第11話『冒険者ギルド』


 ――冒険者ギルド


 冒険者はここで様々な魔物の討伐依頼。もしくは素材の採取依頼などが受けられる。


 そうして受けた仕事をこなし、ギルドを通じて依頼人から金銭を得るのだ。


 もっとも、受けられる依頼クエストはその難度によってA~Fランクまでクラス分けされており、自身のランクより一つ上、もしくは一つ下のものまでしか受けられないのだが……


「まさにいかにもって場所だなぁ」

『本当ね……』


 ギルドにはまさに『冒険者』といった感じの武装した人たちがごった返していた。

 中には露出の激しすぎる女性なども居たが、程よく締まった筋肉をしている。


 正面の受付口らしき所では幾人かの職員が冒険者の対応をしていた。



「ええっと……新規受付とかってどうやるんだろう? 並べばいいのかな?」

『まぁ、分からないのなら聞いてみましょう』


 正直、ギルドで冒険者登録をする方法など今まで習わなかったので勝手が分からない。とりあえず近くの列に並んだ。


 すると――



「おいおい、なんだこのガキ? 場違いにも程があんだろ」


「うおわっ!?」


 横からいきなり肩を押され、列から追い出されてしまう。


 相手をみれば、えらくガタイの良い男だった。

 褐色の肌を持つ人間種らしき男。冒険者らしく鍛え抜かれた感じの男だ。


 特に目を引くのがその髪型だ。


 世紀末伝説にでも出てきそうなモヒカン頭。

 正直、そこがかなり気になってしまってまともに目を合わせられない。


「ひょろひょろしてんなぁガキ。こんな所に何をしにきたんだ? あぁ?」


 なぜか凄んでくるモヒカン男。

 まぁ、何をしに来たのかと問われれば――


「冒険者登録をしに。ちょっと魔物を沢山狩らなきゃならないので」


 と、素直に答えた。


『あのねぇ……』


 なぜかルゼルスの呆れたような声が脳裏に響く。


 今までざわめきが絶えなかったギルドがシーンと静かになる。


 そして――


「あっはっはっはっはっは。お前みてぇなガキが冒険者ぁ? 笑わせんなよガキが。冒険者学校はきちんと卒業したんでちゅかぁ?」

「「「ぷくくくくくくくくくく」」」


 モヒカン男に便乗して笑うギルドの面々。

 見た感じ、大人しめな女性まで俺を見て笑っている。

 そこまでおかしい事なのか?


『そりゃそうでしょうよ。あなた、ここに居る誰よりも外見上は弱そうだもの』


 うるさい、余計なお世話だ。



「もしかして冒険者学校を卒業しなきゃ登録できなかったりするのか?」



 疑問に思った俺はモヒカン男に尋ねた。

 ちなみに敬語はもうやめだ。こんな失礼な奴に敬語で接する必要はない。


 だが、モヒカン男はそんな事を気にすることもなく――


「いやいやいや、そんな事はねえよ。ちょいと試験があるだけで、それさえクリア出来ればFクラスからスタートだ。なんなら俺が相手してやっても――」


 そう男が言いかけた時だった。



「ちょいとお待ちっ! 一体何を揉めてやがんでい」

『あら?』


 ギルドのカウンター側から響く女性の凛とした声。


 金色の鮮やかな髪。

 見た目は十八歳前後。

 整った容姿をする活発そうな女性だ。


 ただ、その女性の頭には人間種にはないはずの――狐耳。

 間違いない。亜人種だ。


 その亜人種の女性は頭の上にある狐耳をぴょこぴょこ動かしながら


「テラークっ! まーた新人見つけて絡んでるのかい!? そんなに暇なら魔物の一匹でも狩ってきな」


 と、褐色肌の男性――テラークを叱責した。


「いやいや、絡んでるとは人聞きわりぃなぁレイナちゃん。俺はこのガキにちょいと世間の厳しさってやつを教えようとしてただけさ」

「それを『絡んでる』って言うんだよ! おい、そこの少年」


「……俺?」


「そうだよ、アンタ意外誰が居るのさ。冒険者登録だっけ? このレイナ姉さんが話を聞こうじゃないか」 


「は、はぁ」


 なんというか……見た目通り活発な女性ひとだなぁ。


『良かったじゃない。綺麗なお姉さんに手取り足取り教えてもらえるなんてラッキーね?』


 からかわないでくれよルゼルス……


 嫉妬……というよりはからかうような口調のルゼルス。

 やはり、彼女にとって俺はまだまだ嫉妬させられるような存在じゃないらしい。


「またか。レイナちゃんのおせっかい焼き」

「新人が来るたびにあんなんだからねぇ」

「そりゃテラークも新人に対して警戒するようになるよなぁ。見ろよあれ。新人冒険者に愛しのレイナちゃんを取られまいと必死だぜ」



 こちらを遠巻きに見る冒険者たち。

 ……なるほど。このレイナさんとやらはいつもこんな調子らしい。


 そして先ほど俺に絡んできたテラークとやらはレイナさんに恋をしているらしい。

 だから新しい虫がよりつかないように新人冒険者に圧をかけにいってるという事か。


「そう考えると……なんだか可愛く見えるなぁ」

『同感ね』


 ぼそっとモヒカン男、テラークさんを見てつぶやく俺。

 ただ、そのテラークさんは耳が大変良いらしく、


「あ゛あ゛!? てめぇ、本当にレイナちゃんを狙ってんのか!? 死ぬ覚悟は出来てんだろうなぁ」


 などと勘違いされてしまった。


 しまった。口に出したのが間違いだった。

 ただ、ここで『可愛いのはお前ですよ』などと言えばホモ疑惑がギルドに広まってしまうかもしれない。


 それは――死に勝る屈辱っ!!


 だから俺は――


「の、ノーコメントで」


 と、回答を拒否した。

 当然、テラークさんの望んだ答えではないようで――


「てめぇ……」


 こめかみに怒りマークを浮かべるテラークさん。

 確実に勘違いされているが……まぁ自然にしていればいつか誤解も解けるだろう。放置しておくか。


「こらテラークっ! あんたもしつっこいねぇ。いいからあっち行った。しっしっ。ほら少年、さっさと行くよ。このレイナさんが一から十まで教えてやんよ」


「レ、レイナちゃん……」


 虫扱いまでされて本気で落ち込んでいる様子のテラークさん。

 あそこまでいくと……少し同情してしまうなぁ。


『くすくすくす』


 ルゼルスさんはと言えば、おかしくてたまらないといった様子でずっとくすくす笑っていた――

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