間を稼ぐだけでいい。決して無理をするんじゃないよっ!」


 外から転がり込んできた男の話を聞いたレイナさんはテキパキと冒険者たちに指示を出す。

 そうして他のギルド職員達と連携して住民たちの避難について動き出した。


『大変な事になったわね。どうするの、ラース?』


 他人事のような態度でルゼルスが俺に語り掛けてくる。

 いやまぁ実際、他人事ではあるんだろうけど。


「ラース様……」


 それに対し、不安そうな表情で俺を見つめるセンカ。

 

「ラース様……逃げます……よね? だって、ラース様はたくさんたくさん頑張った後ですし……。消耗してますし……ね?」


 ぐいぐいと俺の服の裾を引っ張って一緒に逃げようとするセンカ。

 まぁ、確かに今の俺は少し疲れている。

 正直、帰って寝たい。


 街の人達のためにこの身を捧げようっ!!

 ――なんていう正義の心も残念ながら持ち合わせていない。

 だが――


「センカはどこかの影にでも隠れていてくれ。そうしていれば安全だろうから」

「ラース様!?」


『はぁ。やっぱりそうなるのね』


 俺は――退くわけにはいかない。

 理由は二つある。


 一つ、ここでの撤退行為は『ウルウェイ・オルゼレヴ』の信念に反する。ここで俺が逃げたらウルウェイはもう一生、俺に力を貸してくれないだろう。


 そして二つ目の理由。

 それは――


「せっかく魔物エモノが向こうから来てくれたんだ。お相手しなくちゃ失礼ってもんだろう? レイナさん、少しいいか?」


「な、なんだい少年。こっちは今忙しいんだよ。少年は消耗してるんだからさっさと避難して――」


 キレ気味にこちらを振り返るレイナさん。

 そんな彼女に俺はかの名台詞をぶつける。


「さっき魔物の足止めを俺たち冒険者に依頼してたが……別に全部倒してしまっても構わんのだろう?」

「は? ちょっ、少年、まさか――」


 あ、でもこれって死亡フラグだったっけ?

 まぁ、いいか。


 さて、やるとしますか。

 俺は唯一、コントロール出来るラスボス『ウルウェイ』を憑依召喚する。


「憑依召喚。対象は――ウルウェイ・オルゼレヴ」



『イメージクリア。召喚対象――ウルウェイ・オルゼレヴ。

 憑依召喚を実行――――――成功。

MPを100消費し、24時間の間、不屈の魔人、ウルウェイ・オルゼレヴを肉体を依り代に召喚します』


 そうして――――――ウルウェイが俺の肉体に召喚される――――――


「さて、こうして連続で召喚したのは初めてだが……問題はなさそうだな」

「ラース様……うぅぅぅぅぅ。えいっ!」

「ん?」


 さっき隠れるように言っておいたセンカが俺の影に潜り込んでくる。


「ラース様が行くならセンカもお供します! センカだってきっと役に立てます」


 そう言って俺の影から離れようとしないセンカ。

 影に潜むセンカに干渉できるのはセンカ自身と、影使いのリリィだけだ。

 こうなっては手のだしようがない。


「ったく。どうなっても知らないぞ?」

「――はいっ!」


 素っ気なくしたつもりなのに嬉しそうに返事を返すセンカ。

 調子が狂うなぁ。


『センカはあなたの事が心配でたまらないのよよ。多分、あなたが危なくなったら躊躇ためらいなく影から飛び出てその身を投げだすでしょうね』


 それは勘弁。センカはもう俺にとってもかけがえのない存在だからな。


『くすくす。なんだ。相思相愛じゃない』


 いや、愛じゃないし。

 俺が愛してるのは……えぇっと……その……ああ、もうっ! 全部分かった上でからかってるだろルゼルス!?

 前にも言ったけど、いつか絶対に落としてやるからな?


 絶対に――ルゼルスを落とす。


 あの時の誓いは今も当然変わっていない。



『くすくす。楽しみにしてるわよ。坊や』


 はぁ。

 やっぱりまだ『坊や』扱いか。

 まぁ、いいさ。

 ルゼルスを永続召喚した後、たくさんアプローチしまくって気を引いてやる。

 その為にも、MPを補給は急務だ。

 そして好都合な事に今、魔物MPが団体さんで来てくださっている。





 さぁ――狩りを始めようか。

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