第28話『テラークさん大活躍』
――冒険者ギルド
ギルドに着くなり俺は職員さんから特別報酬を貰いに受付に向かった。
そうすると、なにやら俺が倒した魔物の計上がまだとの事で、少し待ってほしいとのことだった。
今日中には渡せるとのことだったので、俺はギルドに併設されている食堂で待たせてもらうついでに一息つきに行く。
そうしてまったりしていると――
「おぉ、兄貴。聞いたぜ。なんかギルドから特別な依頼を受けてるらしいじゃないっすか」
俺の対面にどかっと座るテラークさん。
「あれ? なんでテラークさんがそれを知ってるんですか?」
一応、ギルドと交わした契約に関しては今の所誰にも言っていないはずなのだが……
「なんでもなにも、兄貴が狩りをしている間、その区域を守ってた内の一人は俺ですぜ?」
「ほぇ? ――あぁ、あれってギルドの職員さんとかが区画整理してた訳じゃないのか」
憑依召喚が終わった後、疲れていた&ルゼルスとの脳内会話に夢中になっていたという事もあって周りの人の事をきちんと見れてなかったんだよな。
「ギルドの職員の数にも限りがあるからな。ただまぁ、俺のような冒険者が区画整理を任されたのは兄貴のせいでもあると思うぜ?」
「俺の?」
どういう事だろうか?
「兄貴よぉ。魔物を倒した後、何の処理もせず放置してるだろ?」
「その通りだけどそれと何の関係が……ってあぁ――そういえばきちんと埋葬かなんかしないとアンデッド化するんだったか」
そんな事を前にテラークさんが言っていたのを思い出す。
「そうそう。だから最悪、雑でもいいから埋めなきゃなんねぇんだよ。一番いいのは有用な素材だけ取って埋める事だな。魔物の素材は武器や防具だけでなく、生活用品にだって使われている場合があるからな。無駄にするべきじゃねぇよ」
「耳が痛いなーー」
憑依召喚で自分をコントロール出来ていないというのもあって、魔物の後処理なんて全くやっていない。
素材も今回は取らずに放置していた。
「兄貴に付き合えるサポーターでも居ればいいんだけどなぁ」
「ん? サポーター?」
いったい何の話だ?
「あ? あぁ、そうか。兄貴はまだ冒険者デビューしたばっかりだったな。わりぃわりぃ。いやな? 冒険者の中には兄貴みたいに埋葬やら素材の剥ぎ取りやらが苦手だけどそこそこ強い奴も居るんだよ。――でだ。そう言うやつらは大抵、自分の代わりに素材の剥ぎ取りや埋葬だけを行うサポーターを雇うんだ」
「ほぉう」
なるほど、そんなシステムがあるのか。
「だから兄貴もサポーターを雇えばいいんじゃねぇかって思ったんだが……兄貴みてぇに丸一日、魔物と
「ぐうの音も出ねぇっ!」
更に言うのであれば、近くにそんなサポーターさんが控えてくれていても、憑依召喚中の俺はそのサポーターさんに危害を加えてしまう可能性がある。
それを説明したうえで俺に付いてきてくれるサポーターなんて見つかる訳がない。
――ってなると、俺には完全に無縁の話だな。
「まぁ、兄貴が魔物の死骸をそのままにしてくれたおかげで救われた奴らが今回は居たわけだけどな」
「ん?」
救われた奴ら?
一体何の話だ?
俺が疑問に思っているのを察したか、テラークさんが事の
「あぁ。兄貴が魔物を狩った後な。俺たちが行くよりも先に魔物の死体を漁ってる奴らが居たんだよ。普通なら冒険者かって思う所だけどよ。兄貴が魔物を狩り終えるまであの山は封鎖されてた。だってのに兄貴以外の奴が居るなんておかしいだろ?」
「確かにおかしいな。少なくとも俺(ウルウェイ)が暴れてる間、誰の姿も見てないし」
「だろ? だから俺、隠れてそいつらの動向を探ってみたんだよ。そうしてそいつらの後を追ったら山の中にある秘密の隠れ家っぽい場所に辿り着いてよ。そいつらが中に入った後、そーっと中を覗いたら小さいガキが何人も鎖に繋がれてたんだ」
「マジですか」
あの山の中にそんな場所が……。
ウルウェイがそれを見つけてたら確実にキレてたな。
「そこで兄貴の教えを受けた俺はアジトに居た屑どもを叩きのめしてガキ共を開放したってわけさ」
「おー、さすがテラークさん」
俺はパチパチと手を叩いてテラークさんの善行を拍手で讃える。
テラークさんは謙遜して手を振る。
「や、やめてくれよ。兄貴が居なかったら絶対にあんな場所見つけらんなかったぜ。それによ? そいつら『デスロータル』の奴隷部門の連中だったらしくてよ。本当だったらそのアジトには幹部の奴が常駐してるはずだったらしいんだ。『デスロータル』の幹部は最低でもAランク下位の実力を持つ腕利き揃い。Bランクの俺じゃまず勝てねえ。でもよ? その幹部様は居なかった。なぜか……兄貴なら分かるだろ?」
デスロータルの幹部……あぁ。そういう事か。
俺(正確にはルールルだけど)が倒した黒フードの暗殺者さん達か。
「だからあのガキ共を直接助けたのは俺だけどよ。それもこれも兄貴のおかげなんだよ。だから、誇ってもいいと思うぜ?」
「いやいや、俺は何もしてないですよ。色々理由があったにせよ、直接的にその子供たちを助けたのはテラークさんでしょ? なら、その功績はテラークさんだけのものですよ。むしろ、テラークさんこそ誇るべきだ」
「いやいや、兄貴が居たからこそ――」
「いやいや、テラークさんだからこそ――」
そうして俺とテラークさんが功績の押し付け合いをしていると――
「ラースさーん」
俺の特別報酬額が決まったのか、ギルドの職員が俺の名を呼ぶ声が聞こえてきた。
「おっと、やっとか。それじゃあテラークさん。俺はもう行くよ」
「兄貴、今日もお疲れさまでしたぁっ!」
俺はモノホンの舎弟のように綺麗な礼をするテラークさんを尻目に受付に向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます