第13話『不屈の魔人』
――ギルド地下の訓練場
そこは、訓練場というよりはコロッセオだった。
円形の闘技場。
それを見下ろす形で設置されている観客席。
まさにコロッセオという感じだ。
今、そのコロッセオの観客席にはさっき俺が馬鹿にした冒険者達の姿がある。
俺の敗北する姿を今か今かと待ち望んでいるのだろう。
それだけ聞くと彼らが意地が悪い奴らに見えてしまうが――
うん、彼らは微塵も悪くない。
正直、悪いのは この状況を半ば意図して作った俺だ。その自覚はある。
『まぁ、仕方のない事よ。あなたの力はステータスに反映されないのだから……。そういえば、憑依召喚をしている時のステータスはどうなっているのかしら? 少し気になるわね』
「今更それを言う!?」
思わず俺にだけ響くルゼルスの声に対して反応してしまう。
そうか。
憑依召喚をした状態でステータスを表示した場合、どうなるのかはまだ分かっていない。
憑依召喚中にステータスを表示した時、もし仮に憑依召喚で強化されたステータスが表示されるのだとしたら……それをレイナさんに見せれば良かったじゃんっ!
こんな茶番を仕組む前にそれを試せばよかった……
『まぁ、それも憑依召喚中にあなたの意識がきちんと残っていればの話だけれどね。斬人の時は戻れたとは言ってもギリギリだったでしょう? どちらにせよ賭けにしかならないわよ』
あぁ、それもそうか。
俺は自身に響くルゼルスの言葉に納得の意を示す。
憑依召喚中にステータスを確認しようなんて思えるか……確かに自信はない。
ラスボスのみんなは誰も彼も
「さっきからぶつぶつぶつぶつと……怖気づいたんなら逃げたっていいんだぜぇ? 土下座の一つくらいはしてもらうがなぁ」
勝ち誇った笑みでこちらを見下すテラークさん。
彼は武器も持たず、道着のようなものを着て俺と相対している。
どうやら彼は武術家のようだ。この世界でいうならモンクか。
「いや、逃げませんよ。ギルドに加入できなきゃ色々と困るんで」
主に金銭面で困る。こちらの持ち合わせもそろそろヤバイのだ。
「……おめぇ、なんかさっきと雰囲気かわってねぇか?」
「いやまぁ、こっちにも色々ありまして」
ゆえに、その点ではもう俺の目的は果たされている。わざわざあんなクソ失礼な態度を続ける理由はない。
というか、アレ(傲岸不遜スタイル)をやっている間は少し気持ちよかったが、思い返すと少し恥ずかしいのでもうやりたくない。
「それじゃあ――始め!!」
審判を買って出てくれたレイナさんの始めの合図。
そうして俺は――動いた。
「憑依召喚。対象は――ウルウェイ・オルゼレヴ」
『イメージクリア。召喚対象――ウルウェイ・オルゼレヴ。
憑依召喚を実行――――――成功。
MPを100消費し、24時間の間、不屈の魔人、ウルウェイ・オルゼレヴを肉体を依り代に召喚します』
そうして――――――
「さぁ、貴様の強さ、示してみるがいい――」
★ ★ ★
不屈の魔人、ウルウェイ・オルゼレヴ。
彼はゲーム『シルバー・ファンタズム』に登場する統治者だ。
人間たちを襲う魔族という存在を滅ぼしつくした英雄。それが彼だ。
これだけ聞くと、彼はただの主人公だ。ラスボスとして君臨する彼には当然続きがある。
彼は2度と人類が傷つかないよう、徹底的に人類すべてに強さを求めたのだ。
全ての民に幼少期からの訓練を強制した。
その訓練の最中、民が死のうが訓練を強制するというイカれた政策。
彼はこう語る。
『己が死んだ後も人類が滅びぬよう、強くするのだ。何者にも負けないように強く、この尊い種を守る事こそが己の使命』
人類という種を守るため、徹底的に強さを求めた魔人。
どんな困難が立ちはだかろうと、その不屈の精神でイカれた政策を押し通した狂人。
それこそが――ウルウェイ・オルゼレヴという人間なのだ。
「ふむ、なるほどな」
幾度かの憑依召喚で慣れたか。
今は己の……ラースとしての心をある程度は保てているようだ。
まぁ、この『ウルウェイ・オルゼレヴ』は理性の魔人とも呼ばれているからな。憑依召喚とは相性が良いのかもしれん。
『いや、ラース。言いにくいけれどあなた、思いっきりウルウェイに影響されちゃってるわよ? まぁ、斬人の時みたいに塗りつぶされてないだけマシかもしれないけど……』
脳裏に響くルゼルスの声。
ふむ……おかしな事を言う女だ。
己はキチンと自身を保てているであろうが。
『いや……はぁ。もういいわ。好きになさいな』
呆れているのを隠そうともせず、溜息をつく魔女、ルゼルス。
正直、色々と物申したいところではあるが――
「今は目の前の
武具を用いず、己の肉体のみを武器として扱うモンク。
一体どんな戦い方を魅せてくれるのか……楽しみだ。
「おい」
そうして相手が動くのを己が待っていると、相対しているテラークが声をかけてくる。
「む? なんだ?」
「お前、召喚士だろ? 召喚はしねぇのか? それと武器は?」
「ああ、そういう事か」
試合が始まったにも関わらず、テラークは一向に仕掛けてこないので何を企んでいるのかと
――なんと素晴らしい人格者であろうか。
己はそんなテラークに敬意を表し、ありのままを話すことにした。
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