第39話『頑固なのはお互い様』
ギルドのクエストを受けてから約十二時間が経過して、日も完全に落ちた頃。
俺は――未だに魔物を狩り続けていた。
さすがはキルネアンジュの森。
スタンビークの領地内で最も広大な森と言われるだけあり、内に居る魔物の数もかなり多い。
殆ど休みなく魔物を討伐しているから、MPがかなりのスピードで加算されていく。
『ラース、少しは休んだらどう?』
「断る。理由はルゼルスも分かってるだろ?」
『ふぅ。まぁ、そうなるわよね。でも、無茶だけはしないようにね?』
憑依召喚が持続するのは二十四時間の間。その時間を無駄にしたくない。
だからその間に俺は多くの魔物を狩りたい。
血だらけになろうがそんなの関係ない。
「俺は永続召喚をするためにもとにかくMPが欲しいんだ。だから……その為にも歩みを止めるわけにはいかないっ!」
そうして森を散策する俺の耳に聞こえる風切り音。
頭上から何かが――来るっ!
見れば、頭上からハーピィが幾体か襲い掛かろうとしてきていた。
だが――見えている。
「ふっ――」
カウンター気味にハーピィの一体を斬り捨てる。
それを見て何を思ったのか、ハーピィが空を飛んで逃げようとする。
「逃がすかっ。『模倣』」
最初は手探りの状態でウルウェイのの力を振るっていた。
だが、何時間もウルウェイを憑依召喚して戦っていたおかげで、かなりこの身体にもなれた。
ウルウェイの能力。それは見たものの模倣をするというもの。
模倣したものはオリジナルのものより二倍優れたものとなる。
ゆえに――ハーピィが飛翔したのを『見た』俺はそれを模倣することができるっ!
ちなみに、ウルウェイはこの能力を持っているがゆえに異常に目が良い。
だからこそ、俺はこんな暗闇の中でも相手の姿が見えるんだ。
ウルウェイの能力である模倣を発動するが……特に何も起こらなかった。
「……あれ?」
しばらく考えて――理由に思い至る。
ああ、そう言えば特定の道具とかが必要な技は模倣出来ないんだったか。
という事は……ハーピィの飛翔の場合、羽がないと飛翔が出来ないから俺には模倣出来なかったって事かな。
『逃げられてしまったわね。どうするの?』
少し心配そうに問うルゼルス。
「ラース様……大丈夫ですか?」
センカも影から飛び出て俺の身体をペタペタ触って大丈夫か確認してくる。
二人にそこまで心配されると休まないといけない気もしてくるが……本当に大丈夫なんだよなぁ。この身体にも慣れた今、Bランク程度の魔物に遅れを取る事なんて絶対にないし。
何時間も身体を動かし、返り血で染まってしまっている俺だけど、そんなに疲れてもいないし眠くもないのだ。
ゆえに、休む必要なんてない。
――というか、大好きなラスボスの力をこの手で扱っているって思うと不思議と気分が高揚してしまうんだよな。そのせいで眠気が飛んで、疲れも感じにくくなっているのかもしれない。
ぶっちゃけ、ルゼルスを召喚するMPを貯めたいという想いとは別に、純粋に戦いたいという想いもあるのだ。
ゆえに、俺は魔物を討伐する手を止めない。
「俺は大丈夫だ。まだまだやれる。ただ、センカは眠かったら影の中で寝てていいぞ? もう十分役に立ってるからな。正直、予想以上だった」
センカは影の中から俺のサポートをしてくれていた。
別に攻撃にも防御にも参加する訳でもないのだが、邪魔な魔物の死骸をすぐに影に収納してくれるのだ。
センカが言うには、影に意志のある物は一つしか入れられないらしいのだが、意志のない物ならいくらでも収納可能らしい。
死骸も数が多すぎると戦闘の邪魔になるし、後で埋葬とかしてくれる冒険者さんにも迷惑だし、とても助かっている。
「ラース様がまだやるならセンカもやります。もっといっぱい役に立ちたいんですっ!」
そう言って両こぶしをぐっと握るセンカ。
夜の森でその仕草はなんだかミスマッチで思わず「ふっ」と笑ってしまった。
『いい子ね。大事にしなさいよ? ラース』
分かってるよルゼルス。
その能力だけを見込んで無理やり拾ったセンカだが、もうその能力関係なしに愛着が湧いてしまっている。
粗末になんて扱えるわけがない。
俺はセンカの頭を優しく撫で、無理だけはしないように言う。
「そうか。でも、休みたくなったらいつでも影の中で休んでくれていいからな? 俺はノンストップで最後まで駆け抜けるから」
「ラース様がのんすとっぷ? で最後まで駆け抜けるならセンカものんすとっぷで最後まで駆け抜けますっ!」
『くすくすっ。頑固なのはお互い様って事ね』
ホント、その通りだな。
脳内のルゼルスの声に心の中で応える。
ルゼルスと会話していたことをセンカに気づかれると不機嫌にさせてしまうから、ガシガシとセンカの頭を撫でて誤魔化し、
「ははっ。無理はするなよ? それじゃあ――行くか――」
「はいっ!」
そうしてセンカを俺の影へと潜らせ、俺は夜の森を再び駆けた。
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