第32話『半魔の少女-3』
気が付いたときには既にセンカの手を掴んでいた。
驚き、振り向くセンカ。その瞳には当然、俺の姿が映っている。
さて――ここからどうするかなぁ。
正直、色々と言いたいことはある。『自分の事を役立たずだなんて言うなよ』だの『まだレベル1なんだから伸びしろはあるだろ』だの、かけるべき言葉はいくらでもある。
あるのだが――それをどう自分の言葉に変換していいのかが分からない。こういう時、話し上手な奴ってどうしてるんだろう?
「あの――」
センカが困ったように掴まれた腕を見る。
この手を離したら、確実にセンカはここを去るだろう。
それだけは……嫌だ。
俺がこの子の技能を欲しいと思ったのは本心からだ。
この子を放っておいてもおそらく野垂れ死ぬか今日のような事がまた起きるだけだろうし、それなら俺の手元に置いておきたい。
俺の『ラスボス召喚』のように使い方によっては『影使い』だって進化するのかもしれないのだから。
「ああ、ったく――」
ガシガシと頭をかく俺。
あまり慣れていないが……仕方ない。
そもそも、初対面の女の子相手に気取った言葉を選ぼうとしている時点で間違ってたんだ。俺はそこまで器用じゃない。
となれば話は簡単。
言葉を選ばず、ただただまっすぐに伝えればいい。
俺は本心からの言葉をセンカにぶつけることにした。
「俺には……センカ、お前(の技能)が必要だ」
「………………へっ!?」
『ら、ラース?』
センカと、なぜかルゼルスまでもが動揺する。
ただ、俺も正直いっぱいいっぱいなんだ。
相手の反応なんか気にせず、自分の心に浮かんだ言葉をそのまま彼女に叩きつけさせてもらう。
「お前は自分が役立たずだの何だのと言っていたがな。そんなのはお前がそう思ってるだけじゃないのか? 大体、お前はまだ十三才の子供だろ。まだまだ発展途上じゃないか。それなのに自分で自分の道を閉ざしてどうする」
「それに、お前が自分の事をどれだけ卑下しようがなぁ。俺はお前の事を必要だって言い続けるぞ。俺はお前(の技能)が欲しい! 前世からずっと(その技能に)憧れていたんだっ。(今が使えない状態だからって)そう簡単に諦められる訳がないだろ。どんなことをしてでも(望んでいた影使いとしての技能を持つ)お前を俺の物にしてやる覚悟だ」
「絶対に後悔はさせない。だから……俺を一生(冒険者のサポーターとして)支えてくれ。(影使いの)お前しか俺に合わせられる奴は居ないんだ。レベル上げにはもちろん付き合うし、その技能の底上げにも全面的に協力させてもらう。
だから――――――この手を取れ!!」
そうして俺はセンカの腕から手を離し、掴み取りやすいようにその手をセンカへと向ける。
――――――ふぅ。
最後はなんだか芝居がかってしまった感があるが……大体言いたいことは言えたと思う。
これで振られたら……まぁその時はしかたない。
諦めてこれまでと同じようにソロの冒険者として活動しよう。
そして――
「……ぐすっ」
なぜか涙ぐむセンカ。
え? なんで?
俺、何か酷い事言った?
『クククククククククク。アーッハッハッハッハッハッハッハッハ。アハ。アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ。最高。最高よラース。この女ったらし。よくもやってくれたわね。それでこそ私の
え? ああ、それはどうも?
そして、何かツボにでも入ったのか。ルゼルスが大爆笑していた。
ここまで笑うルゼルスは初めてだ。ゲーム内の彼女もここまで大爆笑することはなかったはず。
うーん。やはり最後に芝居がかった感じで手を差し伸べるのがおかしかったのだろうか? いや、まぁ喜んでくれてるみたいだしいいの……か?
脳裏に響くルゼルスの笑い声。
それに気を取られる中――
「よろしく……お願いしますっ!」
泣きながら――
それでも満面の笑顔を見せて――
震える手で俺の手を取るセンカ。
その笑顔がとても可愛くて、一瞬見惚れてしまう。
――っていかんいかん。ルゼルス一筋なんだよ俺は。
頭を振って邪念を振り払い、
「お、おぉ。こちらこそよろしく」
伸ばされたセンカの手を俺もしっかりと握る。
まぁ……何はともあれ――よっしゃぁっ。影使い、ゲットだぜ。
内心ガッツポーズをとる俺。
その後、センカが泣き止むまで待ち――
泣き止んだセンカはそういえば、と言わんばかりに首をかしげ、尋ねてきた。
「あ、そういえばご主人様の名前、教えてもらってもいいですか?」
「あぁ、そう言えばまだ自己紹介すらしてなかったな」
冒険者のサポーターどうこうの前にまず自己紹介をするべきだった。失敗失敗。
俺はセンカに向き直り、今更ながら自己紹介をする。
「俺の名前はラース。少し前までは貴族だったけど、今はただのラースだ。気軽にラースって呼んでくれていい」
「ラース……様――」
「いや、そこは普通に呼び捨てでいいんだが……まぁいいか」
こうして俺は影使いの仲間を手に入れたのだった――
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