第10話『限定召喚』


 俺とルゼルスはアスレイク領を出て、ずっと北西にあるアレシア領のスタンビークという街へやってきていた。

 

 ――スタンビーク


 ここは、亜人の国に接している街だ。


 この世界には三種類の人種が居る。


 一つ、俺たち人間種。

 二つ、亜人種。エルフやドワーフなど、人間に近い外見を持つが、人間ではない種だ。

 三つ……魔人種。人類と長年敵対する種族。これについては情報がない。ただ人類の敵だとしか今まで教わってこなかった。

 


「――なんて知識にはあっても見たことはなかったからなぁ」



 俺はスタンビークに来てすぐにとった宿の窓から外を見てぼやく。


 街を行きかう人々。


 だが、注視すると人間種ではない者が幾人か混じっていた。

 

 耳が異様に長い者。

 頭の上からぴょこんと動物の耳を生やしている者。


 初めて見たがアレが亜人種というやつなのだろう。


「なんか少し感動しちゃうなぁ。これぞ異世界ってやつじゃあないですか」

「今更それを言うの?」


 傍らで呆れたようなため息をつくルゼルス。

 現出限界時間は――もうそろそろか。





「やっぱり前世の記憶が足を引っ張ってるのかね。なーんか異世界っていう認識になっちゃうんだよ」

「そういうものなの?」

「そういうもんなんだよ」


 この感覚は当人でなければ分かるまい。


 と、そう言っていた矢先だった。


 視界に例のシステムメッセージが浮かぶ。


『災厄の魔女、ルゼルス・オルフィカーナを召喚してから24時間が経過しました。

 召喚が解除されます』


「あら?」


 ルゼルスの体が……光の粒子となって消えてゆく。


 これで……しばらくお別れか。



「ありがとな、ルゼルス。何から何まで助かったよ」

「ふふ、いいのよ。それより、道中私に言ってくれたこと、果たしなさいよ?」

「ああ、ルゼルスは俺のパートナーだからな。すぐに限定召喚で呼び出す。構わないよな?」

「ええ、もちろん。むしろ、呼び出されなかったら悲しいわ」


 アスレイク領からこのスタンビークに来るまでに、ルゼルスと二つ、約束事をした。


 一つ、これからも毎日ルゼルスを限定召喚で呼び出す事。


 二つ、いつか永続召喚でルゼルスを呼び出す事。


 この二つの約束をした時、ルゼルスはとても喜んでくれた。


 ちなみに、アスレイク領からスタンビークまではルゼルスの飛翔魔術で飛んできたのだが、その間、俺は彼女にお姫様抱っこされていた。


 なので、彼女が喜ぶなかお姫様抱っこをされている俺と言うゲームであれば誰得? みたいな展開があったのだけど……まぁ細かい事はこの際考えないでおこう。



「それじゃ――」

「ええ――」


 そうして彼女は――――――消えた。


 跡形もなく、痕跡すら残さず消えた。


「分かっていたこととはいえ……少し寂しいな」


 彼女のぬくもりを感じられない。

 彼女の吐息を感じ取れない。




 たった24時間、行動を共にしただけなのにそれほどまでに俺はルゼルスに『恋』をしていた――




「さて、それじゃあやりますか――限定召喚、対象はルゼルス・オルフィカーナ」




 職業クラスを授かってから毎日無意識に限定召喚していたルゼルスを今度は己の意志で、言の葉を紡いで呼び出す。


『イメージクリア。召喚対象――ルゼルス・オルフィカーナ。

 限定召喚を実行――――――成功。

 MPを5消費し、災厄の魔女、ルゼルス・オルフィカーナの精神を24時間召喚します』



 視界に映るシステムメッセージ。

 召喚は成功したようだ。

 そして――



『――ん』



 頭に響く彼女の声。

 まるで、まどろみから冷めたかのような声だった。だから――



「おはよう、ルゼルス」



 俺は虚空に向かって笑いかける。



 『……おはよう、ラース。今は誰も居ないからいいけど気をつけなさいよ? 正直、誰も居ない場所に笑いかけている狂人に見えてしまうわ』


「うるさいな!!」


 まったく、数秒ぶりとはいえ再会のシーンなんだからもう少しなんかこう……あるだろう。


『ふふ、ごめんなさい』


 くすくすと笑うルゼルス。

 どう聞いても悪いと思ってない。

 まぁ、ルゼルスはこんなキャラだしいいんだけどさ。



「それじゃあ……行くか。ギルドってやつに」

『ええ』


 そうして俺は、ルゼルスを永続召喚させるMPを稼ぐために『ギルド』に向かった――

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る