第27話『召喚の布石?』
「これは……いかんな」
翌日、俺はギルドの要求に従い、指定された場所で憑依召喚をしてひたすら魔物を討伐していた。
そうして24時間が経過して憑依召喚が自動的に解除されたのだが……俺は限界を感じていた。
「24時間もの憑依召喚は精神に異常をきたすな。くそっ、
『ラース。まだ『ウルウェイ』が憑依していた時の影響が残っているわよ。とりあえず少し休みなさいな』
「む? ――――――あぁ、本当だ。言われなきゃ気づかなかったぜ。ありがとな、ルゼルス」
ギルドに最初に指定された場所――それはスタンビーク西端にある山だった。
冒険者にとっては不人気のスポットであり、だからこそ魔物が多く、そしてそのどれもがCランク以下のものだった。だからこそ最初に俺が暴れる場所として適当だと判断されたんだろう。
相手がCランク以下の魔物なら不意を突かれたとしても敗北する危険性が少ないし、俺としてもありがたかったのだが……
「途中で憑依召喚を解除するべきだったのだろうが……ウルウェイが人類を害する魔物を前にして引っ込む訳がないしな。憑依召喚、MPコストも少なくて便利だと思ってたけどそれなりにリスクもでかいってわけか……」
『なんたってラスボスの精神は
「まぁ、確かに『ウルウェイ』は一歩間違えれば主人公やっててもおかしくないラスボスだからな。確かにラスボスの中では一番共感しやすいかもしれない。でも、今まで憑依召喚をしていない間はこんな悪影響なかったんだけどなぁ」
今日のように憑依召喚が終わった後も精神汚染が尾を引いている――なんていうのは初めてだ。
『いかに彼らを愛し、理解しているあなたでも長時間の憑依を短時間で何度も繰り返すのは危険っていう事ね。いえ、彼らを愛し、理解しているからこそかしら? どちらにせよ、このまま憑依召喚を続けていればあなた自身の精神が希薄になってしまうかも』
「うへぇ。そりゃ勘弁。俺はラスボスに憧れてはいるけどラスボスになりたいと思ってる訳じゃないからな。少なくとも女のラスボスと『サーカシー』にだけはなりたくない」
一日くらいなら俺自身がラスボスになるのも悪くないが、それがずっととなるとさすがに抵抗がある。
男の身体で生涯ずっと女のラスボスの振る舞いをするなんて絵面的にも嫌すぎるしな。
それと、ラスボスの一人である『サーカシー』は男ではあるのだが……アレは人間として終わっているので出来ればこの身に憑依させたくない。その力は絶大だが、性格が最悪すぎる。一日ならまぁいいかと耐えられるが、ずっとアレになるというのはさすがに耐えられない。
『それなら今後、憑依召喚をポンポンするのは止めておきなさい。24時間の憑依召喚をした後は少なくとも丸一日は休息を取る事ね。でないと本当にあなたの精神、呑まれて消えちゃうわよ?』
ルゼルスの懸念も理解できる。
確かに、俺は先日ルールルを24時間も憑依召喚し、続けて今日も24時間、ウルウェイを憑依召喚した。
純粋に俺が俺で居る時間よりも憑依召喚している時間の方が長いのだ。
確かにこれでは俺の精神が希薄になってしまうのも無理ないのかもしれない。
だが――
「って言ってもなぁ……。正直、憑依召喚が出来なかったら俺ってただの雑魚だぞ? 召喚士だからなのか、基本のステータスは周りの人と比べて低いし」
毎回、憑依召喚で誤魔化しているだけで俺の素のステータスは弱いままだ。
ラスボス召喚士としての技能を活かさなければ俺は変わらず雑魚のまま。
それはレベルが多少上がっても変わらない。以前と同じく、せいぜいゴブリンを狩れる程度だ。
『馬鹿ね。MPは余っているのだから通常召喚をしなさいな。今回の討伐でMPは三万を超えたでしょう? 通常召喚に必要なMPは1000。今更惜しむ物ではないはずよ』
ああ、それもそうか。
憑依召喚をして魔物を狩り始めてからというもの、俺のMPはかなり溜まった。
確かに、今更1000程度のMPを惜しむことはないかもしれない。
「あぁ、でもそれよりもコストが低い『ランダム通常召喚』があるな。これは……うん。ないな」
『えぇ、それは絶対に止めておきなさい』
一瞬、『ランダム通常召喚』も視野に入れたが、速攻でその考えを破棄する。ルゼルスも同意見のようだ。
俺たちが『ランダム通常召喚』をここまで嫌う理由。
それは――
「このラスボス召喚の詳細……どこにも術者にラスボスが従うなんて書いてねぇじゃねぇか!!」
『まぁ、そもそもきちんと従うなら憑依召喚の時にもう少し楽になったでしょうからね。それにラスボスは本来、誰の指示にも従わず自分の意志で世界を変革する者だもの』
召喚したラスボスさんが暴れだしたら……正直、俺にそれを止める術はない。
召喚出来る時間はたった24時間。だが、ラスボスにとって24時間はあまりにも長すぎる。
それだけあれば殆どのラスボスは国を滅ぼせるだろうし、最悪、世界すらも滅ぼせてしまうからな。
「そんなラスボスさんをランダムで呼び出すわけにはいかないからなぁ。というか、正直『通常召喚』もかなりリスクがあるし。どうしたもんかなぁ」
『あら? 通常召喚に関してはリスクを下げる方法があるわよ? それに、あなたと『ウルウェイ』の親和性が高いのならばそれはそれで好都合。そろそろ次のステップに進むとしましょう』
「次のステップ?」
次のステップとは一体?
『ええ。ラース――あなた、『ウルウェイ』と信頼関係を築きなさい。そうして最終的には全てのラスボスと信頼関係を築くの』
……はい?
「と言うと?」
『ラスボスである私がこうしてあなたと平和的に対話することが出来ているのは何故だと思う?』
んー?
ルゼルスが俺とこうして話せてる理由?
そう言えば、なんでルゼルスってこんなに俺に対して好意的なんだっけ?
確か、俺は
そうして呼び出されたルゼルスは俺を見ている内に親近感を覚えるようになって――
「ってあぁ、なるほど。同じことをやればいいのか」
『そういう事』
そうか。
まずは限定召喚で特定のラスボスと仲良くなっておいて、それから合意の上で通常召喚をすればリスクを最小限に抑えられるっていう訳か。
『まぁ、そのラスボスと話したうえで相手の合意を得る……というのが至難の業ではあるけどね。話の通じないラスボスも居るし。それと、相手は慎重に選ばなければならないわ。策略を巡らせるラスボスを呼び出すときは特に注意しなさい。騙されかねないわ』
「分かってる」
限定召喚を使ってラスボスと会話する。
そうして俺は召喚対象のラスボスと信頼関係を結ぶ。
ここまではいい。
だけど、俺が信頼関係を結べたと確信したラスボスを召喚した時――相手が素直に俺に従ってくれるかは未知数だ。
なぜなら、相手が俺を謀っている可能性があるからだ。
信頼関係を結べたと俺が確信したとしても、相手もそう思っているかなんて俺には分からない。
ゲームのように好感度なんてシステムもあるわけもなし。召喚者の俺にはラスボスの心の内が分かる――なんていう設定もない。
だから、いざ通常召喚をしたらあっさり裏切られてしまった……なんて展開は十分にあり得る。
しかも、ルゼルスが言うには俺が召喚したラスボスは俺の心をある程度読み取れてしまうらしい。心理戦的には俺が圧倒的に不利ってやつだ。
裏表のない、真の信頼関係をラスボスと構築しないといけないという訳か。
「――となると最初に関係を構築すべきは裏表のないラスボスって事か。ああ、そう言う意味でもウルウェイはうってつけっていう訳か」
『そういうこと。あなたとの親和性が高いなら比較的スムーズに信頼関係は結べるでしょう。あぁ、そうだ。ルールルでもいいわよ? 彼女は既にあなたにぞっこんだものね』
「いや――ルールルはダメだろ……」
ルールルは確かに俺に好意を持ってくれている。
俺のいう事を聞いてくれそうという意味では確かに最適なラスボスではあるけど……
「能力が特殊すぎる。ルールルの空間は中に居る者全てを平等に扱うからな」
『まぁ、そうね。でも、彼女はいつか永続召喚をして欲しいと願ってたわよ? 試しに召喚してみてもよいのではない?』
うーん。まぁ、召喚者の俺が近くに居なければ問題ない……のか?
だけど、ルールルに全てを押し付けて俺だけ安全圏で眺めてるだけというのは……さすがに男としてどうかとも思う。というか、そんなの俺が嫌だ。
『まぁ、ゆっくり考えなさいな』
「そうするか――」
俺は最初にどのラスボスと信頼関係を結ぶべきか考えながら、ギルドへと帰還した。
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