第34話『契約』
さて――リリィさんがこの世界で何を想うのか、アニメ時代の彼女の事を知り尽くしている俺でも全く予測できない。
闇の担い手、リリィ。それがアニメにおける彼女の通り名だ。
しかし、視聴者からはこうも呼ばれていた。
究極のブラコン、リリィ様――と。
その名の示す通り、彼女の行動理由はいつだってシンプル。
愛する兄の為だけに行動する。
リリィさんにとって兄の存在こそが世界の全てなのだ。
それこそ『兄>>>>>>絶対に超えられない壁>>>>>>>世界の存亡』というくらい兄の事を溺愛しているある意味困った妹様である。
ゆえに、彼女がどう行動するか分からない。
だって、この世界には彼女の兄である『コウ』さんが存在しないんだもの。
兄の居ない世界で彼女がどう行動するのか――俺は唾をごくりと鳴らし、彼女の言葉を待つ。
そして――
『ZZZZZZZZZZZZ』
響くリリィさんの寝息。
………………寝息!?
「寝るなーーーーーー!!」
『んーー? 何なんですか、もう』
「ふぁっ、えと、寝てないです寝てないです!」
召喚早々寝るリリィさんに対し、思わず大声で怒鳴りつけてしまう。
それを気だるげな声で返すリリィさんといきなり怒鳴られたと勘違いしてあわあわと手を振るセンカ。
センカに関しては後でラスボス召喚について説明するから放っておくとして、まずはリリィさんと話をさせてもらう。
「えっと、リリィさん? 今までの経緯とか理解出来て……ますかね?」
『もちろん、理解できていますよ。私の元居た世界は『アニメ』という媒体で構築された別世界だと言うのでしょう? で? それがどうかしたんですか? 私は愛する兄さんを救えたから満足。思い残すことはありません。だから寝ます。以上。お休みなさい』
面倒くさいオーラを全力で発し、睡眠を継続しようとするリリィさん。しかし、それでは困る。
「いや、こっちの事情とかも理解してますよね? ちょーーっとセンカの能力向上の足がかりとするためにもリリィさんの力を借りたいなー……なんて」
『嫌です。私にメリットがありませんし。というか、兄さんが居ない世界に興味なんて一ミクロンもありません。以上。お休みなさい』
取り付く島もない……。兄の存在がなかったらここまで激変してしまうのか……。
『あぁ、一応言っておきますけど私を憑依召喚なんて絶対にしないでくださいね? 兄さんと一緒になるのは大歓迎ですけど、他の人と一緒になるくらいなら舌を噛んで死にます。あなたが私を憑依召喚したらそれがランダムだろうがなんだろうが自害するのでそのつもりで』
「召喚した
いや、まぁそれでこそラスボスって感じではあるんだけどさ。
しかし、困った。これでは力を貸して貰えないばかりか敵になりそうな感じだ。
ランダム憑依召喚が半ば封じられたのは痛いが、幸いMPなら余っているのでそこはまぁよしとしよう。
「ラース様?」
先ほどから心配そうに俺を見つめているセンカ。
まぁ、センカから見れば今の俺って虚空に向けて独り言を口にする危ない奴だからな。心配されるのも無理ないか。
「大丈夫だから」
俺はセンカの頭を撫で、大丈夫とだけ告げリリィさんへの対応を考える。
屈服させるのは不可能。仮にできたとしてもそれでいう事を聞いてくれるキャラではない。
となれば話し合いしかないが、唯一交渉材料となりえる彼女の兄である『コウ』はこの世界には居ない。あいつはアニメのキャラだしな。
この世界に居るはずが――
「いや、待てよ?」
この世界に居る訳がない。それに関してはリリィさんも同じだ。
だが、彼女はアニメ時代の彼女から少し変質してはいるが、きちんとこの世界に存在している。
それは俺の技能によって成し得た事だ。
それと同じことが主人公の『コウ』にも起こったら?
俺は『ラスボス召喚士』という
ならば、『主人公召喚士』という
可能性はそう高くない。
俺の『ラスボス召喚士』という
だが――0%でないと言うだけで交渉材料としては十分!!
ゆえに、俺はその切り札をきる。
「リリィさん――契約だ。この世界にあなたの兄である『コウ』が現れたら……あなたを自由にする。だから……それまでは俺に協力してくれ」
『――――――っ!』
リリィさんが息を飲んだ気配が伝わってきた。
少しは話を聞く価値があると思ってもらえた……かな?
『……ああ、なるほど。あなたの考えが私にも伝わってきました。無理やり以心伝心させられているようで
よしっ!
さっきまで興味の一欠けらもなかったリリィさんがようやく俺と対話の意志を見せた。
この世界に彼女の兄の『コウ』が現れる可能性は確かに低い。
だが――彼女に限らず、多くのラスボスは分の悪い賭けだろうが、自らの望みの為ならばチャレンジするという精神が根付いている。
そんなラスボスであり、兄の為ならば世界だろうが何だろうが敵に回す事を
しかも、彼女と交わす『契約』は絶対に破れない。だからこそ、そこに信頼関係がなくても交渉は成立する。
ゆえに持ちかけた『交渉』であり『契約』だ。
そうしてリリィさんが出した答えは――
『分かりました。その契約――結びましょう』
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