第44話『魔人降臨』


 圧倒的な再生能力。そしてその巨体。

 俺はそんなトロールを見て思ったのだ。


(これ、武器として使えるんじゃね?)


 トロールの再生能力を目視すれば、俺自身も『模倣』で再生できる。

 つまり、戦闘の最中に怪我を負っても、このトロールさえ近くに居れば俺はいつでも回復出来るのだ。

 そして、当のトロールはその再生能力により、かなり頑丈だ。

 そう――俺が全力で振り回そうが何をしようが簡単には壊れないのだ。

 

 それはつまり――絶対に壊れない棍棒としても使えるという事だ(極論)。


 


 そうしてこのトロールを武器にした結果――思った通り、良い武器となった。


 この武器の名を、俺は『トロールソード』と名付けた。


 この武器を持っているだけで俺はいつでも回復できるし、かなり頑丈なので俺が全力でぶん回しても少し傷つくだけで壊れない。

 そして、少しくらい傷ついても武器自体に再生能力があるのでいつまでも振り回せる。


 俺の意に反してもがいたりするのがたまに傷だが、それを加味しても上質な武器と言わざるを得ないだろう。


「モウ……モウ……ヤメデグレェッ」


 トロールソードが泣いている。

 それを見て俺の心は痛ま………………ないっ!


 こいつ、初対面の俺に対して普通に襲い掛かってきたからな。

 そんな相手に与える慈悲の心なんざ俺は持ち合わせちゃいない。

 ――というわけで。


「せーーーーのっ」



 俺は引き続きトロールソードを両手に持ち、逃げ惑う魔物の群れに向けて振り下ろす。

 ぶちゃっと潰れる魔物。ガラガラと崩れるゴーレム。その他諸々。


 いやぁ、やはり攻撃範囲が広い武器だと気持ちよく倒せるなぁ。

 実は振りかぶる瞬間だけ思いっきり隙だらけなのだが、どの魔物もその隙を狙ってこようとしない。まぁ、狙われたところで半端なダメージならすぐにトロールソードの再生能力を模倣して全快出来るわけだが。


「アイツイッタイナンナンダッ!? アルジ、マダカ!?」

「シラネエヨッ! トニカクツッコメッテヨ」

「ヒィィィィィィィィッ」


 俺を恐れてただただ逃げ惑う魔物。

 ……そういえば冒険者や兵士の姿が全然見えないな。

 一応、そこらへんは気を付けてこのトロールソードを振るっているのだが。


『ラース。冒険者や兵士のみんななら既に逃げた後よ。あなたの戦い方があまりにも愉快だったからね』

「え? マジで?」

「むぅ……ラース様。またルゼルスさんと話してますね。センカも居るのに……」



 辺りを見渡すと――なるほど確かにもう誰も残っていない。

 遠目に兵士たちが城壁の辺りからこちらの様子をうかがっているのが見える。


「うーん。という事は……辺りには敵しか居ないって訳か」


 つまり、もう周りの被害なんて度外視で暴れていいという事だ。

 魔物も今は逃げ惑うだけだし……このトロールを今の攻撃力できちんと倒すのも骨だし……よし、やるか。


「よし、じゃあそろそろお前を開放するとしよう」

「ッ!? ホンドガ!?」


 希望に満ちた目でこちらを見るトロール。

 ああ、本当だとも。俺は嘘はたまにしかつかない(多分)。

 言葉通り、武器という役目からお前を開放してやるとも。


「ああ、本当だ。ただ……最後に思いっきり役に立ってもらうけどな」

「……ナニ?」


 俺は困惑するトロールを余所に、だがその手首を今まで以上に強く握る。


「イデデデデデデッ、オレル、オレル」

「安心しろ。折れても再生できるだろ? お前」

「ゴノ……ヒトデナシィッ!」

「……まさか魔物から人でなし扱いされるとは思わなかった」

「ハナ……ゼェッ」

「ああ、要望通り少ししたら離してやる。行くぞ――」


 俺は自身の体を軸にして、トロールを横方向に回し始める。

 いわゆるジャイアントスイングというやつだ。


「ウオワッ。メガ、マワッ、ヤメッ、オエッ」


 振り回されているうちに平衡感覚が狂い、嘔吐するトロール。うえっ、きたな。

 そのままスピードを上げていき――俺は最後の技名を叫んだ。


「行くぞ。モーニングスターならぬトロールスター! 飛んでっけぇっ!」

「ヤメ、ハナ……ズナァッ」


 離すなと言われてももう遅い。

 だって、もう既に離した後だもの。


「「「ウギャアアアアアアアッ」」」


 トロールスターが飛んでいった方向から魔物の悲鳴が高く響く。

 一応、一番に密集しているところを狙って投げたんだが、戦果は上々のようだ。


 とはいえ、まだまだ魔物は湧いてきている。

 今は俺を警戒して近寄ってこないが、それでも退かないところを見るとまだやる気のようだ。

 なら――仕方ないよな。


「憑依召喚……解除」

 

『憑依召喚を解除します』


 この身に宿したウルウェイの召喚を解く。

 この瞬間、俺はただの雑魚と化す。

 だが、そうする必要があったからそうしたのだ。



 なにせ、同一人物を同時に召喚することは出来ないからな。

 間髪入れずに、俺は彼を召喚する。



「通常召喚。対象は――ウルウェイ・オルゼレヴ」



『イメージクリア。召喚対象――ウルウェイ・オルゼレヴ。

 通常召喚を実行――――――成功。

 MPを1000消費し、不屈の魔人、ウルウェイ・オルゼレヴを24時間召喚します』



 そうして――――――かの魔人、ウルウェイ・オルゼレヴが召喚される――――――

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