第7話『やりすぎた』
悪を二人狩った。
審判と言う名の悪を斬り伏せ、先ほどライルという名の悪も断罪した。
だが……まだだっ!
悪の校長はどこだっ! 悪を守ろうとし、私を殺そうとした悪。悪は滅ぼさなければならないっ!
だが、今の騒ぎの間に校長という名の悪はどこかに逃げてしまっていた。
探す。
探して……断罪する!!
そうして歩を進めた時だった――
「待ちなさい、ラース」
私の行く先を阻むルゼルス。
この私を……止めようと言うのか。
ならば貴様は悪――
――違う。ルゼルスは俺を救ってくれた。
俺の大好きなラスボスなんだっ!
「ぬっ?」
頭が……痛い。
なにかが私の邪魔をしている。
なんだ……これは?
「ラース。あなたなら……二年間、孤独という地獄を歩んできたあなたなら……私の、私たちの精神に呑まれないと信じているわ」
「女、貴様、何を――」
まったく、言ってくれるなぁ。ラスボスの個性って半端ないのに――
「ぐ……ぬぅっ!」
なぜだ。
目の前の女が悪なのか分からなくなる。
それどころか、これ以上なく愛おしく感じる?
「まぁ、初めての憑依召喚にしては上出来よ。解除は出来るかしら?」
「やって…………みる……」
!?
私は何を言って――
「憑依召喚……解除」
『憑依召喚を解除します』
目の前にそんな文字が現れ――――――俺は、戻ってきた。
「お帰りなさい、ラース」
そうして手を広げて俺を迎えてくれるルゼルス。
しかし――
「………………いや、お帰りなさいじゃないよね?」
どう考えてもやりすぎなこの現状を見て、俺はため息をつくのだった。
★ ★ ★
あの後、俺とルゼルスは学校から飛び出した。
元々は学校を辞めない為にと受けたライルとの試合だったが……他ならぬ俺のせいで大惨事となってしまった。もう戻れないだろう。
ライルを斬った事は問題ではない。試合だったのだから罪に問われることはないはず。
だが、審判を斬り伏せた事。アレは大問題だ。確実に罪に問われる。
今頃、俺は無関係の人を斬った凶悪な犯罪者として多くの人に認識されている事だろう。
明日には指名手配なんかされているかもしれない。
幸い、町の人は学校で何か事件が起きた。程度の認識みたいで俺の顔を見ても普通に対応してくれたけど、それも時間の問題だろう。
「やりすぎなんだよぉ
自身(斬人)がやらかした事に頭を抱えずにはいられない。
ゲーム『バビロンシティ』のラスボス、斬人。
作中では数十億の悪を斬った正義の狂人だ。
そんな彼がたった二人の悪を斬っただけで終わってくれたのはある意味ラッキーと言えなくもないかもしれないが……。
「まぁ……過ぎた事をぐちぐち言っていても仕方ないか……。明日までにここを出れば問題ないだろ。学校は辞めることになるけどもう必要ないし」
冒険者学校に通う事に固執していた俺だが、もうあそこには未練もなにもない。
というのも――
「ラース、この学校を退学なさい。私があなたをもっと強くしてあげるから。この学校であなたが得られるものなんて何もないわ」
とルゼルスが諭してくれたからだ。
確かに、あの学校で学ぶことはもうないか。
ラスボス召喚についてある程度把握した今ならどんな危険な魔物とも戦える気がする。
学校の保有するダンジョンに固執する理由はもうない。
しかし――
「記憶を取り戻すまでは役にたたないって嘆いてたけど……今思ったらこれ絶対チートだよなぁ」
ラスボス召喚術の詳細を見てぼやく。
俺の知っているラスボスは、基本的に化け物じみた強さだ。
いやまぁ、ラスボスなんだから強いのは当然なのだが……
そのラスボスを召喚し、使役するなんてチートにも程がある。
なにせ、キャラによっては単体で世界そのものさえ滅ぼしてしまいそうな奴だって居るのだから――
そう、例えば――
「私、かしら?」
「ホント、俺の考えていることは全部筒抜けなんだな。いや、構わないけどさ」
冒険者学校を飛び出し、同じアスレイク領にある適当な宿でくつろぐ俺とルゼルス。
本当はもっと遠くまで逃げたい所だけど、その前に彼女と話し合う時間が欲しかったのだ。
「さて、正直分からないことだらけなんだけど――」
「待ちなさい」
俺が気になっていることを聞こうとするとルゼルスはそれを手で制した。
「私はあなたの召喚物よ? あなたが気になっている事なんて手に取るように把握できているわ。だからわざわざ聞かなくても全部教えてあげるわよ」
「ああ、そういえばそんな事を言ってたっけか。こういう時は便利だな」
プライバシーを侵害しまくってるけど。
「ふふ、でもあなただって私の事を全部知ってるでしょう? それこそ性格から過去、体のサイズだって正確に把握しているくせに――」
「ぐっぬぅ――」
事実だからこそ言い返せない。
俺はラスボスが大好きだ。
中でも特に好きなのが……このルゼルス・オルフィカーナだった。
世界を敵に回してでも願いを叶えようとする信念。
女の身でありながら優雅に戦う彼女の姿を見て……主人公なんかよりよっぽど惹かれてしまった。
だからこそ俺は彼女の設定資料なんかを何度も読み込んでしまい、遂には暗記してしまうまでになってしまったのだった。
それは前世の記憶を引き継いだ今だって変わらない。
世界を渡っても覚えているとは……俺のラスボス好きも相当なものだな。
「本当にね。それに、今日私に助けられて『好きだ―』っていう想いが強くなっちゃったものね?」
「うぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
宿のベッドにダイブし、その枕に頭を押し付ける俺。
いや、これなんなの? 新手の虐め? 好きな相手に自分の心がモロバレなんてどんな羞恥プレイですか?
このままじゃ恥ずかしすぎて死んでしまいそうだよ。
「あら、それは困るわね。それじゃあとっとと話すとしましょうか」
そう言ってルゼルスは俺が疑問に思っていたことを語ってくれた――
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