第33話『リリィ召喚』
「さて、センカ。お前の影使いとしての技能だが……さっき俺が言ったような影に自分の身を隠したりとかは出来ないのか?」
めでたく俺の仲間になった『影使い』のセンカ。その能力を把握するため、俺は彼女と話し込むことにした。
まぁ、仮に「今は影をちょっぴり動かすことしか出来ないんです」と言われてもいいさ。
レベルが上がれば何か変わるかもしれないんだし。
そう簡単にあの『影使い』を手放す気なんてサラサラない。
「えと……そんなの……無理、です。影は所詮、影ですし」
そんな事出来る訳がないと言うセンカ。
だが、俺はそれに異を唱える。
「いや、影は影だからって簡単に諦めるのは早計だろ。俺の技能もイメージが重要な技能だしな。案外、お前が『影に沈む』っていう事を上手くイメージさえできればすんなり出来るかもしれないぞ? 色々と試したりはしてみたのか?」
「(フルフル)でも、お母さんも私と同じ技能持ってたけど……これ以外の事、やってなかった」
そうしてまた自身の影を動かすセンカ。それは相変わらずゆらゆら揺れるだけで物理的に何かに干渉することはない。
同じ技能を持つ母。そんな母が出来る事が自分の全てだと思って他の事を試さなかったって所か。
しかし……センカの母親も『影使い』なのか。
もしかして『影使い』って意外と多い
いや、でも今まで一回も聞いたことがないな。
もしかしたら遺伝みたいな感じで娘に同じ
考えてみれば俺の実家の剣聖の家も何代も続けて
まぁ、それに関しては横に置いておこう。
「お前の母ちゃんが出来なかったからってお前にも出来ないなんて道理はないだろ。まぁ、物は試しだ。試したことがなかったなら今、試してみろ」
そう言って俺はセンカに影に潜るように指示を出す。
影使いにやって欲しい事はいくらでもあるが、その中で一番に俺がやってほしい事は『影に潜る』事だ。
最悪、それさえやってくれれば俺のサポーターとして魔物討伐に連れていける。
なぜなら、影の中というのは基本的に不可侵領域だからだ。
俺が召喚する殆どのラスボスは影に干渉できない。
唯一、影に干渉が出来るのは争い事を嫌う影使い『リリィ』だけだ。
だから、センカが影の中にさえ隠れてくれれば、俺は周囲を気にすることなく憑依召喚が出来るのだ。
俺が影使いのセンカをサポーターに選んだ理由である。
完全無欠の自衛手段を持つ者でないと、俺と共に魔物の討伐なんて出来ないからな。
周囲に仲間が居ようが憑依召喚先のラスボスの気分によっては普通に巻き込んでしまうだろうし。
そういう事で、センカに影に潜るように指示を出したわけだが――
「わ、分かりました。ん、ん~~~~~~~~」
自身の影を睨みつけ、両こぶしを握って意識を集中させるセンカ。
しかし……一向に潜る気配はない。ただ、
「あー、もういいぞ」
やり方を致命的に間違っているセンカに中止するように言う。
「は、はい」
そうしてセンカは
「やっぱり……ダメでした」
肩を落として落ち込むセンカ。
だが、今のでうまく行くわけがない。
俺は自身が今まで見てきた影使いの姿を思い出しながら、素人目線で口を出すことにした。
「あのな、センカ。そんなに
「イメージ……ですか?」
「ああ。『影に入ろう』って強く思うんじゃない。むしろ『影に入れるのが当然』っていう風に思え。影だからそんな事出来る訳がないなんて常識は一回どこかに捨てろ。その固定概念を捨てた時、お前の影使いとしての能力は開花する………………かもしれない」
さすがに断言は出来なかったので言葉尻が弱くなってしまう。
だが、俺の推察はおそらく間違っていない。
俺の技能がラスボスのイメージが必要なように、技能には少なからずイメージ力というのが関わってきている。
「分かり……ました」
そしてセンカは今一度自分の影を見つめ――
「ん~~~~~~」
さっきと同じように
「なんでやねん(ポカッ)」
「あぅっ――」
「い、痛い……です」
センカが少し涙目になりながら俺を非難めいた目で見てくるが、文句を言いたいのは俺の方だ。
「いや、
「でも……影は影ですし……」
「頭かったいなぁ!!」
いや、まぁセンカのいう事は何も間違っていない。影は影だ。普通はその中に入れる訳がない。
だが、今はその固定概念が邪魔なんだよなぁ。どこぞのラスボスさんも『時間を止めれるのが当然』と自身に言い聞かせる事で時間を止める能力を手に入れてた訳だし。
「……いっそ、一回実演してもらえば早いか」
「実演……ですか?」
俺の独りごとに反応するセンカ。
「ああ。ちょいと待っててくれ」
さぁて、まずは本人に確認を取るとしますか。
『ああ、『彼女』を呼ぶのね。ただ、彼女が快く協力してくれるかしら?』
脳裏に響くルゼルスの声。相変わらず俺の考えていることは筒抜けらしい。
「正直言うと分からない。そもそも、この世界で『彼女』が何を想うのかも分からないしな。だから本人に聞くんだよ。限定召喚なら危険もないし、彼女は話の通じるラスボスだからな」
『まぁ、そうね』
ルゼルスの了承も得られたので、俺は早速『彼女』を召喚する事にする。
「さて、それじゃあやりますか――限定召喚、対象はリリィ」
『イメージクリア。召喚対象――リリィ。
限定召喚を実行――――――成功。
MPを5消費し、闇の担い手、リリィの精神を24時間召喚します』
視界に映るシステムメッセージ。
召喚は成功したようだ。
そして――
『――ここは……』
脳裏に響くルゼルスとは別の声。
俺はその声の主の事を良く知っていた。
だから――
「おはよう。リリィさん」
俺は彼女に対し、旧知の間柄であるかのように気さくに話しかける。
『あなたは――』
俺はまだ状況を理解できていないだろうリリィさんの言葉を遮り、
「ああ、いい。リリィさんもまだ召喚されたばかりで色々と混乱してるだろ? まずは落ち着いて自身の記憶を遡って欲しい」
自身の記憶を探るようにと提案する。
リリィは頭が良いキャラだ。俺がアレコレ説明するより、召喚されたラスボスならば共有しているという俺の記憶を読んでもらった方が早い。
『……分かりました』
そうしてリリィさんはしばらく沈黙。
近くでセンカが不安そうな顔をしているが、それは無視する。
さて……色々と理解したリリィさんがどう動くか――それが問題だ。
そうして数分が経った頃、リリィさんの声が脳裏に再び響いた。
『そう――兄さんは無事に未来を紡げたんですね。良かった――』
「リリィさん……」
彼女の名は――リリィ。
アニメ『コード・アミデロヒー』に登場するラスボスである。
彼女は秘密結社『オンアイア』を率い、多くの人々の命を奪った犯罪者だ。
最終的には主人公の手によってその命を落とすことになるラスボス。
そして、彼女はそれを最初から望んでいた。
望んだうえで、本来優しい性格のはずの彼女はしたくもない非道にその手を染めたのだ。
なぜか?
それは――そうしなければ最愛の兄の命が失われてしまうという最悪の未来を幼少期に視てしまったからだ。
そうして最終局、彼女は最期に笑いながら――主人公である兄によって討たれた。
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