第12話『召喚士は喧嘩を売る』


「――とまぁ、ギルドの説明はこんなもんさね」

 

 レイナさんからギルドについての説明を受けた。


 魔物を討伐した場合は、その証明の為に素材を入手する事。

 ランクは一つ上、または一つ下のものしか受けられない事。

 そして、冒険者ギルドに加入するためには冒険者学校を卒業、またはギルドで行われる試験をクリアしなければならない事。


 俺に必要そうな情報はこれくらいか。


「さて、その年齢で冒険者になろうってんだ。何かしら自信があるから来たんだろう?」

「ああ」


 こちらの目を見て真偽を図るレイナさん。


 やがて、ニカッと笑い


「そうかいそうかい。それじゃあさっそくあんたのステータスを見せてもらおうかね。今後の指標にするから」

「え?」


 ステータスを表示するように催促してくるレイナさん。


 ステータス……かぁ。

 それを指標にされるのは……少し困るな。


 見せるのは問題ないが、見せたら見せたで門前払いされそうだ。

 正直、それは避けたい。


 俺の目的はルゼルスを永続召喚させることだ。

 その為には多くの魔物を屠る必要がある。


 ギルドならば、仕事で魔物を狩ってお金を貰える。

 正直、俺からすれば願ったりかなったりのシステムなのだ。

 だから、ぜひ加入したいと思う。


 思うのだが……でもなぁ……



「あーもう、まどろっこしいねぇアンタ。仕方ない……鑑定――ステータス閲覧」

「あ」

『あら』


 鑑定。

 それは一部の人が使える技能だ。

 相手のステータスや武器のステータスを許可なく見ることができる技能。


 そうしてレイナさんの目の前には半透明の板が現れ――







★ ★ ★


 ラース 13歳 男 レベル:12


 職業クラス:ラスボス召喚士


 種族:人間種


 HP:68/68


 MP:208/上限なし


 筋力:36


 耐性:43


 敏捷:41


 魔力:175


 魔耐:162


 技能:ラスボス召喚[詳細は別途記載]・MP上限撤廃・MP自然回復不可・MP吸収


★ ★ ★


 映し出される俺のステータス。


 それを見たレイナさんは――



「………………………………」


 完全に固まっていた。


『これはまずいわよ、ラース』


 ええ、これはまずいですねルゼルスさん。


 これは完全に門前払いされるコースだ。


 せめて試験さえ受けさせてもらえれば憑依召喚でなんとかできるのだが……


「あひゃひゃひゃひゃひゃっ。なんだなんだよこのステータスはぁっ。雑魚じゃねぇかっ」


 一体どこに隠れていたのか、またもやテラークさんが絡んでくる。


「テ、テラーク、ちょいと声を抑えて」


 そう言ってテラークさんを注意するレイナさん。しかし、決して否定はしていない。

 頭を悩ませているが、大方おおかた俺にどうやって諦めさせようかと考えているんだろう。


 このままでは非常にまずい。





 ――仕方ない。あの手で行くか。



 俺はその場で腕を組み、いかにも偉そうな態度をとりながら


「ハッ――。俺の真価はステータスには現れぬのだよ。正直、俺の力をもってすればこのギルドに居る連中など赤子同然だ」


 ――と大声で言い放ち、ギルドの冒険者達を敵に回した。


『くすくす、さすがラースね。そうでなくちゃ』



 今までで一番楽しそうなルゼルス。さすがラスボス。やっぱりこういう展開好きなんですね。

 そんな俺の挑発を受けて冒険者達は――


「「「あ゛あ゛!?」」」


 と、敵意をこっちに向けてくれた。

 くく、釣れた釣れた。爆釣ばくちょうだ。


「ちょっ、少年、アンタいくらなんでもそれは――」


 レイナさんが俺を諭そうとするがもう遅い。

 既に舞台の幕は上がってしまった。


 何より、怒る冒険者達を止めようとしているのはレイナさん一人。これだけでは不足だ。

 よって、この波は止められない。


「てめぇ……キレちまったぜ完全によぉ……。おいみんなぁっ! ここは俺にやらせちゃくれねぇか!? 俺がこの生意気なガキをぼっこぼこのぼこにしてやるからよぉっ」


 指をポキポキ鳴らしながら威圧してくるテラークさん。

 やはりと言うべきか――この空気だとやっぱりあなたが相手になるよねぇ。


 正直、彼に対して俺は好印象を抱いているから戦いたくないのだが……


「おー、やれやれ」

「そんなガキぶっ殺しちまえ」

「世間の厳しさを教えてやんなっ!」


 やはりというべきか、この流れは変えられそうにない。いや、この流れを作ったのは俺なんだけどね。

 ただ、他の冒険者が手を上げてくれないかなぁとか期待していた訳で――


『まぁ、いいじゃない。幸い、まだMPはあるのだからランダムではない憑依召喚をしなさい。なるべく理性的で、彼を殺さないと思うラスボス。居るでしょう?』


 まぁ、確かに心当たりはあるけどさぁ……


 まぁ……ウルウェイとリリィくらいか。


 それでも気は進まない。

 なぜなら、確実じゃないからだ。


 今、ルゼルスが言ったように、確かに彼らならテラークのような人を殺さないと『思う』


 そう――『思う』なのだ。


 ラスボスは、常人に理解できず、人を殺しているからこそラスボスなのだ。

 だから、確定ではない。


 いや、待てよ?


 ルゼルスならば――


『あぁ、私を憑依召喚で呼ぶことは出来ないわよ? 今は限定召喚されているのだから。それに、子供のように思っているあなたの体に憑依するなんて、私は嫌だわ』


「マジかー」


 思わず天を仰いで嘆く俺。一番理性的なラスボスが使えないのは正直痛い。



「さっきから何をぶつぶつ言ってんだぁ!? まさか今更怖気づいたんじゃねぇだろうなぁ?」


 こちらを激しい形相で睨むテラークさん。

 はぁ……まぁ、仕方ないか。

 俺は傲岸不遜ごうがんふそんスタイルを装い――


「少し待て――おい、ギルドの者。この者を倒せば試験には合格という扱いにしてもらえないか?」

「へ? まぁテラークはBクラスの冒険者だしこいつを倒せるんなら問題ないけど――」


 やった――言質を得た。後はこのテラークさんをなるべく優しく倒すだけだ。


 しかしテラークさん……あなたBランクだったのか。

 A~Fランクまである冒険者のランク。

 その上位に位置するBランク……思っていたよりかなり手ごわい相手かもしれない。

 

「決まりだな。おいテラーク。どこでやる?」


「ちっ、いきなり呼び捨てかよ。調子に乗ってんなてめぇ」


 ごめんなさい。今は傲岸不遜ごうがんふそんスタイルなんで自然とこうなっちゃうんです。


「着いてきな。ギルドの地下に訓練場がある。あそこならいくら暴れても問題ないだろうよ。いいだろ、レイナちゃん?」


「はぁ。もう好きにしなよ。少年、恨むなら大言を吐いた自分を恨みなよ? それとテラークっ。あんた、やりすぎるんじゃないよ?」


「おう、可愛く撫でてやるぜ」


 そうして俺はテラークさんの案内の下、ギルドの地下にある訓練場に向かった――


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