第40話『報・連・相』


 ――冒険者ギルド


 ギルドに着くなり、俺とセンカは職員さんから特別報酬を貰いに受付に向かった。


「おぅ、少年。また丸一日やってきたのかい?」


 今回も受付に居たのはギルド職員のレイナさんだ。


「えぇ、まぁ」

「ったく仕事熱心だねぇ」


 丸一日戻らなかった俺たちを見て半ば呆れている感じだ。

 仕事熱心というか、俺はただルゼルスを永続召喚するためのMPを早く貯めたいってだけなんだけどな。



「さてと、それじゃあ報酬だけど……少し待ってくんな。まだ少年が倒した魔物の報告が上がってきてないからさ」


「ああ、そりゃそうでしょうね」


 俺が倒した魔物の報告なんて上がってきているはずがない。


「ん? そいつぁどういう事だい?」


 俺の意味深な言葉を聞き、怪訝そうな顔をするレイナさん。

 まぁ、説明するより見せたほうが早いか。


「センカ、いくつか出してくれ」

「分かりました」


 そうしてセンカは俺の影に手を突っ込んだ。


「んしょ……これは……大きすぎるからダメ。だからこれと……これ」


 そしてセンカは影から比較的小さな魔物であるゴブリンとコボルトの死骸を取り出し、そっと床に置いた。


「…………………………OK。もう驚かないよ私は。で?」


 一瞬顔を強張らせたレイナさんだったが、驚くのに慣れてきたのか話の続きを促してきた。

 俺が言うのもなんだけど、初見でこれを見てその対応って凄いな。

 

「いや、俺が倒した魔物はこうやって全部センカに運んでもらったので今回はいくら調べても魔物の死骸は見つかりませんよって話です」

「あぁ、なんだ。そう言う事かい。あっはっはっはっはっはっは」


 俺の説明を聞いてなぜか大笑いするレイナさん。

 だけどどうしてだろう。目が笑っていない気がする。


「え、ええ。そう言う事なんです」

「そうかいそうかい。ところで少年――」

「はい?」

「何てことしてくれてるんだいアンタぁぁっ!!」


 受付の机をバンと叩き、レイナさんが怒りをあらわにする。

 あれ? なんかダメだった?


「いや、俺が魔物の死骸を放置してることを悪く言う人たちが居るって聞いたんで気を利かせたつもりだったんですけど……」

「ああ、それはいいさ。どんな方法だろうが、魔物の死骸を放置したままにしないってのは良いことだよ」


 なんだ、なら問題ないじゃないか。

 センカの影に収納された魔物は後で取り出し、解体して売れそうな素材だけ売った後はきちんとどこかに埋葬する予定だ。

 うん。やはり何も問題はない。


 と、思っていたのだが――



「でもねぇ、少年。それ、するなら前もって言って欲しかったよ。今頃、少年が魔物を討伐してた地域を散策してるであろう冒険者達の為にもねぇ」

「あ」


 そうか。

 俺が討伐した魔物の死骸が全てここにあるという事は俺とセンカしか知らない。

 となると、俺が倒した魔物の死骸を今も冒険者の方々が探している訳で――


「少年……報告、連絡、相談の必要性って知ってるかい?」


 そんなレイナさんの責めるような視線に対し俺は、


「すいませんでした」


 ただただ、謝る事しかできないのだった。

 いやー、大事ですよね。報告、連絡、相談って。

 なんか前世でも誰かに注意された気がしますよ。


 そんな俺をジトーっとした目で見るレイナさんだったが、「済んじまった事だしもういいよ」と許してくれた。


「しかし困ったねえ。これじゃ少年の討伐していた地域を守ってた冒険者達は大損だ」


 そうして新たな問題に直面したと言わんばかりに頭を抱えるレイナさん。


「え? なんでですか?」

「あいつらが狙っていたであろう報酬が今回はないからさ。少年、何体の魔物を倒してきたかは知らないけど全部そのに持たせてるんだろう?」

「持たせてるのとは少し違いますけど……まぁそうですね。何体かは俺も数えてません。センカ、分かるか?」

「えと……ラース様が倒した魔物は……大体1000体くらいです。もっと詳しい数となると実際に取り出してみないと分からないですけど、おっきいのも居るのでここじゃ入りきらないです」


 そうセンカが告げると、受け入れられる許容量を超えたのか、レイナさんが真後ろに倒れた。

 あぁ、なんだかんだ結局そうなるんですね。


「せっん!? 今、1000体って言ったのかい!?」

「え、えと……はい。大体ですけどそれくらいのはずです」


 おずおずとした様子で応えるセンカ。

 だが、それを気にする余裕もないくらいレイナさんは驚いているようで口をぱくぱくさせていた。見ていて少し面白いな、これ。


「えと……そりゃ……また随分と頑張ったもんだねえ。前回の討伐数の倍近いじゃないか」

「指定された場所に居る魔物の数が多かったですからね。正直、前回も今回も倒すのより捜索に時間をかけてますし。今回はその捜索に前ほど時間を取られなかったので幾分かスムーズに狩れました」


 魔物を倒す力があっても、見つけられないのなら意味がない。

 残念ながら俺が召喚できるラスボスに探知能力を持つやつはいないし、どうあっても地道に探すしかないのだ。


「こ、こほん。まぁ、本当にその数を討伐したのかはまた街はずれの荒野とかで見せてもらうよ。

 ――さて、冒険者達が大損だっていう話の途中だったね。少年が指定区域の中で魔物を狩りまくっている間、その中に一般人が入り込まないように冒険者の方々には依頼をしていたわけなんだけどね? 正直、そんな魔物を一匹も倒さず、依頼人もいないクエストにギルドは大した金なんて出せないんだよ」

「まぁ、言われてみればその通りですね」


 ギルドだって無尽蔵に金がある訳じゃないだろうしな。


「でもこのクエストは冒険者に人気だった。理由は分かるかい?」


 俺が指定区域の中で魔物を狩りまくっている間、その場所を封鎖するだけのクエストが人気だった理由……。

 そういえば、当のレイナさんから聞いていたな。


 あれはそうだ。

 確か俺が魔物の死骸を放置するから、戦わずして魔物の素材が手に入るっていうのが人気の理由だったはず。


 あぁ、そういう事か。


「今回は俺が魔物の死骸を放置せず、全部持っていっちゃってるからみんなが狙ってた副次的な報酬がない。だから大損……って事ですか?」

「そういう事さね」


 ああ、それはまずいな。

 俺はただ単に他の冒険者の迷惑にならないようにしたつもりだったのに……このままでは皆に損をさせてしまう。


 俺が丸一日魔物を狩っている間、冒険者さん達はその区画に誰も入らないようにしてくれている。

 おかげで俺は魔物の討伐にのみ意識を向けることができるので大変助かっているのだ。


 その恩を仇で返すような事はしたくないんだけどなぁ。


「最悪、この魔物セットを渡してしまってもいいんだけど……」


 そこで一つの案を思いつく。


「そうだ。レイナさん。ギルドとして一つ俺の依頼を受けてくれないかな?」

「いきなりなんなんだい少年?」


 俺が依頼を出すなんて初めての事なので意図を測りかねているレイナさん。

 俺はそんなレイナさんに俺にとっても冒険者さんにとってもありがたい依頼を持ちかける。


「俺が倒した魔物の解体と埋葬を冒険者さんにお願いしたいんだ。報酬は解体で得られる魔物の素材、その全てだ。もう俺はそんなに金に困ってないから売るだけの素材とか要らないしね。あー、あとアレだ。依頼を出すにはギルドに仲介料とか払わないといけないんだっけ? その金もある程度なら出せるよ」

「解体と埋葬? そんなの自分でやれば――」

「そんでもって俺が指定した冒険者だけにそれをやって欲しいんだ。俺が誰を指定したいかは……分かるよね?」

「――――――ああ、なるほどね。わかったよ少年。なんだか気をつかわせてしまったみたいで悪いね」

「いやいや。俺にとっても解体やら埋葬の手間がなくなるのはありがたいことなんで気にしなくていいですよ」

「埋葬はともかく、解体まで嫌がるなんて変わってるねえ。冒険者の収入源の一つだよ?」


 そう言われてもなぁ。

 俺の倒す魔物の討伐数がとんでもなく多いからか、その報酬だけでもう十分に生活できちゃってるんですよ。

 これ以上、稼いでも正直邪魔にしかならないから無理して稼ぐ必要はない。

 そもそも、俺は金の為に魔物を狩ってる訳じゃないしな。

 全ては俺のMPの為だ。やっと合計60000のMPを貯める事が出来たけど、これでもまだ足りない。


 永続召喚に必要なMPは100000。


 今でやっと折り返し地点まで来た程度なのだ。まだまだ狩り続けないといけない。

 


「――ってな訳で今から街はずれの荒野にでも適当に置きに行くんでお願いします。魔物の計上とかもやりますよね?」

「あぁ。ただ、私は後から行くよ。……少年が倒した魔物の死骸を今も探している冒険者達を呼び戻したりしなきゃならないからねぇ


 ジト目でこちらを見つめてくるレイナさん。

 いや、ほんとすいませんでした。



 そうして俺が街はずれの荒野に向かおうとギルドから出ようとした時。

 なんだ?

 外が……騒がしい?


「た、大変だっ!」


 一人の冒険者風の男が外から転がり込んできた。

 男は怪我を負っており、ただ事ではない雰囲気をその身にまとっている。


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