第16話『クエスト受注』


 ――スタンビークにある冒険者ギルド



「やってしまった――」



 どうも。

 無事にFランク冒険者の資格を手に入れることが出来たラースです。


 今、俺は激しく後悔している。

 何を後悔しているのかと言うと――



「あ、兄貴じゃないですかぁっ! 今日はどんな用事で?」


 似つかわしくないにも程がある腰の低い態度で俺に接してくるモヒカン男――テラークさん。


 これだ。

 

 昨日、俺は憑依召喚で『ウルウェイ・オルゼレヴ』を呼び出して彼と戦ったのだが……案の定と言うべきか『ウルウェイ・オルゼレヴ』はやりすぎた。


 人格改変でもするのかというレベルでテラークさんを虐めぬいたのだ。

 その最中、やれ『不屈の精神』だの『策略を巡らせる勇者の心得』だのをテラークに延々と語っていた。おぼろげだがその記憶はきっかり俺にも残っている。


 そんなハートマン軍曹式訓練の親戚のような事を続けた結果――テラークさんの俺に対する態度は変わってしまった。

 まるで俺の舎弟であるかのように接してくるのだ。


 正直、勘弁してほしい――


「さっそく魔物の討伐依頼でも受けようかと思いまして」


 ギルドに来た目的をテラークさんに語る。

 すると彼は目を輝かせ――


「さっすが兄貴。人類の脅威である魔物を少しでも駆逐しようとその身を粉にしていらっしゃるんですね? 俺も兄貴から教えてもらった『不屈の精神』で限界ギリギリまで魔物どもを駆逐すっかなぁ」


「命は大事にしてくださいね? いや、マジで」



 昨日『ウルウェイ・オルゼレヴ』が語った『不屈の精神』。その全てを鵜呑うのみにして生きていたら命がいくつあっても足りない。


 あの心得は『ウルウェイ・オルゼレヴ』だからこそ実践出来ることだ。


 かのキャラは自身を卑下しているからか、同じ心得を尊敬する他者にまで押し付ける。ある意味迷惑極まりない人物なのだ。


 いやまぁ――ラスボスって極論みんな迷惑極まりない人たちばかりなんだけどね?


『失礼ね。そんな事はないでしょう?』


 いや、ルゼルスも結構周りに迷惑かけてたからね?

 第一、世界を滅亡の危機にまで追い込んだ魔女様が何を言ってるんですか。


『………………若気の至りってやつよ』


 若気の至りって……千年の時を生きた魔女様が何を言ってるんですか……。


『うるさいわね。そもそもラース? レディーに年齢の話をするのはタブーよ? そんなんじゃまだまだ『坊や』と言わざるを得ないわね』


 はいはい――




 なんてやり取りをルゼルスと交わし、テラークさんには無理をしないようにと言い含めた俺はギルドの掲示板に張ってあるEクラスクエストを眺める。



「さて、まぁどれにすべきかだけど――」


『一気に受けられるクエストが三つまでというのが面倒ね』


「それな」


 まぁ、魔物は俺のMPの為にも片っ端から狩る予定だからどの討伐依頼でも問題ないっちゃ問題ないのだが――


『それなら報酬が高い物から三つ選べばいいんじゃない?』


「それもそうだな」


 ルゼルスとの相談の結果、俺は掲示板に張られたEクラスクエストの中で最も報酬額が高い物を三つ選び、ギルドの受付にクエストを受注しに行く。


 ただ、この時の受付はレイナさんではなく、ひげもじゃのおっさんで――


「あ? 坊主、見かけねえ顔だな。駆け出しか?」


 なんていう、いかにも非難するような目で見られた。


 なんというか……最近はこればっかりだなー。


「えぇっと、はい。駆け出しですね」


 昨日冒険者になったばかりだし駆け出しなのは間違いないだろう。


「なら最初は無難にFクラスクエストを受けるんだな。報酬額が多いのを何も考えずに選んだんだろうが正直困るんだよ……。おたくら冒険者は失敗してもキャンセル料払えばはい終わりって思ってるんだろうがこっちは依頼者への謝罪対応やら面倒が沢山――」


 そうしておっさんが愚痴っていると――


「アンタはアホかーーーーーーーーーー!!」

「ふべっ!?」


 横から颯爽と現れたレイナさんがおっさんの頭を全力でしばいた。


「な、なんだよレイナ。俺は身の程知らずの冒険者に適切なアドバイスを――」

「なーにが適切なアドバイスだい。アンタ、『地獄の鬼教官』の話を聞かなかったのかい?」


 ……『地獄の鬼教官』?

 どうしてだろう。聞き覚えのないそれがどうしても俺に無関係なものとは思えない。


「あぁ? あー、そういや誰かが言ってたなぁ。あのテラークに圧勝して、『特訓』という名の洗脳を施した若造が居るって――」



 せ、洗脳……。


『まぁ、間違ってはないわね』



 脳裏に響くルゼルスの声。

 えぇっと……これ、やっぱり俺の事かな?


『他に誰が居るのよ?』


 デスヨネー。


 そんなルゼルスとの脳内会話の結果が出るのとほぼ同時に、レイナさんは俺を指さして告げた。


「それがこの少年さね」


「へー……へっ!?」

 


 おっさんが目を見開いて俺を見る。

 おやおや? どうしてだろう? その眼差しがどうしても人外を見るような視線にしか見えない。



「あの話って出鱈目でたらめじゃなかったのか!? っていうかお前……いや、あなた様は駆け出し冒険者とかさっき仰っておられませんでしたでしょうかね?」

 

 おい、おっさん。言葉遣いが滅茶苦茶で大変な事になってるぞ。


「昨日冒険者登録したばかりだから間違いなく駆け出し冒険者だけど?」


 俺がそう宣言するとレイナさんとおっさんはこちらに背を向けてこそこそと話しだした。



「おかしいだろこいつ。なんで実戦経験もなさそうなガキがそんなに強いんだよ!?」

「私が知る訳ないだろ!?」

「っていうかなんでこいつFランクなの? さっさとAランクに引き上げればいいんじゃね?」

「昨日、私もそう進言したけど上が頑なに拒んでるんだよ。そもそも、この少年がテラークを倒したっていう話も信じてなかったしね。どっちにしろ、ギルドの決まりでFランクスタートは曲げられないとさ」

「時間の無駄だろ!?」

「私に言うなよ。私だってクソ面倒だと思ってるさ!!」 





 思いっきり聞こえてるんだよなー。

 二人はそんなやり取りの後、俺に向き直り満面の笑みを浮かべ――



「「はい、クエスト確かに受け付けましたー。頑張ってきてくださいね?」」


 そう俺に告げるのだった――



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