第17話『ルルルール・ルールル』


 ――スタンビーク北西の森


 クエストを受けた俺は魔物が出没しやすく、かつ他の冒険者が寄り付かない夜を選んで森へと足を伸ばしていた。


 魔物の中には夜目が効く者もいる。


 それでいて数も多くなるとなれば冒険者にとっての危険は増す。夜に誰も寄り付かないのは当然だった。


 そんな時間を選んでわざわざ森に出向いたのには当然理由がある。



『当然よね。ランダム憑依召喚で危ない奴を引いたら辺り一面血の池だもの』


 こういう融通の利かない所もさすがラスボスって感じだけどな。



 そう。

 魔物を狩るだけならば遠慮は要らない。普通にランダム憑依召喚をすればいいだけだ。

 なにせ、俺の知っているラスボスは全員規格外に強い。憑依召喚で例えその力が十分の一に抑えられていようが他の追随を許さない程だ。


 それに、『ウルウェイ・オルゼレヴ』を呼んだ時にハッキリした。

 この憑依召喚、確かに能力値は十分の一になるが、そのラスボスが持っていた能力はそのまま問題なく使えるみたいなのだ。


 そして、このスタンビーク北西の森には基本的にBランク以下の魔物しか現れないらしい。

 Bランクの魔物。それはすなわちCランク冒険者がなんとか相手にできるレベルの魔物だ。


 俺が憑依召喚で召喚したあの『ウルウェイ・オルゼレヴ』はBランク冒険者のテラークさんを圧倒した。


 別に『ウルウェイ』を貶めるつもりはないが、彼はラスボスの中で突出して強いという訳ではない。


 だからこそ、彼以外のラスボスを憑依召喚で召喚した場合も、その実力はBランク冒険者以上と見ることができる。


 それくらいの実力がある彼らならばBランク以下の魔物なんかに負ける事はないだろう。




 しかし――




「ラスボスってのは基本的に見境がないからな。斬人の時みたいに目についた人間を斬りまくってたら俺の居場所がなくなるし……。俺がラスボスの精神を抑えつつ、その力だけ扱えたらいいんだが……」


『仕方ないわよ。私たちラスボスの自我は強烈だもの。むしろ、そんなものと意識を共有してこうして戻ってこれてる事を誇るべきよ』


「それもそうか」



 憑依召喚中に自分を抑えられない以上、無用な争いを招かないように人が居ない場所で隠れるようにして魔物を狩るしかない。

 だからこそこうして人目を忍んで夜に来た――というわけだ。



「さて、そうと決まればやるか」


『良いのを引けるように祈っているわ』


「サンキュー」


 そう言って俺は――召喚を開始する。


「ランダム憑依召喚!」


 俺がそう叫んだ瞬間――視界に例のシステムメッセージが浮かぶ。



『イメージクリア。召喚対象は十体――ランダムに選定します。

 ランダム憑依召喚を実行――――――成功。

 MPを10消費し、24時間の間、ルールの創造者、ルルルール・ルールルを肉体を依り代に召喚します』


『あら』

「げぇっ!?」


 よりにもよって『ルルルール・ルールル』!?

 取り消そうにもそうはいかない。




 そうして――この身にかのラスボスが召喚される。





















「ル?」


 ワタシは――――――これまでの事を狂った頭で整理する。

 そっか。


 ああ、そっか。そうなんだぁ。


『大丈夫? ラース……かしら? それとも――』


 脳裏に響くルゼルスちゃんの声。

 ワタシ――ルールルは満面の笑みを浮かべ――



「大丈夫だよぉ。ラー君はきちんと眠ってるからさぁ」


『あなた……』



 ルールルは誰も居ない闇の中、脳裏に響くルゼルスちゃんに自己紹介の挨拶をする。



「初めまして。ルールルはゲーム『ルミナス・サージェント』に登場するラスボス――もとい可憐な女の子、ルルルール・ルールル。同じラスボス同士仲良くしてね? ルゼルスちゃん。アハ、アハハ、アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ」



 生まれ変わったルールルという狂気は、新たな救いを得てこの世に現出したのだった――




★ ★ ★





 救いなんてルールルにはなかった。

 だけど、ラー君の知識を得て、ようやくルールルは悟ったのです。


 そう――ルールルが救われるのに必要な物。

 それは――――――愛だったんだ!!



『これはまたとんでもないラスボスを引き当てたわね。ラース、きちんと戻ってこれるのかしら?』


「心配要らないよぉ。ラー君はこんなルールルを好きになってくれる変態さんだよ? ルールルは尽くす女。ラー君の為に粉骨砕身いっぱいいっぱい頑張るよー」


『何がどうなってそんな考えに至ったのか……理解に苦しむわね』


「あ、ラー君の正妻はルゼルスちゃんでいいよぉ。ルールルは側室で十分。ただ、愛さえ貰えればそれで十分なのです♪」


 森を歩きながらルゼルスちゃんとの楽しい楽しいガールズトーク。

 あ、そうだ。一応確認しておかないと――


「ステータスオープン♪」


 そうするとルールルの手元に今のステータスが表示されました。




★ ★ ★


 ラース(ルルルール・ルールル憑依中) 13歳 男 レベル:12


 職業クラス:ラスボス召喚士


 種族:人間種


 HP:68/68


 MP:88/上限なし


 筋力:36


 耐性:33


 敏捷:41


 魔力:30


 魔耐:27


 技能:ラスボス召喚[詳細は別途記載]・MP上限撤廃・MP自然回復不可・MP吸収・不明・不明・不明


★ ★ ★



「うわーお。悲惨だなーこれ。か弱い女の子のルールルが更にか弱くなっちゃったぁ。うるうる」


『本当。酷いものね。これ、技能がきちんと働かなかったらあっという間にお陀仏よ?』


「そうだねー。それじゃあ少し試してみようか――ルール――この空間に居る者の傷は共有される」


 ルールルはこの場におけるルールを作成する。


 これがルールルの能力の一つ。

 半径五メートルくらいの範囲に新たなルールを作成できるのです。

 それがどういう事かは――まぁ、実物をご覧あれ♪




「――――――うん。力を使えてる感覚はあるから大丈夫みたい。後は実戦あるのみだよー」


『大丈夫? 万が一の事もあるし大人しく帰った方が――』



「えーヤダヤダヤダー。ルールルが役に立つ女だって事、ラー君に知って欲しいもん。そのためにルールルは全力でMPを集めるよー! それで、ルゼルスちゃんの次に永続召喚をしてもらってラー君とイイコトをするのです。くふ♪」


『はぁ、何を言っても無駄ね。もう好きにしなさいな』 


「はーい、好きにしまーす」



 そうしてルールルは自身の力を試すべく、森を散策するべく動き出します。

 

 そんな時――



「ラース・トロイメアだな?」


「ル?」



 気づけば黒いフードを被った十数人のオスたちがルールルを取り囲んでいました。

 みなさん、物騒な獲物を持っています。

 ナイフだったり槍だったり剣だったりとみんな獲物はバラバラ。



 その矛先は――なんと、か弱いルールルに向けられています。



 だからルールルは――そんなどうでもいい事はさておき黒フードさんの質問に答えます。尋ねられたら応えないと失礼だもんね。


「ルールルはルールルですよ? あ、間違えた。はーい、ルールルは……じゃなくて俺はラースでーす♪」


『なんてわざとらしい』


 脳裏に響くルゼルスちゃんの非難の声。

 むぅ。仕方ないじゃないですか。自分でもややこしいなぁって思ってるんですよぅ。


「聞いていた情報とは違うが……まぁいい。これも仕事なんでな。死ね――」


「ル?」



 次の瞬間――ルールルの首と胴体はサヨナラサヨナラしてました。


 どうやら黒フードさんはラー君の命を狙う殺し屋さんだったみたいです。


 そっかぁ――


「アハッ――」



 そうしてルールルは……か弱い女の子らしく抵抗も出来ずに死んでしまったのです。くすんくすん。












 そうしてその場に――――――十数人の首が落とされた。


 立つ者は誰も居ない。


 当然だ。


 なぜならばそこに加害者などなく、全員が平等に首と胴体を切り離されていたのだから。


 残るのは死体のみ。




『これが『ルルルール・ルールル』の能力の一つ。ルール作成。それが平等とみなされる掟なら問答無用で世界の摂理として認められる。さっきルールルは『この空間に居る者の傷は共有される』という掟を作成していた。その掟が適用され、ルールルが負った傷を全員が共有した……という事ね。知識としては知っていたけど、こうしてみると悍ましい力ね。そして――』



 そんなルゼルスちゃんの声を聞きながら、ルールルの意識は闇に沈んでいきました――


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