第8話『召喚士は攻略対象を定める』
「まず、私はルゼルス・オルフィカーナというキャラクターだけど、厳密にはもうそれとは一線を画した存在よ」
「どういう事だ?」
「あなたの記憶を得た事で少し変異してしまったのよ。確かに私にはルゼルス・オルフィカーナとしての記憶がある。その力だって自在に使いこなせる。だけど、同時に私はあの世界がゲーム『レッドアイズ・ヴァンパイア』のものなのだと理解してしまっているの」
「あ」
そうか。
俺の記憶を得る。
確かに、それだけで俺の知るルゼルス・オルフィカーナという存在は成立しなくなってしまう。
なぜなら――
「私はあの牢獄のような世界を壊し、世界を再生しようとした。でもね、それがゲームの世界だと知ってしまったら――なんだかやる気が削がれちゃったのよ。あなたの記憶を得て、それが無駄だって分かっちゃったしね」
肩をすくめて笑うルゼルス。
確かに、こうまで割り切れるルゼルスはゲームのルゼルス・オルフィカーナとは一線を画した存在なのかもしれない。
まぁ、それでも――
「好きな事には変わらないけど――ねぇ。ふふ、そう想われてしまうと照れるわね」
「~~~~~~」
思った事をピタリと当てられ顔が熱くなる。
赤面している自信があるよこんちくしょう。
いつか絶対に逆襲してやるっ!
「ふふふ、楽しみにしてるわね」
そうして不敵に笑うルゼルス。
ああ、やっぱりかっこいいなぁ。かっこいい上に可愛いなんて反則だろホント……
なんて思っていたらまたからかわれそうなので、意識を無理やり切り替える。
なにせ――時間は残り少ないのだから。
「さすがラースね。そう、私がこうしてこの世界に現出できるのも……残り18時間くらいかしら」
「ああ、もう6時間くらい経っているのか」
宿屋の木製時計が23時を指す。
俺たちが言っている時間――それはルゼルスを召喚してからの時間だ。
俺の視界に映った文字にはこう書いてあった。
『イメージクリア。召喚対象――ルゼルス・オルフィカーナ。
永続召喚を実行――――――失敗。MPが不足しています。
続いて通常召喚を実行――――――成功。
MPを1000消費し、災厄の魔女、ルゼルス・オルフィカーナを24時間召喚します』
ルゼルスの召喚を願った俺に対しての機械的な処理。まぁ、ここはシステムとしておこう。
まず、システムは永続召喚を試みようとした。
だが、俺があのとき保有していたMPは1223。
それに対して、永続召喚に必要なMPは100000。圧倒的に足りていない。
そこでシステムは次にコストの高い通常召喚を施行した。
通常召喚に必要なMPは1000。俺が今まで貯めに貯めたMPでなんとか足りる量だ。
だから召喚は成功し、ルゼルスは俺の目の前に現れた。
さて、ここで重要なのは俺がやったのが永続召喚ではなく、通常召喚だという点だ。
永続召喚ならば永続的に召喚出来るみたいなのだが、通常召喚では24時間しか召喚していられない。
なので、通常召喚によって呼び出されたルゼルスにはこの世に現出していられるタイムリミットがあるのだ。
「そう言えば――」
と、そこでルゼルスが語ってくれた中でどうしても理解できないものがあったのを思い出す。
ルゼルスは言った。『いいえ。分かるわよ。大丈夫よラース。なにも言わなくても大丈夫。私はあなたの盾であり、剣であり、理解者でもある。この二年の間、ずっとあなたを見てきた。あなたの前世だって知ってるわ。だから、何も言わなくてもいい』と。
だが、このセリフの中でどうしても理解できない点がある。
それは『この二年の間ずっと俺を見てきた』という所だ。
このセリフは……おかしい。
俺がルゼルスを召喚したのは今日が初めてだ。
なのに、二年間ずっと見てきた?
正直、意味が分からない。
そうして考え込んでいる俺にルゼルスは答えを示した。
「それは思い違いよ、ラース。あなたは無意識にだけど私を毎日ずーっと召喚していたのよ。あなたが
「なんだって?」
俺がずっとルゼルスを召喚していた?
そんなMPが俺にあるわけがない。
そもそも、今日まで俺はルゼルスの姿を見たことはない。
ルゼルスの力なら俺からずっと隠れることも可能だが、それをする意味もないはず。
だが、ルゼルスが嘘を言っているようには見えない。
そこで……思い出す。
限定召喚→必要MP:5(24時間の間、指定したラスボスの精神のみを召喚出来ます。
※被召喚者と会話することが出来ます)
「限定召喚か……」
「ご名答」
精神のみを召喚し、会話するだけの召喚術。だからこそ、必要MPも5と低いのだろう。
確かに、俺のMPは毎日決まって5消費されていた。
あれは、俺が無意識にルゼルスを限定召喚していたからだったのか。
「もっとも、会話は出来なかったけれどね。前世を思い出していないあなたのイメージはしっかりしていなかったから。それでも、少しは私の声が届いていたんじゃない?」
「それは――」
そう言えば、俺が諦めたい。死にたいと思った時、聞き覚えのない声が聞こえて来ていた。
あれは、ルゼルスの声だったのか。
そうか――
「俺は、ずっとルゼルスに救われてきたんだな。ありがとう」
素直に頭を下げ、礼を言う。
当時は俺を生かそうとする呪いだと蔑んだが、今は心の底からあの時、諦めなくて良かったと想える。
だって、そのおかげでこうして俺はあの『ルゼルス・オルフィカーナ』と対面出来ているんだから――
「あなたの事は好ましく思っているわ。子供の頃からずっと見てきたのだからね。これが母性と言うものかしらね?」
そう言ってくすくすと笑うルゼルス。
母性……か。
そう言われるとなんだか複雑だ。
「男としても少し魅力的だけど……今後に期待ね。せいぜい頑張りなさいな。『坊や』」
「~~~~~~」
まだまだ子供扱いしかされていなくて悔しい。
だけど、無理もない事だとも思う。彼女は千年の時を生きた魔女だ。この俺に好意を持ってくれているだけありがたいと思うべきだ。
それに、まだまだ時間はある。
絶対に――ルゼルスを落とす。
俺はそう誓った。
「楽しみにしてるわよ。ふふふふふふふふ」
そんな俺の誓いも、ルゼルスにはお見通しなのが少し締まらなかった――
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